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第23話 美しき廃墟

 1泊2日、ゴールデンウィークを利用した、彼女たちの東北廃墟ツーリング。

 2日目は福島市の宿からスタートする。


「で、今日はどこに行くの?」

 朝、ホテルで朝食を食べながら、美希が口を開く。


「遊園地跡だ」

 万里香は、相変わらず必要最低限のことしか教えてくれなかった。


 彼女が元々あまり話さないのか、それともあえて話したくないのかは不明だったが。

「遊園地ですか? 前に栃木県の行きましたよね」

 菜々子が言っているのは、以前、高校時代に三人で、栃木県にあるウェスタンヴィレッジという、アメリカ西部開拓時代風の遊園地廃墟に行ったことがあるからだ。


「それよりもっと面白い物が見れる」

 というのが、万里香の主張だった。


 そして、何故か一人ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべているのが、美希には不気味に思えた。


 福島市からその遊園地までは、下道で約3時間10分ほど。

 東北地方を南北に貫く大動脈、国道4号をひたすら北上。白石しろいし市を過ぎたあたりで、左折し、田舎道に入る。


 後は、蔵王ざおう町、村田町、そして東北最大の都市、仙台市の外縁を回り、再び国道4号に入って、行き着いた先。


 何度か休憩を挟み、丁度昼頃に着いたのが、そこだった。


 宮城県大崎(おおさき)市。


化女沼ばけおんなぬま?」


「違う。化女沼けじょぬまだ」 

 相変わらず、お約束のように地名の読みを間違う美希に、万里香が冷静に突っ込みを入れていた。


「へえ。これはすごいですね」

 感嘆の声を上げる菜々子。


 確かに、そこに広がっていたのは、ある意味、このゴールデンウィークの雑音や騒音、人混みや渋滞とは一切無縁の世界だった。


 沼のほとりに、草木に埋もれながら、古ぼけた鉄骨が複数残っていた。

 一つは、今にも崩れ落ちそうなゴンドラを多数乗せた、観覧車。

 そして、乗る人がいなくなった、メリーゴーランド。

 さらに、鉄錆てつさびだらけになった、コーヒーカップの置物などだった。


 その風景を眺めながら、写真を撮る万里香。


 対して、美希が思ったのは、

(あっちは賑やかなのに、こっちには人の気配がまったくない)

 顔を向けた先には、高速道路のサービスエリアがあり、そこの広場のような場所が展望台のようになっており、こちらを見下ろしていた。


 そこには、このゴールデンウィークの繁栄を現すように、無数の人が動いており、子供たちの声が聞こえていた。


 万里香と菜々子が熱心に写真を撮る中、美希は一人佇んで、この「死んだ」ように静かな光景を眺めて、ふと思い出していた。

 それは、かつて彼女自身が見た、とあるアメリカ映画で、廃墟が出てくるのだが、美しさすら感じる廃墟が出てきており、その風景がここに似ていると思ったからだった。


「そう言えば、昔見た、ポストアポカリプスの映画にこんなシーンがあったなあ」

「ポストアポカリプス?」


「知らないのか。世界が滅んだ後を描いた作品のジャンルだ」

 菜々子の質問に、万里香が答えていた。


「なるほど~」

「まさに、ここだけ『世界が滅んだ』って感じだなあ。確かにここだけちょっと異質な感じがする」


「万里香センパイ。ここはいつ出来て、いつ廃業になったんですか?」

「ここは化女沼レジャーランドと言ってな。1979年に開業して、一時は年間20万人もの客が来たんだが、バブル崩壊後に客足が遠ざかり、2001年頃に休園。まあ、事実上、そこで廃園になったと言われているな」

 菜々子の問いに、万里香は、途中のコンビニで買ってきた缶コーヒーを飲みながら感慨深げに答えた。


「ちなみに、ここは『廃墟マニアの聖地』とも呼ばれ、海外のメディアにも紹介されたことがある。心霊スポットとしても有名らしい」

 心霊スポット、と聞いて、美希は露骨に嫌そうに表情を歪めていた。


 その後も、この化女沼の東側に広がる、遊園地跡の廃墟を一通り歩き回り、散々写真を撮ってから、三人はここを去ることになった。


「来てよかっただろ?」

 ドヤ顔で言い放ち、ニヤけた笑顔を見せる万里香が、美希は少し憎らしいと思った。


「別に。大体、遠いんだよ、東北は。帰りもまた長い距離を走ると思うと憂鬱」

 悔し紛れに美希はそう返していたが、万里香は相変わらず、マイペースなところがあり、


「だったら、適当に休みながらゆっくり帰ればいい。どうせゴールデンウィークはまだ終わらない。途中で漫画喫茶に寄ってもいいし、日帰り温泉に入って仮眠を取ってもいい」

 と、言い返してきた。


「いいですね、それ。バイクは『自由の翼』なんですよ、美希センパイ。急がず、慌てずゆっくり帰りましょう」

 菜々子もまた同調していた。


「わかった、わかった。私も急いで帰って、事故るのも嫌だし、ゆっくり帰るよ」

 こうして、彼女たちのゴールデンウィークが終わろうとしていた。


 その帰り道。

 結局、またお金をケチって、下道だけでトロトロと帰ることになった三人。


 途中の、道の駅安達で休憩していると、相変わらず渋そうなブラックの缶コーヒーを片手に持っている、まるで中年のおっさんのような気がしてくるような錯覚を感じる、風体の万里香が、不意に口を開いた。


「モラトリアムの時間は残り少ないな」

「まあ、そうだね。早い人は3年生の夏から就職活動に動き出すし」

「そっか。センパイたちももう3年生ですもんね。就職活動が控えているんですね」


「そう言う菜々子ちゃんも、来年そうなるけどね」

 と、どこかしんみりとした雰囲気に変わっていた。


 そこで、その空気感を打ち消すように、不意に菜々子が呟いたのがきっかけだった。

「でしたら、夏休みに、飛びっきりの廃墟に行きましょう」

「飛びっきりの廃墟?」


「ほら、あれですよ、あれ」

「あれ?」


「九州にある、島全体が廃墟というあれです」

「軍艦島か」


「そう、それです!」

 軍艦島。正式名称は「端島はしま」。長崎県長崎市の海上に浮かぶ、無人島で、かつては炭鉱で栄えた、鉄筋コンクリートのビル群が並ぶ、有名な廃墟だ。


 どうやら、それが彼女たちにとって、大学生活最後の「廃墟ツーリング」になるだろうと、美希は予測するのだった。

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