第49話 死霊魔導師の護衛二日目
「おふぁよほぉ……」
あくびをしながらなので、意味不明な発音だが、『おはよう』と言ってるのはわかる。
「ネクロウ、セレスは寝ぼけていても可愛いな」
「ああ、本当にな」
腕枕で寝ぼけているセレスを見るヘルヴィは、俺の胸にアゴを乗せている。
別々の毛布で寝たのにいつの間にか一枚の毛布に三人でくるまり、俺は間に挟まれていた。
「くくっ、だらしがないな、ヨダレまでたれてるぞ」
……少し冷たいと思ってた。
ヨダレで袖が湿っているけど、ヘルヴィの言う通り可愛いから問題ない。
逆の右腕の袖も、実はヘルヴィのヨダレで湿っているが、こちらも同じ理由でまったく問題ないし、言うつもりもない。
二人が使っていた毛布は蹴飛ばされたのか、くしゃりと丸まって、本来の使命をまっとうできなかったからか、少し寂しそうに見えた。
なんとかセレスの二度寝を阻止して着替えを済ませ、影の居住空間から外を覗くと、空が白み始めている。
「もう朝か、我たちもそろそろテントを片付けて、食事の準備をしないとな」
「あー、本当に朝だー。今朝もわたしが食事当番するからねー、二人はテントを任せたよー」
二人の言葉を聞き、空から視界を移すと、カルバンさんたちが朝食の準備を始めているのが見えた。
朝食の準備をしている時に、ジムに頼み、奴らの痒くて仕方がなくなる薬の解毒をしてもらった。
二人からはそのままにしておこうと言われたが、さすがに護衛中くらいは集中してもらわないと駄目だ。
……駄目だよな。
でも、デバンを主軸に、ジムは監視もしつつ、近づく魔物を掃除してくれているから、道中の安全はほぼ守られてる。
でもジェイミーにトリューガーを見張っていてもらってるので、初日より魔物を防ぐ壁が少ない。
何が起きても対応できる体制にはしておきたいところだ。
次々と起きてきた商隊の人たちも朝食を終え、俺たちは一日目の野営地を出発する。
だがその少し前、小さなトラブルが発生した。
トラブルと言っても、一晩中寝れなかったからか、出発直前にカルバンさんが寝ていた奴らを叩き起こしただけ、なんだけどな。
やっとのことで寝れたのに、叩き起こされたからか、格上相手に怯むことなく、取っ組み合いになりかけた。
だけど、あっという間に制圧された。
体調が万全ではなかったところもあるだろうけど、そこはやはりDランクとCランクの差が出た感じだな。
カルバンさんなんか、五人中二人を取り押さえていたし、最初に見た通り中々の強さのようだ。
全員が一瞬でやられ観念したのか、少しフラフラしながらも、寝ていたテントを片付けて、予定通り出発することができた。
凄く眠そうだし、服で隠れていないところは、かきむしったからか、赤くみみず腫れもできていた。
……頑張ってもらおう。
今日も護衛の並びは初日と同じで、二度目の休憩を挟んで、昼食のため馬車は止まった。
人間は携帯食で簡単に済ませ、馬たちに飼い葉や水、それと塩を与えているのを見ながらも、気になるのは最後尾の馬車に乗っていたDランクの奴ら。
「くくっ、奴ら、完全に寝ているな。あれでは護衛とは言えんぞ」
「だよねー、あとでカルバンさんに怒られちゃうのにねー」
居眠りの原因を作ったのは俺たちだけどな。
奴らは馬車から降りもせず、木箱の上で寝転んでいるヤツまでいた。
これならずっと、痒くて仕方がなくなる薬で寝れなくした方がいい気がしてくる。
そんな時、デバンが念話を送ってきた。
『主よ、この後通りすぎる村ですが、少々気を付けた方が良さそうですぞ』
『どういうこと?』
近くに商隊の人がいたので念話で返事をする。
『おそらくですが、この村、盗賊の村のようですな』
『は? 盗賊の村? 住んでる人全員が盗賊ってこと?』
『いえ、元々の村人もいるようですが、盗賊に支配されておりますな。盗賊共の話を聞きますと、村を通りすぎる際に品定めしている感じですぞ』
詳しく聞くと、元々の村人たちは、女子供を人質にされて言うことを聞かされてるそうだ。
盗賊に手を貸したり隠しだてすると罪になる。
それがどんな状況でも極刑だ。
今回は、人質のことを考慮すれば多少は減刑してもらえるかもしれないが、期待は薄い。
ヘルヴィに頼んで陛下に相談してもらおう。
それから、盗賊たちが普段狙うのは金を持っていそうな個人の行商や、小規模商隊で、村を過ぎた野営地が襲撃場所とのことだ。
俺たちの護衛する商隊は馬車十台の中規模商隊。
護衛も十三人で不足はない。
盗賊の村という黙ってられない問題だが、話を聞く限り襲撃の可能性は低だろう。
『ですが今回は少々様子が違いそうですな』
『どういうこと?』
『ジェイミーが監視しているトリューガーが向かった先、キンダフィッカ伯爵と繋がっておりますぞ』
盗賊の村と伯爵様が繋がっている?
それも闇騎士団のトリューガーが訪問している伯爵様と?
『拐われていた子供たちは、おそらく人身売買の商品で、キンダフィッカ伯爵がその買い主ですな』
『情報が多いな! いや……ちょっと待って、それで伯爵と村が繋がってる話はもしかしして』
俺の予想は単純な話、商品を買う資金の補充のため、村人たちを動かす可能性が高くなるだろうということ。
デバンの回答は、まったくその通りだった。
キンダフィッカ伯爵のところにいた黒づくめの者が、その村の村長に伝令を持ってきたそうだ。
『あの御方とかいう輩のところに戻るかもしれぬと、ジェイミーに頼まれて監視していたのだが、思わぬ収穫ですな。くははははは!』
その通りだ。
知らないまま野営していても、そう簡単には襲撃を許さない自信がある。
だけど、知らないより知っていた方が対応も楽だ。
『じゃあデバンは黒づくめをこの後も追ってくれる? こっちはジムに頑張ってもらうよ』
『任せよ!』
あ……もしかして昨日、闇騎士団の捕縛を頼んでからずっとジムが一人で頑張ってくれてたのか?
午後は気を抜かないで見張ろうと心に決めた。
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