表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/21

第20話 北にある不思議な場所、その2

 本格的に新潟県に入った三人。


 その後、湯沢町に入り、国道17号からそれて、十日町とおかまち市に入り、国道117号から、小千谷おぢや市、長岡市を経由。


 やって来たのは、国道116号沿いにある、その奇妙な建物だった。


「着いた」

 感慨深げに呟き、バイクを降りてヘルメットを左手に抱えた万里香。


「マジで来ちゃったよ」

 美希は、その初めて見る光景に驚いていた。


 住宅がまばらにあり、その後ろがほとんど畑か田んぼが広がるのどかなところに、突如異様な建物が姿を現す。


 元々は白い壁だったと思われるが、今やすっかり老朽化して黒ずんでおり、その黒い斑点が、まるでお化け屋敷のように不気味に見える。


「素敵なところですねー」

 などと言っている菜々子の感性を、美希は疑うしかなかった。


 早速、万里香を先頭に建物に入る。


 2階建ての建物で、1階部分はオートレストラン、という扱いになっていた。扱い的には、万里香によると、ここはドライブイン兼ホテルらしい。


 そこで見たのは、いかにも「昭和臭」が漂う、時代に取り残された姿だった。

 床面から、壁面に至るまで、時代に取り残されたように古くて、くすんでいるし、テーブルも椅子も、もはやいつの時代かわからないくらい古い。


 そこは、オシャレさの欠片かけらもない、異様な空間で、およそ女子大生が来るようなところではなかった。


 実際、昭和の雰囲気を色濃く残した店内には、80年代くらいのゲームセンターの筐体きょうたいや、スロットゲームが鎮座しており、明らかに50歳を越える中年男性が暇そうにそのゲームをプレイしていたし、1階部分には灰皿が多数あり、タバコの匂いが充満していた。


 しかし、万里香は嬉々として、昭和レトロの自販機を見つけると、コインを入れていた。


「何、それ?」

「トーストだ」

 美希の声に反応して、嬉しそうに答える万里香。


 彼女によると、

「これはただのトースト自販機じゃない。ある種、名物で、開店間もない頃から設置されていてな。今も現役で稼働しているんだ。しかも従業員がマーガリンを食パンに塗って、具材を挟んでアルミホイルで包んでいるんだ。どうだ、すごいだろ?」

「いや、ドヤ顔で言われても」

 ということらしい。美希は苦笑していたが。


 その出来上がったトーストを嬉しそうに頬張る万里香を見て、美希は、

(ある意味、小学生の男の子みたい)

 と思うのだった。


 その後、一応、三人はチェックインを果たすのだが。


 通された部屋がまた強烈な物だった。


 内装の壁が赤茶けた派手な色で、まるで社長椅子のような、黒い重厚な昭和臭いソファーが鎮座し、昭和のドラマに出てきそうな灰色の丸い灰皿があり、上には巨大なシャンデリアがぶら下がっていた。


 それは一見すると、

「何だか、昔のラブホテルみたいですねー」

 と、菜々子が言う通りだったが、それに対して、鋭く反応したのは美希だった。


「菜々子ちゃん。ラブホテル行ったことあるの?」

「それは秘密ですー」

 と、彼女はニコニコしながら答えなかった。


 しかし、万里香もまた同じことを思ったようで、

「確かにな。昔、父さんと泊まった田舎のラブホテルがこんな感じだった」

 と答えたから、美希は驚いて反応していた。


「いやいや。いくら親子でもどんなとこに泊まってんの?」

 と。


 しかし、万里香はあっけらかんとしてそれに応じた。

「別に珍しくない。そもそもラブホテルは別に、そういうことをするためだけにあるわけじゃなくて、一般客が泊まってもいいし、実は値段も安いしな」

「そういう問題じゃなくて」


「美希センパイ、堅いですねー。それじゃモテないですよ」

 ついには、菜々子にまでそう言われてしまい、美希は不服に思うのだった。


 ともかく、彼女たちはこのラブホテルのようなホテルに一泊したのだが。


 ベッドまで、古いラブホテルにありそうなキングサイズのベッドで、実は寝心地は悪くはなかった。


 翌朝、万里香は飽きもせず、また1階のトースト自販機でトーストを買って、食べていた。

「よく飽きないね」

 と、美希に突っ込まれていたが、万里香は笑顔で、


「実はな、このトースト自販機は、新潟県内にはこの『公楽園』と、新潟市北区にある『ポピーとよさか』の2箇所にあるんだが、新潟県以北にはないんだ。だから『北限のトースト』とも呼ばれるんだ」

「ふーん」

 結局、美希だけはこれを怪しんで食べなかったが、万里香と菜々子は、嬉々としてそのトーストを頬張って、最後にチェックアウトをして、三人は帰路につくのだった。


 こうして、新潟県まで遠征した、昭和レトロを巡るツーリングは終了する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ