第25話 九州プチ横断
三人にとって、初の九州ツーリングが始まった。
とはいえ、土地勘が全くない上に、北海道の時とは違い、案内人もいないため、三人の目的は、限られていた。
「とりあえず長崎を目指すぞ」
という、リーダー的な立場の万里香の一声の元、地図アプリのナビを参考に三人は、西を目指した。
船が着いたのは、九州でも東北端に近い、新門司港。
そこから、九州自動車道を使えば、3時間ほどで長崎に着くのだが、その日は長崎のホテルに泊まって、翌日に軍艦島に渡ることになる予定の三人の旅は、まだ時間があった。
何しろ、まだ朝の5時半だ。
「のんびり下道で行くぞ。その方がこの土地を味わえる」
という万里香の一言で下道で行くことになった。
ただ、下道だけだと、軽く6時間はかかる距離だった。
まずは福岡県を横断することになるが。
「おなか空きましたねー」
「じゃあ、あそこに入ろう」
菜々子の一言に、美希が指を指した場所、そこは。
―因幡うどん―
と、書かれた看板だった。
「朝からうどんか。まあ、いいけどな」
万里香も頷き、三人はバイクを停めた。
この因幡うどんは、九州の福岡を中心に展開される、博多っ子が愛する、柔らかいうどんで、「ごぼう天うどん」が有名らしく、それが出汁が染み込んだ優しい味わいで朝の胃袋にはぴったりだった。
九州上陸後、初のローカルフードを食べた三人は、そのまま西へ向かう。
「田舎ですねー」
のんびりとした、田園風景が広がり、昔ながらの瓦屋根の大きな家が目立つ、風景が続く中、菜々子が声を上げた。
そこは、「田川」、「飯塚」などと言った福岡県の地方都市で、九州でも中心部の博多、つまり福岡市からは離れていたからだ。
「まあ、福岡を経由しないからな。あっちは栄えてるだろ」
「そうだよね。博多ラーメン食べたいなあ」
「美希センパイは、やっぱり『花より団子』ですね」
「何だと」
笑いながらも、三人のバイクはさらに西へと走る。
やがて、「佐賀県」の道路標識を超える。
「おお、これが伝説の佐賀県か」
「何の伝説だ、何の?」
万里香に突っ込まれた、美希が含み笑いと共に返す。
「知らないの、万里香。佐賀県と言えば、『一生行くことがない県』ランキングトップだよ、確か。レア県だよ」
「いや、だから佐賀県民が聞いたら怒るぞ、それ」
「あはは。まあ、レアではありますね。っていうか、佐賀県って何があるんですか?」
「吉野ヶ里遺跡、あとは虹の松原かな」
「やっぱ地味だねー」
「だから、佐賀県民が聞いたら、以下略」
昼頃。
三人は、ついに長崎県に入り、一件のコンビニに入り、そこで軽く昼食のパンやサンドイッチを買った。そのまま、バイクのそばで食べていると。
「どっから来たと?」
特徴的な方言を話す、中年のおじさんに声をかけられていた。主に万里香だったが。
「群馬県です」
「ほう。群馬県から。そりゃいじで遠くから来たな」
「いじで?」
「めっちゃって意味じゃないかな」
「なるほど」
美希と菜々子が見守る中、万里香のことが気になったのか、おじさんは彼女ばかりに話しかけていた。
「どこに行くと?」
「えーと。軍艦島です。確か長崎から渡れますよね?」
「そうばい。長崎港から船で色々回って2、3時間ってところばい」
「ありがとうございます」
「それじゃ、気ばつけてな。よか旅ば」
おじさんは、あっさり立ち去って、自分の車に戻って行った。
全然ナンパという粘着質な感じでもなく、ただ単に気さくで、興味本位で声をかけただけの人だったが、三人は長崎弁の恐ろしさを知ることになった。
何しろ、早口で話すから、実際のところ、よく聞き取れなかったりするのだ。おまけに彼女たちが上陸後のうどん屋で聞いた、博多弁とも微妙に違っていた。
その後、時間があった彼女たちは、長崎県の西の端にある、神崎鼻公園というところに行くことになった。
そこは、長崎県の西の端、つまり「本土最西端」に当たり、そのモニュメントがあるという。
行ってみると。
「これが本土最西端か」
妙な形をした、モニュメントと共に「日本本土最西端の地」と書かれた大きな石碑が建っていた。
「一応、本土では最西端だが、この先にある平戸島には『本土と繋がった道の最西端』ってのもあるらしい」
「もはやナゾナゾみたいですね。そこまでどれくらいかかります?」
「1時間半はかかるな」
「往復で3時間以上! そりゃ無理だね。宿のチェックインの時間もあるし」
「そうだな。とりあえず宿に行って、晩飯食べて、明日のプランを再チェックしないとな」
ということで、三人は、平戸島への上陸を諦め、今度は南下して、長崎市街地へと向かった。
長崎市に着いた三人は、ホテルに向かう。
その後、チェックインを終えて、バイクを駐車場に預けたまま、軽く夜の街を散策しながら、夕食を食べることになった。
長崎市は、比較的小さな地方都市だが、観光の街としての側面があり、坂と路面電車と細い道が入り組んでいる、昔の港町の風情があった。
そこで、三人が偶然見つけた店が、
―ちゃんぽん―
だった。
「やっぱ長崎と言えば、長崎ちゃんぽんだよね」
「美希センパイは、グルメですねー」
「そりゃ、せっかくだから、地元の美味しい物を食べたいし」
「入るぞ」
そこで、食べた本場の長崎ちゃんぽん。
群馬県はもちろん、東京あたりでもかろうじてチェーンのちゃんぽん屋がある程度だが、本場の味は違った。
何しろ具だくさんで、豚肉、エビ、イカ、アサリなどの魚介類、キャベツ、もやし、にんじん、ねぎなどたっぷりの野菜、そしてこれが長崎特有だが「紅白はんぺん(=揚げかまぼこ)」というのが入っている。
「美味かな、美味かな。余は満足じゃ」
「誰だよ、お前」
「美味しかったですねー」
三人は宿に戻り、翌日のプランを再度チェックする。
長崎港から、軍艦島までは、実は個人で渡ることはできないため、「軍艦島上陸クルーズツアー」に参加しないといけないという。
もちろん、事前にそれがわかっていたから、予約をしてから三人は向かうことになった。
翌日は、ついに軍艦島に渡ることになり、その日、万里香だけがそわそわして、遠足前の子供のように、あまり眠れずにいた。




