第7話 北海道旧炭鉱巡り、その2
急きょ、北海道へ渡り、廃鉱山を見に行くことになった3人。
もちろん、一番乗り気だったのは万里香で、彼女はだいぶ前からこの計画を立てており、それに合わせてわざわざ金を稼ぐため、バイトを入れていたのだ。
一方、部類の廃墟好きとして知られる菜々子もまた、初めて乗る大型フェリーにテンションを上げて、一人で船内を散策していた。
唯一、美希だけは、どこか憂鬱な面持ちで出発する前のフェリーの甲板から新潟の町を見下ろしていた。
その理由は、
「16時間半もかかるの? 長い! 長すぎる!」
という船で過ごす時間についてのことだった。
すぐ近くで風に吹かれながら涼んでいた万里香が、
「そう言うな。自走で行くと、青森まで行ってフェリーに乗って、函館からさらに遠い。北海道は遠くて広いんだ」
と、機嫌良さそうに返していた。
新潟発小樽行きフェリー。出発は12時。そして、小樽に着くのは、翌4時30分。
そのプランを見て、またも美希は不満を露わにしたのだった。
「4時半! バカじゃないの? そんな時間に着いて何しろって言うのよ?」
「まあ、とりあえず札幌に行って、美希の友達の佐々木さん、だっけに会うまでどこかで時間潰しだな」
「呆れた。これなら大洗の方が良かったんじゃない?」
ちなみに、大洗発苫小牧行きフェリーは、19時45分発の、到着は翌13時30分。ある意味、良識的な時間と言える。
ただし、船に乗っている時間は、新潟~小樽が約16時間半、大洗~苫小牧が約17時間45分と、実は新潟~小樽の方が短い。
やがて、船内を子供のように、探索していた高橋菜々子が戻ってきて、いよいよ出発となり、3人は長い旅路へと着いたのだが。
「暇!」
出発して3時間余り。早くも美希は限界が来ていた。
船内は電波がほとんど届かないため、最初は事前にダウンロードしていた映像をいくつか見ていたのだが、それにはすぐに飽きてしまった彼女。
「いや、確かに暇かもだけど、早いな」
万里香は、いつものようにどこか泰然自若としていて、さっきから船内の通路にあるソファーに座って、ラノベを読んでいた。
「美希センパイ、飽きっぽいですね~」
こちらも屈託のない笑顔を浮かべて、返してくる菜々子。
美希は、時間潰しにそんな菜々子をちょっとだけからかうことに決めた。
女子大生の話題と言えば、大体「恋バナ」になる。まして3人集まれば、その話になっても不思議ではない。
「菜々子ちゃんさあ」
「はい?」
「その近藤とかって男、よく許してくれたね」
近藤というのは、高橋菜々子が現在付き合っているという男で、同じ大学の1年生らしく、しかも同じバイク乗りで、確かハーレーに乗っているという話だったが、美希が聞く限りは、かなりチャラい男らしい。
「ああ、それはですね。私たちはお互いに干渉しない、って決めてるんですよ」
「大丈夫なの、その彼氏? 菜々子ちゃんは純粋そうだから、騙されてるんじゃないの? 北海道に行ってる間にちゃっかり浮気してるかもよ」
美希にしてみれば、からかい半分、心配半分の気持ちだったが、菜々子は見る見るうちに表情を曇らせ、
「そんな、ひどいです、美希センパイ」
あっという間に泣きそうな顔になっていた。
「あ、ごめんね。そんなつもりじゃ……」
慌てて謝ろうとする美希に対し、鋭く突っ込んだのは、万里香だった。
「菜々子。質の悪い冗談はよせ」
「えへへ、バレましたか」
もちろん、全て演技のウソ泣きの真似だった。
(この子は……)
一見純情そうに見えて、菜々子はしたたかで、どこか抜け目がなかった。
「あんたねえ」
さすがに美希が怒り出したので、菜々子は、
「ごめんなさい、センパイ。でも」
と言ってから、今度は女性でも驚くような、妖艶な笑みを見せて、
「もし、別れたら、美希センパイが慰めてくれるから大丈夫です」
と言ってきたのだった。
(小悪魔だ)
ある意味、この子は男慣れしているのかもしれない。いや、男も女も手玉に取ってしまう、したたかさが彼女にはあった。
そうして、恋バナを展開しながらも、さすがにやることがなくなってくるので、今度は持参したトランプで、大富豪をやりながら、彼女たちは北海道ツーリング計画を改めて確認するのだった。
初日の本日はもちろんずっと船の中。2日目の早朝4時30分に北海道の小樽に到着。札幌まで出て、午前9時に待ち合わせをしている、美希の友達、佐々木明乃と合流。そのまま、三笠市にある、奔別炭鉱と幌内炭鉱の跡地に向かう。
2日目は富良野で宿泊。
3日目は、再び佐々木明乃と合流し、日本海側の羽幌町にある羽幌鉱山跡に行き、佐々木と別れて北上。最北端の稚内に行き、宿泊。
4日目は、早くも稚内から南下して、16時45分の小樽発新潟行きフェリーに乗り込む。
5日目の朝、9時15分に新潟に着いて、帰路に就くというものだが。
「せっかく北海道に行くのに、全然絶景ロード走らないじゃん。エサヌカ線は? ミルクロードは? 開陽台は? 天に続く道は?」
不満たらたらの美希の愚痴が始まっていた。
「エサヌカ線は余裕があったら行く。ミルクロードも開陽台も天に続く道も廃墟じゃないから諦めろ」
ばっさりと告げる万里香の声は容赦がない。
「そもそも絶景ロードを走る旅じゃないですからねえ。行きたければ、美希センパイがお一人で行けばいいのでは?」
笑顔のまま、辛辣というか、正論を吐いてくる菜々子も、ある意味、容赦がなかった。
「わかった、わかった。ここまで来たらしょうがない。その代わり、せめて札幌で美味しい物を食べること」
そこだけは、唯一美希が譲らないポイントだった。
(海鮮、ラーメン、ジンギスカン。せっかくだから、北海道で美味い物を食べてやる)
彼女にしてみれば、廃墟は付き合いついでで、メインは絶景あるいは食にあったのだ。
結局、早めに就寝に着くはずが、酒を飲んで彼女たちは深夜0時近くまで起きており、日付が変わった辺りでやっと寝床に着いていた。
船は、北へ北へと順調に進んでいた。




