第8話 北海道旧炭鉱巡り、その3
彼女たち3人を乗せたフェリーが、北海道小樽市に到着したのは、朝の4時30分頃。
3人にとって、いずれも初めて降り立つ北海道の地だったが、最初に彼女たちが驚いたのは、「明るさ」だった。
「え、もうこんなに明るいの?」
下船の準備をして、実際に降りたのは4時40分頃。
その時間帯、この7月末の群馬県、いや関東全般なら、夜明け時刻は4時50分頃なのだ。
「北海道は、夏は陽が上るのが早いんだ」
インカムを通して、万里香が返す。
「みたいですね。4時20分頃に夜明けって書いてありますよ」
どこで調べたのか、菜々子が返す。
そして、3人共に同じ感想を抱いたのが、
「涼しい!」
ということだった。
いくら地球温暖化が進行しているとはいえ、それでもまだまだ北海道の夏は涼しく、特に早朝は下手をすれば10度代後半の肌寒さもあり得るくらい、涼しかった。
小樽はそこまで涼しくはなかったが、それでも灼熱地獄の関東に比べると、各段に涼しいのだ。
まずは、札幌に向かうことにした彼女たち。
行く先々で、目につくのは、二重窓に玄関フードを構え、家の外に灯油タンクを置いているトタン屋根の四角い家。
それが、北海道の住宅の特徴だった。
全てはこの地が、寒さに厳しいため、冬を乗り切るための構造になっている。そのことを万里香が説明するのだった。
「随分、詳しいね、万里香」
「ああ。父が、仕事でよく北海道に行くからな。教えてくれた」
美希の問いに答える万里香。
実は3人の中で、万里香だけが小さい頃に北海道に来たことがあるらしいが、幼い記憶のため、ほとんど覚えていないという。
やがて、小樽の街を出ると、海沿いに進み、巨大な住宅街が連なる街に入る。
人口190万人以上を誇る、北海道最大の都市、札幌だった。
その大きな街を見ながら走る美希は、インカムを通して、
「何だか東京とあまり変わらないね」
と、率直な感想を述べていた。
「まあ、人口190万人もいるしな。小さい東京みたいなもんだろ」
「そう考えると面白くないですね~」
万里香と菜々子のそれぞれの感想だった。
札幌市中心部にして、東京以北では最大の歓楽街、すすきの。その一角の駐車場にバイクを停めた3人。
いざ降りてみると、本当に大きな街だった。
巨大な地下街があり、地下鉄が走り、すすきのから大通りまでは市電も走っている。
ただ、違うのは、道が広いこと。
北海道は、本州と違い、圧倒的に道幅が広い。
結局、まだ朝の6時前ということと、前日に酒を飲んで睡眠自体が浅く、短くなって、眠くなっていた彼女たちは、すすきの駅前にあるファーストフード店に入り、注文を取った後、ほとんどうたた寝に近い形で、店のソファーで眠りについていたのだった。
―ピピピピ!―
アラームの音で目を覚ます彼女たち。
「ん、何時?」
寝ぼけまなこでスマホを見る美希は、青ざめていた。
「9時10分!」
約束の時間は過ぎていた。どうやら美希がアラームのセット時間を寝ぼけて間違えていたらしい。
慌てて2人を叩き起こすように起こし、急いで片づけをして、店を出て、美希は約束の場所に向かった。
佐々木明乃との約束の場所、それはすすきのから大通り公園に向かうまでの間に通じている地下街の一角のスペースだった。
そこで、懐かしい顔を確認した、美希が手を振ると、彼女もまた笑顔で手を振ってくれるのだった。
「ごめん、明乃ちゃん!」
時刻はすでに9時20分を回っていた。
「遅いよ、何してたの?」
怒ってはいなかったが、若干不服そうに頬を膨らませていた少女。見たところ、身長が155㎝ほどの瘦せ型。セミロングの髪に、狐のような細い目、そして何よりも色白だった。スタイルのいいスレンダーな少女、それが美希と同い年の佐々木明乃だった。
「こいつがアラームのセット時間を間違えたのが悪い」
「そうですよ、美希センパイ」
二人に責められ、美希は誤りつつも、懐かしい友人との再会を喜んだ。
その後、美希によって、事前に説明していたが、改めて万里香のプランが説明された。
すると、
「わかった。私が車で案内するから。言ってくれればウチに泊めてあげたのに」
笑顔で言いつつ、明乃はあっけらかんとしていた。
「いや、さすがに悪いから」
という理由で、遠慮して、美希は宿を取ったのだった。
そして、佐々木明乃が車を取ってきて、待ち合わせ場所に来て、と言って指定した場所が、札幌を南北に流れる創成川のすぐ近くにある、巨大な駐車場だった。
北海道はとにかく、スケールが違う。土地が余っているので、建物も大きいし、道も広い。
すべてにおいて余裕があるのだ。
その駐車場前で合流ということで、彼女たちがバイクを拾って向かうと。
軽くクラクションを鳴らされた。
「えっ」
美希は驚いていた。
それが、4WDのスズキ ジムニーだったからだ。
色は黒。いかにも無骨なオフロード車という感じで、とても女子大生が乗るような車種には見えない。
というより、釣りやキャンプに行く、おっさんが乗るような車だし、乗り心地も悪そうと美希は思うのだった。
ところが、運転席から降りてきた彼女は、
「北海道は、雪が凄いからさ。大体、みんな4WDに乗ってるよ」
と、ざっくばらんに話してきた。
「そうなんだ。じゃあ、バイクは?」
と、尋ねていた美希に、明乃は笑って答えを返してきた。
「地元の人は、まず乗らないよ。冬は半年近く雪に埋もれるし、バイクで喜んでかっ飛ばしているのは、大抵内地から来た人たち」
内地、という言い方がいかにも北海道らしい。
そう、北海道民にとって、北海道以外は全て内地。
そして、バイクに乗るのは、北海道民以外。
雪に対する対応が常に求められる土地ゆえ、ここではパワーがある車の方が好まれるのだ。
こうして、佐々木明乃の先導によって、彼女たちの北海道旧鉱山巡りが、ようやく始まるのだった。




