第58話 死霊魔導師と意外な真実。
カチリ、と中々ハマらなかったピースが、本来あるべき位置に吸い込まれたような気がした。
細く繋がっていた魔力の糸がぐんと力強く太くなったのを感じる。
「よし! あとは鎖を引き剥がすだけだ! ヒールショット!」
柱から伸びる鎖に向けて連写ではなく、多めの魔力を込めた四つのヒールショットを放つ。
ギギン、と高い金属音をたてるが砕けはしない。
「まだ足りないなら、砕けるまで魔力を込めるだけだ!」
王都のダンジョンで、ミノタウロスに放ったヒールショットと遜色ない魔力を込めていく。
「まだ足りない!」
ひとつが直径一メートルほどまで魔力を込めたが、このままなら細い鎖に当てても威力が分散されるだろう。
追加の魔力も当然のこと、次の段階はヒールショットの圧縮だ。
大きなヒールショットが半分の大きさになり、さらに圧縮し、手のひらで覆い隠せるほどまでになった。
数センチにまで圧縮された四つのヒールショット。
魔力を込めすぎたからか、まわりの空気が揺らめいている。
今俺にできる最大の攻撃魔法だ。
右手を前に突き出し、左手で手首を掴み慎重に狙いを定める。
「行けっ! ヒィィィールッショットォオオオっ!」
四つ同時に撃ち出されたヒールショットは、狙い正しく鎖に向かい、撃ち抜いた。
かに見えたが、放ったヒールショットは鎖があったところを通り抜け、地面と奥にあった木を貫き見えなくなった。
「……は? 鎖が消えた?」
『ただいまーっす。……あれ、主? そんな格好で何してるっすか? ……あ、主、その……すごく格好よく決まってるっすよ?』
……そうだった、何も鎖を砕かなくてもよかったんだ。
ちょっと熱くなって完全に忘れてたけど……。
ジェイミーも、そんな俺のやってたことを感じ取ったのか、褒めてはくれたけど……。
できればダンジョンコアを壊すのは、あと少し待っててもらいたかった。
王都の時は、むしろ遅いくらいだったのに……。
そっと、行き場なく付き出していた右手と、支えていた左手をそっとおろした。
「ふう、ところでこれ、どういう状況だ?」
恥ずかしさのあまり赤くなっていた顔から熱が引いた。
山場は越えたが、肝心のテリエが俺の魔力に包まれたまま動かない。
四本の柱は、ジェイミーが戻ってきた時に崩れ始め、今は見事な瓦礫の山だ。
もうテリエを縛るものは俺との繋がりだけ。
だから動くことも、話すこともできるはずなんだが……。
『主、これで……魔王を仲間にできたってことっすか?』
「そのはず、なんだけどな。テリエ、どうしたんだ、動けないのか?」
あまりに動かなさすぎて声をかけたが返事はない。
「仕方ない、一度戻ろうか、セレスたちも待ってるだろうし」
『そうっすね、しっかり主と繋がってるっすから、放っておいてもそのうち合流してくるっすよ』
「そうだよな」
合流、してくるよな?
浮いたまま微動だにしないテリエを包んだ魔力の玉。
触ってみてもなんの変化もない。
『それと、ダンジョンコアはどうするっすか』
「それがあったか」
ジェイミーが真っ二つに切ったダンジョンコアを差し出してくる。
これをくっつければ、この場所にあったダンジョンが復活して、俺がまたマスターになるってことだ。
立地的には王都からも近く、悪くない。
王都の食肉のような、生活に有用な物を手に入れられるダンジョンにすれば冒険者の稼ぎどころになる。
……陛下に相談した方がいいな。
「一旦保管しておこう。みんなとも相談したいしね。じゃあ、戻ろうか」
『了解っす。ちょっとやりたいことがあるっすから、先に行ってて欲しいっす』
「なんだ? また、面白そうな薬草でも見つけたのか?」
「そんなところっす」
「あまり遅くなるなよ」
ジェイミーと、瓦礫の上に浮いたままのテリエを残し、影の居住空間への入口に沈み込んだ。
誰かが来たとしても、死霊魔導師以外にはおそらく見ることすらできないだろう。
魔力に敏感な者なら怪しむかもしれないが、致命的な問題はないだろう。
……今度はどんな悪戯用の見つけてくるんだろうか、ちょっと楽しみでもある。
「あ、おかえりネクロウ! 大丈夫だった? それと、ご飯もうすぐ完成だよっ! ほっ! やっ!」
包丁二刀流から、フライパンに持ち変えたセレスが二刀流でフライパンを振るっている。
こちらを見ながらだ。
よくあれで落とさないよな……。
肉の焼けるいい匂いが空腹を加速させ、ぐぅ、とお腹が催促の声をあげた。
「遅かったな、ジェイミーが慌てて帰ってきたから、もう少し遅ければ助けに行こうと思っていたぞ」
パンの上に野菜をちぎって乗せているヘルヴィも、こちらを向くが手は一瞬たりとも止まらない。
「ただいま、なんとか終わったよ」
また、ぐぅ、と催促の声をあげるお腹。
「それより、いい匂いでお腹空いちゃったよ」
「ネクロウのお腹、『早く食べさせろー』って言ってるー、あとちょっとだからねー」
「くくっ、ネクロウ、腹が大声をあげるとはな、しばし待て、我もこの通り手伝ったのだ、心して食べるのだぞ」
『ほほう、なんとも妙な食べ物だが、我輩の分も用意しておるのだろうな』
その声にセレスとヘルヴィが手元からまた視線を外した。
ほんの数分前に聞いた声だ。
それなのに、そこにいた人は予想とまったく違っていた。
「え? 誰?」
透き通るような白い肌に、光さえ吸い込んでしまいそうな漆黒の髪と大きな黒い瞳。
そして一番特徴的な長く尖った耳。
容姿はエルフ族に似ているが、よく見るエルフ族は白に近い金髪碧眼なので違うはず、なのだが……。
その異質な部分以外は完全にエルフ族と思われる女性が立っていた。
……テリエ、だよな?
『使役されてやったというのに、誰とは心外だな契約主よ』
……テリエのようだ。
念話の言葉遣いで男と思ってたよ……。




