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第19話 北にある不思議な場所、その1

 4月。万里香、美希が大学3年生に、菜々子が大学2年生に進級。


 この夏には、インターンシップなどの就職活動を控えているので、万里香、美希にとっては、モラトリアムの期間は残りわずかになる。


 そんな4月末のゴールデンウィークを控えていた時期。


「たまには1泊して、面白いところに行くか」

 いつものように大学構内のカフェテラスで、万里香が唐突に発した。


「また、いきなりだね。別にいいけど、どこに行くの?」

「新潟だ」


「新潟? 思いきり遠征だね。前に静岡は面倒くさいって言ってなかった?」

「まあ、そうだな」


「新潟も静岡も大して変わらないじゃない」

「いや、静岡の方が遠い」

 などと、万里香と美希が不毛なやり取りをしていると、菜々子が、


「まあまあ、お二人共。それで、どこに行くんですか?」

「ホテル公楽園こうらくえんだ」


「どこ、それ?」

 美希の疑問に、万里香は、地図アプリからレビューが書かれたその場所の画像を見せてくれた。


 それを見て、美希は思わず声を上げていた。

「何、ここ? 汚い」

 そう。画像に映し出されていたのは、白い壁が黒ずんで汚れている、2階建ての箱型の建物で、それがホテルとは思えないような不気味な雰囲気をかもし出していた。


「知らないのか? その筋では有名な昭和レトロなホテルだ。ちなみに1階にはレトロ自販機もある」

「へえ。面白そうですねー」

 早くも乗り気な菜々子に対し、美希は、


「いや、でもさ。本当にここ、ヤバくない?」

「ヤバくない。むしろ人気があるんだ。この昭和レトロ感を求めて、全国からファンが来る」

「マジで?」

「マジだ」


 ということで、美希だけ乗り気ではなかったが、急きょ、新潟遠征が始まることになった。


 もっとも、単純に高崎から新潟までなら、高速を使えば2時間半、下道でも約4時間半、距離にしておよそ190キロ程度。

 つまり行こうと思えば日帰りも可能なのだが。


 万里香によると、

「ついでに見ておきたいところがあるから、泊まる」

 とのことだった。


 出発は、4月28日。翌日が休みのため、彼女たちは講義を休講して朝から出発することになった。


 万里香が見たいという目的地が下道の途中にあるため、結局、高速道路を使わずに下道で行くことになった彼女たち。


 群馬県内を走り、みなかみ町から国道17号に入る。

 そこから先はぐんぐん坂道を登って行くことになる。


 一気に標高が高くなり、4月のこの時期は、走っていても「寒さ」を感じるほどの気温となっていた。


 そして、その標高が高い場所、三国みくに峠を越えると、県境となり、新潟県に入る。


 彼女たちにとって、初の新潟県。


 休憩も兼ねて、先頭の万里香が停まった場所がそこだった。


 苗場なえば


 かつて、バブル期に起こったスキーブームにより、スキー客でごった返し、スキーリゾートとなり、多数のリゾートホテルが建てられた場所。


 しかし、

「人がいないなあ」

 バイクを降りてみて、美希が真っ先に発していたように、周囲には全然人気(ひとけ)がなかった。


 それに反して、そこには巨大なリゾートホテルのような高層マンション群が林立していて、ある種、非常に不気味な景観だった。


「今はシーズンオフだから、なおさら人がいないんだ」

「それにしても、お店すらやってないようだけど」

 美希の指摘通り、「土産屋」という看板が掲げられている店の軒先のシャッターが閉まっているし、そもそも歩いている人が一人もいなかった。


「そっか。リゾートマンションの廃墟ですね」

 と、一人早合点した菜々子が納得していたが、万里香が首を振っていた。


「正確には廃墟じゃない。ただ、ここのマンションはかつては3000万円を超える値段で売りに出されていたんだが、今はひどいのになると10万円以下らしい」

「10万円! 私たちでも買えるレベルじゃない」


「そうだな」

「何でそんなに安いんですか?」


「買い手がつかないからさ」

 万里香によると、かつては「憧れのリゾートマンション」として知られていたこの苗場。スキーブームによりバブル期には大賑わいだったそうだが、バブルが弾けて、一気に観光客が減り、買い手がつかなくなり、値下げを開始。


 今では、ほとんどタダ同然で売りに出されているらしい。


「マンションってのは、管理費や積立金つみたてきんによって、持っているところがあるから、買い手がつかないと、どんどんすたれていく。やがては廃墟になる運命だな」

「なるほど。それで、こんなに人気がないんだね」


「それ以外にも、この辺りは車がないと生活ができない、冬は豪雪になる、生活物資は隣の湯沢ゆざわ町まで行かないと手に入らないなど、要は不便ってのもある」

 万里香が見たかったという、その廃墟になるのを待つかのように、静かにたたずむ苗場のリゾートマンション群。


 美希の眼からは、ある意味、「ユートピアになりそこねたディストピア」のようにも見えるのだった。


 苗場で、散々歩いて廃墟に似た、リゾートマンションやリゾートホテル群を見た後、彼女たちは新潟県中心部に向かう。

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