第63話 死霊魔導師は見学することにした。
「怖がることはない、俺様はトリューガー、シュヴェールト最大の冒険者クラン、闇騎士団団長を任されている」
トリューガーは髪を撫で上げ、聖女たちの品定めでもしているのか、三人へ交互に値踏みするよう視線を向けていた。
というか、ニヤケ顔が気持ち悪いなコイツ……。
聖女たちが襲われると聞いて急いできたが、とりあえず今はまだ大丈夫のようだ。
……が、問題はその相手なんだよな……。
こんなところで監視対象同士が重なるとは思わなかった。
別々の要因で監視してもらってたのに、こんな偶然は嬉しくない。
聖女たちは、座る店の端にあるテーブルに座り、それをトリューガーたち三人が取り囲むようにして話しかけている。
それはまるで逃げ道を塞ぐように見えた。
召喚された経緯を聞いて、聖女たちにはこのままなんの障害もなく元の世界へ戻れるようにしてあげたい。
特にトリューガーのような奴らに捕まるような事態にはなって欲しくない。
人を拐うにしても、こんな人目のあるところで普通やるのか?
「女性三人だけでダンジョンに潜ると聞こえたからな、俺様と闇騎士団のモーブとモップ、この三人が一緒に行けば安心できるだろ?」
あ、これはアレだ、お酒も飲める食事処で、いわゆるナンパしているってことか。
『主よ、こ奴ら眠り薬で女を拐かす計画を立てていたのだ』
は? ナンパかと少し安心しかけていたけど、トリューガーたちの性根は変わらないようだ。
『標的、聖女たち』
ここで二組が会ったのは、狙ってではなくただの偶然。
だが、やろうとしていることは聖女たちを拐うってことだ。
助けた子供たちもそうだけど、人を拐うなんて許されることじゃない。
「だ か ら 断ってるでしょ! あまりしつこいとモテないよおじさん」
「アヤメの言う通り、おじさんなんかの手助けとか必要ないし!」
……というか、アヤメちゃんとミズキちゃんって、中々言う方だな。
トリューガーたちも二人の勢いで少し腰が引けている。
……これ、助けなくても大丈夫じゃないか?
聖女に時空間魔導師、それに女勇者だ、生半可な相手なら負けることは無いだろう。
……いや、よく見ないとわからなかったが、三人とも小刻みに震えているのがわかった。
気丈に振る舞ってはいるけど大人三人に囲まれたら、そりゃ怖いよな。
今俺たちが表に出るのは、あの御方が何者かを突き止めるために遠慮したいが……。
……いざとなったらそんなことも言ってられない。
……よし、本当にヤバくなったら、トリューガーたちに気付かれる前に気絶させよう。
「だーかーら、しつこいっておじさん、話聞いてる? 手助けとかまったく必要ないの」
「アヤメ、おじさんだし、耳が遠いんだよきっと、あ、もしかしておじさんってお爺さん?」
「アヤメもミズキも駄目だよ、おじさんおじさんって、おじさんたちに失礼じゃないかな? それにこのおじさんたちと比べられたらお爺さんが可哀想だよ」
女勇者、確か……ナオちゃんだったっけ、君も完全におじさんって言ってるし、二人よりもっと毒舌だからね。
「まあまあ、そんなに警戒しなくても大丈夫だ。俺様はAランク冒険者であり、このように容姿も整っているからな、突然話しかけられれば誰しも最初は緊張するものだ」
……いや、この状態で自分の容姿が整っているとか、ナルシスト通り越して、ある意味尊敬できるレベルだよ……。
トリューガーたちが、『真っ当な冒険者』なら応援したくなるレベルだし……まあ、しないけどな。
「はあ……おじさん鏡見たことある? 見たことあって本気でそれ言ってる?」
聖女のアヤメちゃんの毒舌が止まらない……。
「容姿が整ってるって? ……いや、少なくとも私たちの好みじゃないわね」
ミズキちゃんもしっかりと言い返しているが、ここになってナオちゃんだけは二人のことを見ておろおろしてる。
「は、はは、中々元気なお嬢さん方だ。気に入った。そうだな、お近づきの印に一杯奢らせてくれ」
ピクピクと、ひきつった笑顔でなんとか体裁を保つトリューガーだが、握り込まれた拳がプルプルと震えている。
飲み物か、デバンに聞いた通り、眠り薬を仕込もうとしているのだろう。
「モーブ、モップ、お嬢さんたちと俺様たちの分を買ってこい、わかってるな?」
「任せてくださいトリューガーさん、この店一番のヤツを買って来ます。モップ、ついてこい」
その様子をニヤニヤしながら見送るトリューガー。
だが、それを見逃さず、モーブたちがバーカウンターへ向かってすぐにアヤメちゃんたちは席を立つ。
「ナオ、ミズキ、もう行こ、こんな奴らに付き合ってられないよ」
二人分の壁が無くなった隙をついて、ニヤつくトリューガーの横をすり抜けあっという間に店を出ていった。
「やるな」
言いたいことだけ言って隙を見逃さず、まったく無駄のない見事なナンパ回避に、正直勝手に称賛が口から出てた。
「おおー、やるねー、アヤメちゃんたち中々強そうだよー」
「中々やりそうだな、Aランクのトリューガーに反応させないとは、レベルは相当高いと見た」
セレスとヘルヴィの評価も高そうだ。
だが、突然逃げ出したことに呆気に取られていたトリューガーの顔が真っ赤に染まっていく。
食事処はナンパに失敗したトリューガーたちに向けて――
「おいおい逃げられてるぞ、Aランクさんよー」
「俺様は! キリッ……ぶはははは! 安心できるだろ? キリッ……ぶはははは!」
「色男ー、逃げられた三人分の酒は貰ってやるぞー」
「成功に銀貨一枚賭けたんだぞこの野郎! 逃げられてんじゃねえぞ!」
中にはトリューガーの物まねをして笑うものたちまで。
トリューガーだけじゃない、モップとモーブの二人も恥ずかしさではなく、怒りで顔を赤く染め上げている。
『ジムは聖女たちをお願いね、すぐにそっちに合流するから』
『了解』
『デバンは、人気がなくなったところで眠り薬を頼む』
『お任せを。ジェイミー』
『わかってるっす団長殿、人気の無いところにもすぐに行ってもらうっすねー』
『え?』
念話でジムとデバンに指示を出したが、誘い出すのはジェイミーのようだ。
ジェイミーならおそらく……。
『腹下しで一発っすよー』
だよな。
なら、こっちは問題ないとして、聖女たちを見に行くか。
「また見えた! なんで腰巻きだけなのよ!」
「きゃぁあああ! こっち来るなー!」
「アヤメ、ミズキ、私に任せて! たぁっ!」
トリューガーたちの足止めを指示したあと、聖女たちを宿屋に着くまで監視かなと思っていた。
まさかその足でダンジョンに飛び込むとはおもっていなかった……。
そこでわかったことがある。
単純に強い。
現状一人、女勇者ナオちゃんだけが戦っているんだが、まったく危なげない。
ゴブリンたちの格好は、まあ、気持ちはわからなくもないが、一階層でこの大騒ぎか……。
これ、影転移で召喚の魔法陣まで連れていった方がいいかも……。
「おおー! 叫んでたら向こうから来てくれるんだ!」
「セレス、次から叫ぼうとか考えていないだろうな……頼むから止めてくれ、面倒過ぎるぞ」
一階層のゴブリンのすべてが、叫び声に集まってきたと思えるほど、聖女たちの前にある通路はゴブリンが犇めいていた。




