108話 久方ぶりの登山
立花さんの屋敷まで来るとそこには鈴本さんがいて、執事らしき黒服の人がいて、門の前に10人は乗れるであろう黒いリムジンが停めてあった。
「どうぞ。」
と執事が扉を開ける。俺たちは促されるままにその中へと入っていき、俺、鈴本さん、立花さん、圭吾、学、浩平、有馬の順で座る。椅子はとても柔らかく、かなり落ち着いた雰囲気であった。俺は目を大きく見開き、
「す、すげぇっ!」
と言うしかなかった。
リムジンはしばらく道なりを進み、やがて高校脇の大通りに出る。
「で、どこに行くんだ?」
と浩平が盛大にくつろぎながら立花さんに聞く。すると、彼女は
「高尾山ですわぁ。」
「なるほど、ベタだな。」
それを聞き、圭吾は言う。これに立花さんは
「ベタなのも以外と良いものですわよ?冒険をして後悔するよりましだと思いますわ。」
と返す。ハイリスク・ハイリターンを取るよりはノーリスク・ミディアムリターンを求めるようである。
「高尾山かぁ...。小学校の頃、1回家族で行ったきり一度も行ってねぇなぁ。て言うか、山登り自体がそれ以来だわ。」
俺はその時のことを思い浮かべながらぼんやりと言う。それを聞き、くつろいだままの浩平が
「俺は何度も行ったことあるぞ。優香とな!」
とドヤ顔で言う。
「だから、爆破しろって言ってんだろ。」
「シスコンだよね、浩平くんは。」
「俺はいくら足掻いていも沙耶香とは一緒になれないってのに、お前は...。1人だけ幸せな思いしやがって。」
おかげでこの言われようである。
「あなたたち浩平くんに何か恨みでもあるのかしら?親でも殺されたたの?」
と呆れた顔で鈴本さんが聞いてくるのだが、別にそういう訳でもないだろう。恨まれるとしたら有馬だが、もうあれは貸しみたいなことになってしまう。と、なれば問題は彼ら自身にあるのである。
「いや、そういわけじゃないけど。」
と4人は声を揃える。本当に彼ら自身に問題があるようだ。
「そう...。」
と鈴本さんも微妙な顔であった。
そんなこんなで俺たちを乗せたリムジンは道路を1時間ほど進み、俺たちはついに高尾山の前へ。山は完全に赤と黄に染まっていた。
降りる時も執事の人に
「どうぞ。」
と言われて、今度も俺たちは促されるままに外に出た。周りには高層な建物は一切無く、平屋だらけの小さな住宅街があるのみである。まさに、都会の喧騒から解放されたという感じであった。
俺たちはその中を進んで高尾山麓へ。そこから真っ直ぐのルートを俺たちは登っていく。ルートマップによるとそこは1号路というスタンダードなルート、つまりは表参道らしい。小学生の頃もここを通ったのだろうが、そんなことを意識した覚えはない。
「綺麗ですわねぇ。」
「そうねぇ。」
赤や黄の葉舞い落ちる楓や銀杏の木のトンネルの下、立花さんと鈴本さんは顔を見合わせる。俺も
「まるで舞い落ちる火の玉だな。」
と言ってこの景色に見とれてしまっていた。
「正一、お前...。」
「どうした?」
「心霊現象みたいな詩的表現するんだな。」
「悪かったな。」
と浩平とのこんなやり取りは良しとして全く春や秋というのは気候も丁度よくて花に紅葉と魅力も満天で最高である。
俺たちはその中をしばらく進み、門を潜り、その奥で寺らしき所に出る。
「そこの階段の先にある薬王院は無病息災や学業成就など色々なご利益があるようですわよ。」
いつものごとく胸の間から携帯を取り出して立花さんは言う。見ると、本当に長い階段があった。
(これをのぼるのか...。)
と冷や汗をかきつつも、俺は
「そうか...小腹も空いたしそこで団子でも食ってあの階段のぼるか...。」
と階段横の屋台で名物だというゴマ団子を人数分買う。生地はモチモチで、ゴマの香りも広がってかなりの美味であった。
その後、俺たちは階段に足を踏み入れる。固唾をゴクリと飲み、
「よ、よし行くぞ。」
「学業成就のためだ、足は犠牲にすると思え。」
「捧げるのは心臓ではなく足だったか。」
「3人とも怖いこと言わないで。」
「お、おぅ。」
と覚悟を決めようとする男4人。女2人はいつの間にか何処かへ消えていた。
そして、一段、また一段と上っていく。何とこれ、煩悩の数だけ、つまり108段あるらしい。3年間サッカーしてきた俺たちでも流石に
「ハァ...ハァ...。」
と息が切れる。て言うか、久しぶりに足の筋肉を使ったから結構痛い。
にも関わらず、先に来ていた鈴本さん、立花さんは何ともない様子で
「あーんですわ!」
「ちょっと百合華ちゃん、恥ずかしいからそういうのは!」
「遠慮されなくても良いのですわよ?ほら、私の饅頭もお食べください!」
「わ、分かったわ。じゃぁ、交換にしましょう。」
とじゃれ合っている。また百合しい場面に出くわしてしまったようだ。
俺はガビーンとした顔で2人に
「何でそんな平気な顔をしてられるんだ?て言うか、どこから?」
と聞く。それには立花さんが答えてくれた。
「あら、知りませんでしたか?ここへの行き方は2つありまして、そちらの百八段を上る男坂を通るのと、あちらのゆるやかな道を行く女坂を通るのですわ。」
と。俺は同じ顔のままで
(あ、そうだったんですかぁ...。)
と白目をむくしかなかった。
さて、それはさて置き本堂へ。その時、立花さんが
「お2人に朗報がありますの。」
と圭吾、学を止める。
「どうした?」
「どうしたの?」
と2人が聞くと、立花さんは
「あっちには縁結びの御堂がありますわよ。お2人には必要ですわよねぇ。」
と満更もなく飛んでもないことを言う。
(こ、この娘っ...!)
と俺は若干引き気味になった。しかも、
「2人がいくなら俺も行くわ。」
と有馬。
「俺も優香とはずっと仲良くやっていきたいからな!」
と浩平。4人は彼女に説明された道へと消えていった。
一方、俺たちは本堂に入っていって鐘を鳴らす。礼をして、拍手をして学業に関して成就を願う。俺は鈴本さんと同じ大学に受かりたいと、鈴本さんは俺に同じ大学に受からせてと、立花さんは学業に関しては特に何も願わずずっと元気でいたいと願った。
こうして、俺たちの薬王院参拝は幕を閉じ、帰りは女坂から元の道へ。その道も紅葉で彩られていて綺麗であった。
高尾の山頂はもうすぐそこだ。ついさっきまで南にあった日も西に傾き、楓の葉を透き抜ける。そんな午後の光の下、俺たちは地面に落ちた紅葉の葉を踏みしめた。




