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『万能鑑定士? いいえ、裏方の臨床検査技師です 〜手柄は全部相棒の医者に押しつけて、私は貧民街で定時退社を目指します〜』  作者: 波留馬 喬


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第5章:青い血の騎士団と、白銀の呪縛(第2話)

「──純白の小麦、アクを完全に抜いた白いスープ、そして聖水、だと?」

ロバートは呆れ果てたように吐き捨てると、組んでいた腕をほどき、レオポルド団長の鼻先に人差し指を突きつけた。

「いいか、筋肉ダルマ。お前たちが『高貴の証』と崇めているその真っ白な食生活こそが、お前たちの身体から力を奪い、血をスカスカに薄めた元凶だ!」

「な、何だと……! 聖なる白を侮辱するか! 我らは神殿の教えに従い、穢れ(けがれ)を徹底的に排除しているのだぞ!」

レオポルドが青白い顔を怒らせて立ち上がろうとするが、激しい動悸のせいで足元がふらつき、再び丸椅子にドサリと崩れ落ちた。

「動くな、酸素欠乏症。今の貴様は、その大層な白銀の甲冑を支えるだけで心臓が悲鳴を上げているんだ」

ロバートは冷酷に告げると、背後のセラムに目配せをした。

セラムは待ってましたとばかりに、脳内の臨床検査データを頭の中で「一般人向け」に翻訳し、ロバートが最も使いやすい形の解説用ボード──もとい、診療所の黒板に素早くチョークを走らせた。

「団長、落ち着いてこれを見てください。これがあなた方の血液の真実です」

セラムが黒板に描いたのは、丸くて赤い正常な赤血球と、それに対して一回りも二回りも小さく、中心が透明に透き通った歪な形の円盤の絵だった。

「本来、血液が赤いのは、赤血球の中にある『ヘモグロビン』という成分が赤色をしているからです。このヘモグロビンは、体中に酸素を運ぶ『臨時の荷馬車』のようなもの。そして、この荷馬車を組み立てるために絶対に必要なメインの部品が──『鉄』なんです」

セラムは黒板の歪な円盤を指差す。

「あなた方の血液データは、血清鉄も、体内に蓄えられているはずのフェリチン(貯蔵鉄)も、完全に底を突いてゼロに近い状態です。部品である『鉄』が足りないから、荷馬車ヘモグロビンが作れない。結果として、あなた方の赤血球は中身がスカスカで、酸素を運ぶ能力が極限まで落ちています。血が青く見えるのは高貴だからではなく、ただの深刻な『チアノーゼ(酸欠)』です」

「てつ……? 鉄だと? あの、剣や甲冑を鍛える、あの黒くて硬い硬度の金属のことか……!?」

レオポルドは信じられないといった様子で、自身の白銀の籠手こてを見つめた。

「そうだ」

ロバートが黒板の前に立ち、チョークを指で弄びながら不敵に笑う。

「人間の身体には鉄が必要なのだ。そして鉄という成分は、お前たちが『穢れ』として嫌悪し、徹底的に削ぎ落とした【黒いもの】【赤色の濃いもの】にこそ大量に含まれている。精製された白い小麦には鉄分など残っていない。スープのアクと一緒に、貴重なミネラルも全てドブに捨てている。お前たちは、聖なる食事と称して『鉄分ゼロの砂漠』を自ら歩んでいたわけだ」

「そんな……、では、神殿の言っていた【高貴な病】とは……」

「ただの栄養失調だ。無知な神官どもが、もっともらしい名前をつけてお前たちを殺しかけていただけの話だ。いいか、お前たちのそのヘロヘロな身体を叩き直す方法はただ一つ」

ロバートは診療所のデスクをバン! と叩いた。

「今すぐその上品な白い食事をやめろ! 鉄分がこれでもかと詰まった、ド黒くてドロドロした動物の【肝臓レバー】と、大地の鉄分が溶け出す【鉄鍋】で煮込んだ料理を狂ったように貪り食え! これが唯一の処方箋だ!」

「レ、レバーだと……っ!? あんな生臭くて赤黒い、下級兵士や冒険者が食うような下品な肉を、我ら白銀騎士団に食えと言うのか……!?」

レオポルドだけでなく、後ろでへたばっていた団員たちからも「あり得ない」と言わんばかりの絶望の呻きが漏れた。彼らにとって、食事の「白さ」は騎士としてのプライドそのものだったのだ。

その拒絶反応を見て、受付の後ろでセラムは静かにため息をついた。

時計の針は16時35分を回っている。

(あーあ、始まったよ。プライドが邪魔して治療を拒否するお約束のパターン。ここでこいつらがごねて治療が遅れたら、再検査のスケジュールが狂って俺のシフトに響く。何より、このままだとこいつら本当に心不全で死ぬな……)

前世で独身一人暮らし元臨床検査技師として培った、いかに安く、効率よく栄養価の高い食事を作って保存するかという「徹底したコストパフォーマンスの追求と自炊精神」の血が、セラムの中でふつふつと湧き上がってきた。

(血中ヘモグロビン5.2の重症患者に、いきなり生臭いレバーをそのまま食えって言っても無理に決まってるだろ、ロバート先生。鉄分の補給は、美味しく、効率的に、そして胃腸に負担をかけないように一気にブチ込まないと意味がないんだよ……!)

セラムはすっと一歩前に出ると、引きつった笑みを浮かべる騎士団長に向かって、極めて爽やかな、しかし拒絶を許さないトーンで微笑みかけた。

「レオポルド団長。騎士の誇り、大変結構だと思います。……ですが、剣も握れず、歩くだけで息が切れる白銀の騎士に、王宮を守る資格があるとお思いですか?」

「うっ……」

「神殿の『白い呪縛』に縛られたまま、静かに心臓を止めて全滅するか。それとも、僕の言う通りの『黒鉄の食事』を胃袋にかき込んで、かつての圧倒的な力を取り戻すか。……どちらを選びます?」

セラムの静かな威圧感に、若き騎士団長はごくりと唾を飲み込んだ。

よろしければ何点でも構いませんので評価やコメントをいただけると嬉しいです。

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