114話 一夜を共に
「まさに男の子の部屋って感じよね...。というか、オタクの部屋って言った方が正しいかしら。」
寝室へ案内してやると、鈴本さんはそんなことを言う。
「う、うるさいっ!」
「オタク」と呼ばれたことが気に入らなくて俺は顔を真っ赤にするが、彼女は
「別に人の趣味を嗤うつもりなんてないわよ?むしろ、個性的でこの人と付き合ってよかったなって思うわ。」
もフッと口角を緩める。
(可愛えっ~~~!...いやいや騙されるちゃいかん!「個性的」は「変」と同義!いくら穏やかで癒しもあってかすかだけども吐息は色っぽい美女だからって興奮してる暇なんて...めちゃ可愛えっ~~~!)
俺の心はこんな感じで結局和むだけになってしまった。女の子の笑顔というのは非常にずるい。
まぁ、部屋がこの状況なら「オタク」と呼ばれるのも無理はない。本棚にはラノベやマンガ、フィギュアが少し。壁には十数枚数量限定のポスターとかが貼ってある。
「そろそろ横になりたいんだけど。」
若干引き気味でしばらく部屋を眺めていた鈴本さんであったが、時計を見た瞬間にそんなことを言った。時間は10時。俺は
「鈴本さんって結構寝るの早いんだな。」
と言うが、返ってきたのは
「違うわよ。寝転びながら一緒に暗記物を片付けるんでしょ。流石に12時までには寝るけど10時は私からしても早いわ。」
という言葉。
「か、完全に忘れてた...。」
俺はそうとしか言い様がなかった。
「鈴本さんはベッドで寝転んでて。今俺用の寝袋だすから!」
そう言って俺は寝袋のあるベッドの下を漁る。だが、その手応えがない。
「あれ、おかしいな...。いつもはここに置いてあるんだけど...。」
俺は手をさらに奥へ。そこでやっと手応えを感じた。俺はそれをそのまま引きずりだす。
だが、それは寝袋などではなかった。それはエロ本の入ったただの黒い袋で引っ張った拍子に数冊が散開。先に英単語の暗記を始めていた鈴本さんが参考書からふと目を逸らすだけで、それらが目に入った。
「...。」
無言で固まる鈴本さん。
「あ...。」
ポカンと口を開ける俺。即刻、鈴本さんは鈴本さまに変身した。
「ねぇ、井上くん...。」
マジのトーンで言われて俺は
「はい。」
と言う。
「これは何かしら?」
マジトーンで聞かれて俺は
「ただの雑誌です。」
と言う。
「エロの雑誌の間違いでしょ。」
マジトーンで返されて俺は
「はい。」
と言う。
「貸しなさい。」
マジトーンで命じられて俺は
「はい。」
と謙譲。定価だけ確認して全てビリビリと破ってしまった。
「ねぇ、井上くん。私がいるんだからこんなの必要ないでしょ。」
袋の中身は俺の秘蔵コレクションだったのだが、最後にそう言われて失った悲しみが喜びに変わった。
「え、それって...。」
俺は満面に笑みでじっと見つめると、
「さ、誘ってなんかないわよっ!?ただの嫉妬よ!」
と顔を赤らめて言う。
(可愛い...。始めてか?鈴本さんのこんな顔...。)
俺はさらに和むがそんな場合ではない。
「ど、どうやって寝りゃぁ良いんだ...!?」
俺はwhy?の仕草をする。とりあえず、母に所在を聞くことにする。が、扉が開かない。押しても引いても叩いても開かない。
(何かがつっかえてるのかっ...!?)
そう思いつつ、ガチャガチャとノブを動かし、ガンガンと扉を叩き、フンヌフンヌとドアを引く。が、開くはずがない。母によってつっかえ棒が取り付けられたのだから。
「嘘...だろ。母親がいらんことするなんて...そんなお約束な...。」
何をしても無駄だと悟り、地面に崩れ落ち、掌を見つめ、体も震え始める俺。そこに赤面したままの鈴本さんが現れて、
「ねぇ、井上くん。こ、これって...もしかして...。」
と穴の空いた厚紙に袋状のゴムがついたアレを摘まんで俺に見せてくる。
「いやぁっーーーーー!」
コンドームと呼ばれるアレを見た俺の口からは叫び声だけが漏れてしまった。
ちなみに、それがあったという棚の上にはもう1つ錠剤のようなものが置いてある。
「いやぁっーーーーー!」
それがピルだと気付いた瞬間、本日2回目の叫びが響く。これじゃ、完っ全に避妊じゃねぇか!俺、完っ全にやる気満々じゃねぇか!
正一は激怒した。必ず邪知暴虐の母を除かねばならぬと決意した。と、ここでまさかのメロスクオリティ。暴虐に当たはまるものではないが、邪知には当てはまる。
「これは一緒のベッドで寝るしかないわね...井上くん、横に来て。」
呆れたのは鈴本さんも同じでため息を吐き、俺にそう言う。こうなりゃ寝袋は母の手元だろう。
「うん...。」
俺は布団の中へと入っていった。
お陰様で今日は鈴本さんと一夜を共に、である。




