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第21話 不気味な村

 5月。世間はゴールデンウィークの大型連休に入る。


 この時期、基本的に学校や職場のほとんどが「動きを止める」中、人混みや渋滞が苦手な美希は、憂鬱だった。


(暇だけど、出かけたくない)

 出かければ、間違いなく渋滞に巻き込まれるからだ。


 いくらすり抜けが出来る小型バイクとはいえ、彼女は出かけるのを躊躇ためらっていた。


 そんな中、やはりと言うべきか、彼女からグループチャットが届く。


―ゴールデンウィーク、ちょっと東北に行くけど、来る人いるか?―

 と。


―私、パス。どうせ混むし―

 と、真っ先に否定していた美希に対し、


―私は行きます!―

 彼氏持ちのくせに嬉々として、反応していたのは、菜々子だった。


―じゃあ、美希はパスで―

 と、あっさり決まりそうな雰囲気だったので、


―ちょっと待って。どこに行くつもり?―

 美希は念のために尋ねていた。


 すると、

―知られざる古い集落、あとドライブイン、遊園地跡だ―

 と回答があった。


 少し考えてみて、美希は、

(なるほど。明らかに観光地じゃないところか。じゃあ、いいか)

 と思い直し、


―しょうがない。私も行く―

 と返すと、


―しょうがないなら来なくていい―

 相変わらずどこか冷たい感じの返答が万里香から返ってきた。


―いいから行くったら行く―

―わかった―

―楽しみですねー―


 ということで、急きょ、三人の東北ツーリングが始まった。


 高校時代、東日本大震災のあった福島県の浜通りや岩手県まで行ったことがある彼女たち。


 しかし、万里香の計画によると、今回は全然別の目的らしい。


 一応、1泊はするが、1日目は福島県の会津地方にある、知られざる集落。そしてドライブイン。2日は宮城県にある遊園地跡の廃墟に行くという。


(知られざるって何?)

 と疑問に思いつつも、ついて行くことにした美希。


 当日、待ち合わせ場所の道の駅おおたに向かうと。

 すでにお泊りセットをリュックに入れ、ツーリングネットで縛っている、菜々子のヤマハ セローと、ホンダ ADV150のリアキャリアに荷物を積んだ万里香の姿があった。


 しかも、目的地までは。

「下道で5時間」

 と、何でないことのように、万里香が呟いていた。


「5時間! バカじゃん。高速道路使えばいいじゃない」

 と返す、美希に、彼女は、


「嫌だ。どうせ混むから」

 という理由と、時間があるという理由で、下道で行くことを万里香は主張。


「まあ、いいんじゃないですか。私も高速道路って苦手で。第一、セローってそんなに早く走るバイクじゃないですし、下道の田舎道をのんびり走る方が返ってストレスを感じません」

 菜々子もまた万里香に応じたので、渋々ながら美希は従うことにした。


 そして、出発から何度も休憩を挟み、国道122号で栃木県の日光へ抜け、そこから国道121号に入り、後はひたすら「山の中」みたいな道を走ることになった。


 確かに、ゴールデンウィークとは思えないくらい、交通量の少ない田舎道で、栃木県から福島県の南会津に入る。

 

 会津地方の中心部、会津若松市を迂回するように進み、昼過ぎに着いたところは、自治体としては、喜多方きたかた市に当たるらしい。


 一見すると、何もないような田舎の、というより山の中、林道と言っていいほど狭くて細い山道を登った先にそれはあった。


 山の中に突如、現れたのがその集落だった。


 村、というより集落と言っていい規模のせいぜい10~15戸くらいの古い家屋が、山肌にへばりつくようにして建っていた。


 集落の入口でバイクを停めた万里香に、美希はヘルメットを脱いで、問うていた。

「で、ここは一体どこなの?」

「さあ」

「さあって、知らないで来たの?」


「ネットの動画で見たんだ。ここに忘れ去られたような集落があるって」

「何だか面白そうですねー」

 相変わらず変なところでテンションが上がっている菜々子はともかく、実際に歩いてみると、そこは確かに不思議なところだった。


 古い家屋が建ち並んでいて、瓦屋根の家が多いのだが、一部の庭は荒れていて、窓ガラスが割れていたり、瓦が落ちている家もある。

 つまり恐らく人が住んでいないと思われる。


 ところが、別の家を見ると、きちんと手入れされたような庭があったり、窓にカーテンがかかっていたりする。


 そこは、「廃墟」なのか、それとも「人が住んでいる」のかわからない謎の集落だった。

 だが、人の気配が全然ない。


 ゴールデンウィークとは思えないくらいの見事なまでの静寂が広がっていた。聞こえるのは鳥の鳴き声だけだ。


 だが、歩きながら、古い家屋を見て回っていると、不意に万里香が足を止めた。

「何、万里香?」

 美希が尋ねると、彼女は心なしか緊迫した面持ちで、こう告げたのだ。


「今、あそこのカーテンが動いた気がする」

 と。


 ある意味、背筋が寒くなるような感覚を感じたのは美希だ。

「人がいるってこと?」

「さあ。だが、不思議と私は人の気配を感じる。というより視線を感じる」

 珍しく、霊感がないはずの万里香が確信めいた一言を告げていた。


「もしかしたら、幽霊でもいるんですかね?」

「怖いこと言わないで、菜々子ちゃん。しかもこんな真っ昼間から」


 しかし、この忘れ去られたような集落は、確かに不思議な、というより不気味な雰囲気があった。


 よく見ると、車が停まっている家があった。明らかに人がいる気配がある。しかし、そのくせ人の姿は全く見えない。

 それでもどこかから視線を感じるのだ。

 もしかすると、排他的な村人たちが、外部から来た不審者である彼女たちを見張っているのかもしれない。


 そう考えると、美希は少し怖くなっていた。

「何だか怖いから、さっさと退散しよう」

 結局、美希の言葉に頷いた二人も足早にバイクに向かうのだった。


 最終的にバイクにまたがり、エンジンをかけて集落を後にするのだが。

 美希は、最後にサイドミラーを見たら、集落の一つの家の窓のカーテンの間から、老婆の姿が見えて、背筋が寒くなるのだった。

(あのお婆さんは、何者? 人間? それとも?)


 全く人が住んでいないようで、しかし人の気配を感じる怖い集落。


 それは、喜多方市の山奥の林道の先にある、まさに「忘れ去られたような集落」だった。

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