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第17話 鳴らないウェディングベル

 年が明けた1月。


 一年で最も寒さが厳しい季節になっていた。

 昨今、地球温暖化により、寒さが収まるはずと思っている人間が多いが、温暖化による影響は、季節を「二極化」させている。


 つまり、「極端に暑い夏」と「極端に寒い冬」になり、その間の春と秋の体感がものすごく短くなる。


 ということで、

「寒い! どこにも行きたくない!」

 と、ある日の昼休みに、大学のカフェテリアで美希が愚痴っていた。


「ホント、最近寒いですよね。セローって、ウインドスクリーンがないネイキッドのバイクなので、寒さがこたえるんですよ」

 菜々子も頷いていた。


「まあ、そう言うな。夏は夏で暑いんだ。冬なら冬の楽しみ方をすればいい」

「どういうこと?」


「つまり、パッと言って、サッと見て、日没前にさっさと帰る」

 それが万里香の提案だった。


「で、どこに行きたいの?」

 寒くて行きたくないと言いつつも、美希は半ば諦めて付き合うことを考えるのだった。


「そうだな。茨城県でも行くか」

「何で、茨城県? どうせならもっと暖かい静岡県辺りに行けば?」


「静岡なんて遠いし、めんどい」

 という、身も蓋もない、万里香の鶴の一声で、あっさり決まってしまった。


 彼女によると目的地は、茨城県笠間(かさま)市にある、廃墟だという。

「笠間? ってどこ?」

「この辺だ」

 相変わらずアバウトすぎる、万里香の一言に反応した美希が質問し、万里香は地図アプリから示す。


 時間的には、群馬県から前に行った、つくば市とあまり変わらないが、笠間市は茨城県のほぼ中央に位置する小さな街らしい。


 真冬で、日没前にはさっさと帰りたいため、彼女たちは高速道路を使うことになった。


 関越道から、北関東自動車道、東北道、また北関東自動車道を通り、約2時間、距離にして150キロほど。


 早速、日曜日の朝9時頃から出発したのだが。

(めっちゃ寒い。寒すぎてスピード出せない!)

 美希は、バイクにまたがって、高速道路を走りながら、常に左側車線を走り、どんどん車に追い抜かれて行く様子を見ながら、嘆くのだった。


 真冬のバイクは、寒さとの戦いになる。特にグリップヒーターがついていないバイクだと、真っ先に手が寒さでやられる。

 その次に、体全体が冷えてきて、次第に体の動きが鈍ってくる。


 途中にあるパーキングエリアで休憩しながら、自販機で買った暖かいコーヒーを飲みながら、美希は愚痴るのだった。

「やっぱ冬はダメだね。寒すぎてスピード出せない」

「それな。まあ、冬ばかりは仕方がない」


「そういう時はこれですよ」

 菜々子は、魔法瓶のような筒を持ってきており、そこに入った飲み物を飲んでいた。


「菜々子ちゃん、それ何が入ってるの?」

「暖かいココアです。家で熱々のを入れてきました。飲みます?」


 美希が頷き、彼女から魔法瓶を受け取って、一口飲むと。

「おお、これはすごいね。経済的だし、暖かい。どれくらい持つの?」

「大体6時間くらいは保温が持ちます」

 彼女、菜々子はよくセローで林道に行くこともあるため、そもそも自販機などないので、よくこの魔法瓶に飲み物を入れて持って行くらしい。

 特に冬は、この魔法瓶が活躍することが多いという。


「いいなあ。私も買おうかな」

「そんなに高くないのでオススメです」


 結局、寒さに耐えられず、ダラダラと休憩しながら目的地に向かう三人だったが、この日の最高気温は日中でも10度にも届かなかった。

 朝晩は一桁台前半まで冷え込む、真冬の強烈な寒気が漂い、おまけに風まで強い日だった。


 何とか友部ともべインターから降りて、目的地に到着する。


 それは、田園風景と住宅街の中に突如現れた。


 二階建ての建物で、上に尖塔のような構造物があり、そこに時計がついている。時計は9時の部分を指したまま止まっていた。

 窓という窓は、枠を残して全てなくなっており、その窓の先には不気味な黒い空間がぽっかりと口を開けていた。正面には立ち入り禁止を現す看板と、ロープ、工事用の鉄の柵が置かれていた。


 その隣にも関連する建物があったが、こちらは窓ガラスが割られており、見るも無残な姿になっていた。


 バイクを降りて、いつものように写真を撮る三人。

 落ち着いたところで、美希は尋ねていた。


「万里香、ここは?」

「結婚式場の跡だ。かつてはそれなりに有名な場所でな。この系列が運営する結婚式場は全国各地にある」


「へえ。結婚式場の跡だなんて、素敵ですね。でも、どうして廃墟になったんですか?」

「さあ。理由はわからん。ただ、1990年代にはもう廃墟になっていたらしい。2011年頃には不審火で火事になっている」


「なるほど。まあ、廃墟あるあるですね。それにこの不法投棄も」

 菜々子が言うように、「不法投棄禁止」と書かれた看板のすぐ横には、大量の冷蔵庫やテレビが転がっていた。


 前にならえの精神というか、人間というのは、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」となるらしい。


 もちろん、彼女たちは敷地内には入らない。

 なのだが、建物の周りを回ってみて、菜々子があることに気づいた。


 それは、

「あそこ見て下さい」

 彼女が指さした先には、関連する建物の窓に描かれた、二組のキューピッドの絵だった。

 矢をつがえた二組のキューピッド、つまり天使が向かい合っている様子が窓に描かれている。


「何だか可愛いですね」

「ああ。だが、祝福はされなさそうだ」

 菜々子の一言に、万里香が辛辣に答えを返していた。


(ここで結婚式を挙げた人たちは、幸せになったのかな。自分が結婚式を挙げた場所がこんなになるなんてどんな気持ちだろう)

 美希は、漠然とそんなことを考えていた。


 今回の廃墟ツーリングは、どこか物寂しい感覚を持って、終わるのだった。

(せっかく歴史的な建造物みたいに見えるのにもったいない)

 万里香は、万里香で別の意味で、この廃墟をもったいないと感じるのだった。


 そして、

(私はここでは結婚式挙げたくないなあ)

 菜々子もまた、そんなことを思っていた。

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