第65話 死霊魔導師は間に合うか。
影の居住空間から飛び出した俺たちは、階段をかけ下りた勢いのまま、聖女たちのいる通路へ。
そこで目に入ったのは、聖女が膝をつくところだった。
まだ大丈夫とか考えていた、少し前の自分に文句を言いたい。
外へと続く階段から、聖女たちのところまでは十数メートル。
レベルの上がった俺たちにとって、無いにも等しい距離だ。
大丈夫、まだ間に合う。
聖女のアヤメちゃんが力を出し切った身代わりの回復で、女勇者のナオちゃんの動きも衰えた様子がないのが救いだ。
緊迫した状況にはかわりないが、冒険者としてのマナーは外せない。
すぐにヒールショットを撃ち放てるように、十数発分の魔力を集めながら、助太刀のため声をかけた。
「加勢しますよ! ヒールショット!」
急停止して、半分事後承諾っぽいが、聖女たちの返事を聞く前に、ゴブリンへヒールショットをばら撒く。
「物理結界! くらえファイアーアロー!」
すぐに追い付いてきたヘルヴィも、聖女たちを含めた俺たちを、通路いっぱいのドーム型をした結界で覆い、属性攻撃魔法を撃ち始める。
「ゴブリンなんてスパスパしちゃうからねー! やあっ!」
セレスも負けじと漆黒のダガーを振るい始めた。
「あ、ありが! とう! た、助かります!」
俺たちが加勢して少し余裕ができたのか、ナオちゃんが、息を弾ませながらもお礼を言ってくる。
「こんな時はお互い様だよーっと! とわっ!」
「おい! ホブゴブリンが奥に見えてきたぞ! 気を抜くなよ! ファイアーアロー!」
ホブゴブリン? ……本当だ。
武器持ちのゴブリンだけになったなと思った所なのに……そろそろ俺も動かなきゃな。
これまで聖女たちが倒した、レイスに成り立てで、まだ形も何もない元ゴブリンたちに死霊使役をかけていく。
そこにデバンの念話が届いた。
『主よ、トリューガーたちが迫ってきてますぞ』
目の前のゴブリンやホブゴブリンに取り憑かせようとしたのに、歓迎できない客が来るとか勘弁して欲しい。
ここは作戦を変更した方がいいだろう。
黒く細い魔力の糸を、次々とレイスと結び付け、使役と同時に通路の奥へ進ませる。
直線のつきあたり、その先へ向かわせ取り憑かせる作戦だ。
それともうひとつ、奴らが階段を下りてくる前にやっておくべきことがある。
「セレス、ヘルヴィ、フードを被って! 早く! 奴らが、トリューガーたちが来る!」
「なんだと! わかった、セレスも早くするのだ!」
「もー! 今いい所なのに! 覚えてなさいよねっ!」
二人はいい。
だが、俺も猫耳フードなのは少々違うんじゃないかと思わなくもない。
が、この状況だと顔を隠せるのはありがたい。
三人ともフードで顔を隠してすぐに、背後から奴らの声が聞こえてきた。
加勢なんてまったく期待はしないが、最悪の状況になった時に備えて、外に知らせるくらいはして欲しい。
「いたぞ! ってなんだよこれは! なんでこんなにゴブリンがいるんだ!」
「トリューガーさん! ヤバいですよこれ、ホブゴブリンがいますよ! こんなのスタンピードですよ!」
「スタンピードだと!? だが、あの女どもが!」
「諦めましょう、絶対死にますって! トリューガーさん逃げないと、こんなの絶対に無理ですよ!」
「そうです、こんなの闇騎士団総出でもヤバいですって!」
「チッ! あの女はもったいないが、スタンピードごときで無駄死にしてたまるか! モーブ、モップ、行くぞ!」
これは報告も期待できないか。
『主よ、いかがなさいますか、このままトリューガーの監視を続けるか――』
『監視でお願い、ジェイミーがダンジョンコアに向かったからスタンピードも落ち着くからね』
先に進めたレイスたちも順調に数を増やしている。
そのお陰か通路の先から現れるホブゴブリンたちの数も目に見えて減ってきた。
『わかりましたぞ、それではご武運を』
念話が終わると同時に、トリューガーたちの気配が消えたのを機に、意識を前方へ集中させる。
「結界が切れるぞ! すぐ張り直すが油断するな!」
パリン、と結界が砕けた瞬間に、張り付いていたホブゴブリンたちがなだれ込んでくる。
「了解だよっと! たぁ! せやっ!」
「わかった! 任せて! ヒールショット!」
ヒールショットの弾数を増やし、連射速度を上げたその時――
「きゃっ――」
「ナオちゃん!」
「ナオちゃん!」
押し寄せるホブゴブリンの勢いに負け、ナオちゃんが攻撃を受けてしまった。
体の至るところへホブゴブリンのこん棒が次々と振り下ろされる。
「くうっ! このっ! あっち行け! いぎっ!」
マズイ、身代わり回復でへたり込んでいる聖女のアヤメちゃんの回復は望めない。
さらにはセレスやヘルヴィ、俺への攻撃が効かないのを知ってるような動きでアヤメちゃんとミズキちゃんの方へ向かいだした。
「なんだと! 結界が間に合わん! ネクロウ!」
「ちいっ! お前らの相手はこっちだろ! ジム!」
『了解』
ナオちゃんが押し倒され、攻撃手段の無いミズキちゃんがアヤメちゃんの前に出て、体を盾に立ちふさがる。
が、多勢に無勢、一瞬で三人が見えなくなった。
「いやぁああああ!」
「やめてぇえええ!」
「来るなぁあああ!」
「――ヒィィールッショットォオオオオ!」




