第59話 死霊魔導師の嫁候補?
最高の晩餐だった。
そうジャンクフードの王様的ハンバーガーは美味かった。
セレスの腕もあるだろうが、味は完璧に記憶にあるハンバーガーそのもの。
バンズを用意できなかったのが残念だが、バターロールっぽいパンで挟んだのもよかった。
「はーいテリエちゃん、おかわりはまだあるからいっぱい食べてねー」
そう言ってテリエの頭を撫でているセレス。
見た目は高学年ほどのテリエだが、セレスは年齢通り中学年の見た目だ。
そもそも初対面で、しかも年上の者にすることではない。
実際問題千年は確実に年上の者に対する態度ではないだろう。
「うむ、いただこう。千年ぶりの食事に、このような見たこともない美味なものに出会えるとは、気に入ったぞ」
頭を撫でられていることを、まったく気にしていないテリエの言う通り、確かに美味い。
美味いが……まあ、本人が気にしていないし、いいってことにしておこう。
それよりも気になることがある。
テリエに食事が必要なのかがわからない。
そもそもアンデッドだから必要ないのだ。
魔力をその身に取り込めば済む話である。
現にデバンたちは俺から魔力を供給するか、魔石を取り込んで糧としている。
ジェイミーに聞いてみると、食べられないわけではないが、味もしないし食事はまったく必要ないそうだ。
それなのにテリエは本当に美味しそうにハンバーガーを食べている。
謎だ。
「ネクロウはおかわりもういいの? なくなっちゃうよ?」
「え? ちょっ! もうなくなるじゃないか! テリエ、食べすぎだろ!」
山のように積まれていたハンバーガーが、少し目を離した隙に残りわずかになっている。
手早く二個のハンバーガーを確保して、口に運ぶと懐かしさが込み上げた。
これも聖女たちのお陰だな。
特に時空間魔導師の功績は計り知れない。
商隊の馬車に隠れ移動している目的はわかっていないが、前世の食事が見れるのはありがたすぎる。
この世界の舌にも合うようだしな。
一口食べては頷き、ソースのレシピを書き留めながら食べるヘルヴィ。
覗くと、ハンバーガーのケチャップを再現しようとしているようだ。
歯形のついたハンバーガー片手に、かいがいしくテリエのお世話をしているセレス。
リスのように頬をふくらませ、両手のハンバーガーを口に運ぶテリエ。
こうして見ると、セレスの方がお姉さんに見えてくるからおかしなものだ。
食事が終わり、テリエに疑問だったことを聞こうとしたんだが、片付けを手伝っている内に寝てしまっていた。
「テリエちゃん、お腹ぽんぽこだねー」
大の字で寝ているテリエのお腹は、セレスの言う通り膨らんでいる。
寝息と共に上下するお腹。
食べてる夢でも見ているのか、もにゅもにゅと口が動いていた。
「くくっ、まるで子でも孕んだようだな」
千年も封印されていたんだし、それはないだろう。
アンデッドが妊娠して増えるとか、聞いたこともない。
「ところでネクロウ、このテリエが新しい仲間になったのだよな?」
「うん、ちゃんと魔力が繋がっているから使役状態だよ」
「魔法が得意なんだよね? いいなー、私もバババン、って魔法使いたいのにー」
「魔法職、それも賢者とはな、中々お目にかかれない職業の仲間とは心強い」
「うんうん、それに可愛いよねー、テリエちゃん。生きてたら第三夫人候補なのにねー」
いやいやいやいや、セレスとヘルヴィの二人で十分だからな。
貴族の奥さんが二人とか、よくあることだけど、三人以上は高位貴族でも滅多にない。
陛下でさえ、あのほんわかした王妃殿下一人だけしか奥さんはいない。
通常なら跡取り問題で、側室を迎えるのだが、六人もの子宝に恵まれたので、必要ないとのこと。
「そうだな、我の夫となるネクロウの妻になる資格は間違いなくある」
「しないからね」
「うんうん。テリエちゃんを見てると、なんだかわたし、お姉さんになった気がするから賛成だよ」
「セレス、テリエの方がお姉さんな、それに二人がいるのにテリエまで妻に迎える気はないからな」
そんな話を続けている内に夜も更け、商隊の夜警をジムとジェイミーにお願いして寝ることにした。
ゆっくりとした行程で、何事もなくダンジョンの街に到着した商隊。
数日監視していてわかったことがある。
このダンジョンの街が聖女の目的地だってことだ。
シュテルネでもっとも深いダンジョンに潜りたいらしい。
現在確認されている召喚魔方陣は5ヵ所。
陸路で行けるところは聖国にあるものと、ここ、ダンジョンの街にあるダンジョンの中だ。
聖女たちは、そこに現代へ帰る手がかりがあると信じている。
聖国にある魔方陣で調べられていたならここまで来ることもなかっただろう。
だが、口々に吐き出された愚痴は酷いものだった。
聖国がそんなことをするとは思いもしないことを聞き、耳を疑ったほどだ。
聖女たちは聖国に召喚されたあと約半年、良い待遇とはかけはなれたあつかいだったらしい。
窓すらない地下の一室に、ほぼ軟禁状態。
さらには召喚によって手に入れた力を使うよう強要されていたそうだ。
当然断ったりサボれば食事抜きは可愛いもので、ムチで躾といいながらの体罰まで。
その強要生活の半年があったお陰で、手にした力の使い方をマスターできたのだが……。
もう一つ、強要されていたとはいえ、献身的に任務をこなしていたこともプラスに動いた。
今回の聖国脱出に協力してくれる仲間たちに出会えたからだ。
三人が揃って任務にあたった日、見事に護衛という名の監視の目を盗み、聖国を脱出して今ここに至ってる。
召喚に『罪のない命』が使われている時点で聖国は潰したいと思っていたが……。
さらに理由が増えたな。
聖女たちが現代へ戻るためにも『罪のない命』が必要なら協力はできないが、まだそうとは決まっていない。
まずは無事に魔方陣へ行けるよう影から手伝うくらいはしようと決めた。
聖女たちは数日休んだあと、ダンジョンに潜る予定だ。
引き続きジムに護衛と監視を任せて、俺たちはトリューガーとキンダフィッカを見張ることにした。
その前に話くらいは通しておこうと、ヘルヴィの案内でやって来た屋敷にいたのは――
「いらっしゃい、ヘルヴィ、元気そうで何よりだよ」
「兄上こそ元気そうだな、怪我なんてしてないだろうな」
ダンジョンの街で軍事訓練中と聞いていた第三王子殿下だった。




