「婚約破棄の破棄」を破棄ですわ
「婚約破棄を、破棄するっ!!」
大食堂に響き渡ったミゼル王子の叫び声に、会場にいた貴族達は失笑と哀れみが混ざったような視線を向けた。
自分から派手に宣言しておいて、私が隣国の皇太子と恋人同士になった途端の前言撤回……あまりにも見苦しい。
「ミゼル殿下、一度口にされた宣言を撤回するなど、王族としての尊厳に関わりますわ」
私が冷静に告げると、ミゼルは血相を変え怒鳴り返してきた。
「うるさいっ、王子である私の言葉は絶対だ! 私が『婚約破棄を破棄する』と言ったら破棄なのだっ! そいつの手を解いてこっちへ戻れ!!」
私の隣でユリウス様が静かに一歩前へ出ようとした。
だが、私はそっと彼の袖を引いて制する。
「ユリウス様、お手を煩わせるまでもございませんわ」
「しかし、エレナ……」
「大丈夫です。あのような支離滅裂な論理、私の能力で一瞬にて片付けてご覧に入れます」
私は右手を開いてミゼル王子へと向けた。
内に秘める特殊スキル――事象や概念そのものを打ち消す魔力『概念抹消』を起動する。
「な、なんだその手は……!?」
「ミゼル殿下。お言葉ですが……あなたのその『婚約破棄の破棄』という宣言を、私の能力で『破棄』させていただきます」
「は……? 破棄の破棄を……破棄……!?」
パチン、と私が指を鳴らした瞬間。
ミゼル王子が放っていた身勝手な言霊が、目に見えるガラスの砕片となって空間で激しく粉砕された。
「……ッ!? なんだ、今の音は!?」
「説明して差し上げますわ。『破棄の破棄』という概念そのものを破棄させました。それにより、あなたが最初に宣言された『婚約破棄』が正式に適用されます。つまり私とあなたの婚約は、すでに完全に消滅いたしました」
「くっ……! 言葉遊びのようなマネを………!」
ロジックでも能力でも詰まされたミゼルは、怒りに顔を紅潮させ、腰の剣へ手をかけた。
完全に理性を失ってしまった王子……
「ふざけるなーっ! 言葉でダメなら力で奪い返してやる! 貴様のような女、叩きのめして分からせてやる!!」
スっと音を立てて抜かれた剣。
会場に悲鳴が上がる中、ミゼルは私に向かって一直線に躍り出た。
「危ないっ、エレナ!!」
ユリウス様が、私を庇うように前に出た。
「手出し無用です、ユリウス様。……私の新たな幸せを邪魔する愚か者には、少々手厳しい教育が必要ですわ」
私は全く動じることなく、扇子を広げて一歩前へと踏み出した。




