第20話 北にある不思議な場所、その2
本格的に新潟県に入った三人。
その後、湯沢町に入り、国道17号からそれて、十日町市に入り、国道117号から、小千谷市、長岡市を経由。
やって来たのは、国道116号沿いにある、その奇妙な建物だった。
「着いた」
感慨深げに呟き、バイクを降りてヘルメットを左手に抱えた万里香。
「マジで来ちゃったよ」
美希は、その初めて見る光景に驚いていた。
住宅がまばらにあり、その後ろがほとんど畑か田んぼが広がるのどかなところに、突如異様な建物が姿を現す。
元々は白い壁だったと思われるが、今やすっかり老朽化して黒ずんでおり、その黒い斑点が、まるでお化け屋敷のように不気味に見える。
「素敵なところですねー」
などと言っている菜々子の感性を、美希は疑うしかなかった。
早速、万里香を先頭に建物に入る。
2階建ての建物で、1階部分はオートレストラン、という扱いになっていた。扱い的には、万里香によると、ここはドライブイン兼ホテルらしい。
そこで見たのは、いかにも「昭和臭」が漂う、時代に取り残された姿だった。
床面から、壁面に至るまで、時代に取り残されたように古くて、くすんでいるし、テーブルも椅子も、もはやいつの時代かわからないくらい古い。
そこは、オシャレさの欠片もない、異様な空間で、およそ女子大生が来るようなところではなかった。
実際、昭和の雰囲気を色濃く残した店内には、80年代くらいのゲームセンターの筐体や、スロットゲームが鎮座しており、明らかに50歳を越える中年男性が暇そうにそのゲームをプレイしていたし、1階部分には灰皿が多数あり、タバコの匂いが充満していた。
しかし、万里香は嬉々として、昭和レトロの自販機を見つけると、コインを入れていた。
「何、それ?」
「トーストだ」
美希の声に反応して、嬉しそうに答える万里香。
彼女によると、
「これはただのトースト自販機じゃない。ある種、名物で、開店間もない頃から設置されていてな。今も現役で稼働しているんだ。しかも従業員がマーガリンを食パンに塗って、具材を挟んでアルミホイルで包んでいるんだ。どうだ、すごいだろ?」
「いや、ドヤ顔で言われても」
ということらしい。美希は苦笑していたが。
その出来上がったトーストを嬉しそうに頬張る万里香を見て、美希は、
(ある意味、小学生の男の子みたい)
と思うのだった。
その後、一応、三人はチェックインを果たすのだが。
通された部屋がまた強烈な物だった。
内装の壁が赤茶けた派手な色で、まるで社長椅子のような、黒い重厚な昭和臭いソファーが鎮座し、昭和のドラマに出てきそうな灰色の丸い灰皿があり、上には巨大なシャンデリアがぶら下がっていた。
それは一見すると、
「何だか、昔のラブホテルみたいですねー」
と、菜々子が言う通りだったが、それに対して、鋭く反応したのは美希だった。
「菜々子ちゃん。ラブホテル行ったことあるの?」
「それは秘密ですー」
と、彼女はニコニコしながら答えなかった。
しかし、万里香もまた同じことを思ったようで、
「確かにな。昔、父さんと泊まった田舎のラブホテルがこんな感じだった」
と答えたから、美希は驚いて反応していた。
「いやいや。いくら親子でもどんなとこに泊まってんの?」
と。
しかし、万里香はあっけらかんとしてそれに応じた。
「別に珍しくない。そもそもラブホテルは別に、そういうことをするためだけにあるわけじゃなくて、一般客が泊まってもいいし、実は値段も安いしな」
「そういう問題じゃなくて」
「美希センパイ、堅いですねー。それじゃモテないですよ」
ついには、菜々子にまでそう言われてしまい、美希は不服に思うのだった。
ともかく、彼女たちはこのラブホテルのようなホテルに一泊したのだが。
ベッドまで、古いラブホテルにありそうなキングサイズのベッドで、実は寝心地は悪くはなかった。
翌朝、万里香は飽きもせず、また1階のトースト自販機でトーストを買って、食べていた。
「よく飽きないね」
と、美希に突っ込まれていたが、万里香は笑顔で、
「実はな、このトースト自販機は、新潟県内にはこの『公楽園』と、新潟市北区にある『ポピーとよさか』の2箇所にあるんだが、新潟県以北にはないんだ。だから『北限のトースト』とも呼ばれるんだ」
「ふーん」
結局、美希だけはこれを怪しんで食べなかったが、万里香と菜々子は、嬉々としてそのトーストを頬張って、最後にチェックアウトをして、三人は帰路につくのだった。
こうして、新潟県まで遠征した、昭和レトロを巡るツーリングは終了する。




