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第16話 無人島にある要塞跡

 12月。


 ようやく暑さが落ち着き、というより一気に寒くなってくる頃。


 大学2年生の美希、万里香、大学1年生の菜々子の三人組は、急きょ、万里香の発案で、神奈川県横須賀市に来ていた。


 目的地は一つ。


「東京湾最大の無人島だって」

 フェリーターミナルでパンフレットをもらって、その紙面に目を走らせていた美希が呟く。


「そうです。ここは、明治時代に建てられた、要塞跡があるんですよ」

 菜々子が興奮気味に語る。


「まあ、廃墟好きとしては、一度は来てみたかった場所だ」

 言い出しっぺの万里香が返す。


 元々は、その万里香が、

「冬でも路面凍結しない場所にある廃墟にバイクで行きたい」

 と、言い出したのがきっかけで、群馬県からは遠いが、わざわざバイクで高速道路を使い、横須賀市までやって来たのだ。


 その日は土曜日だったが、横須賀市役所の駐車場が空いており、そこにバイクが置けるので、そこから歩いてフェリーターミナルにやって来た三人。


 猿島に渡るには、そこからフェリーでわずか10~15分で着く。


 東京湾に浮かぶその島。猿島巡りツアーなんてのもあって、専門の職員が説明してくれるのだが、万里香はそれを嫌がり、個別で三人で行くことになった。


「何で、ツアー利用しないの?」

 と、美希が聞くと、


「なんか、ああいうの嫌だから」

 という漠然とした答えしか万里香から返ってこないのだった。


 菜々子は、

「まあわかりますけどね、その気持ちは。いかにも観光って感じが嫌なんですよね」

 と同調していた。


 やがて、フェリーに乗り込み、わずか10分足らずで到着。

 往復の乗船料と猿島への入島というより、猿島公園入園料ということで、合計で約2500円ほど取られることになる。


「高い」

 と、万里香は愚痴っていたが。


 着いてみると、確かにそこには不思議な空間が広がっていた。

 ここは無人島で、昔は東京湾の首都防衛拠点となり、明治期に猿島砲台が建設されている。


 その跡がここに広がっているのだ。


 実際、桟橋から歩いてみると。切通しのある道があり、脇にレンガ造りの昔の兵舎跡が残されていた。


「これはフランドル積みだな」

「フランドル? 何、それ?」

 万里香の一言に、美希が反応する。


「レンガ造りの手法の一つだ。正面から見たときに、一つの列に長手ながて小口こぐちが交互に並んで見えるのがフランドル積み。綺麗に見えるんだが、構造的にはモロいからすたれたと言われる」

 相変わらず妙なことに詳しいと思いながらも、美希も観察してみた。


 確かに赤茶けたレンガ造りの構造物が自然の中に並び、コケが生えた様子などを見ると、悠久の時代の流れと、様式美を感じられる。


「確か日本では、数少ない貴重な物なんですよね?」

「ああ、そうだ。猿島は一度来てみたかったが、これは見事だな」

 結局、恐らくツアーの人たちだろう。

 団体の連中が来て、鬱陶しいと感じたと思われる万里香がその場を立ち去るまで、彼女たちはひたすら写真を撮ることになった。


 続いて島内を歩いて行くと、特徴的なレンガ造りのトンネルが現れる。


 いかにも明治・大正期の建造物と言っていい、古い赤茶けたレンガ造りのトンネルは通るだけで、雰囲気が良くて、ちょっとした撮影スポット、映えスポットにもなる。


 再び、興奮気味に写真を撮る二人の様子を横目に見ながら、美希も冷静に写真を撮っていた。


 さらに進むと砲台の跡が残っていた。

 砲台の跡自体は、実は対岸の横須賀市近辺にもいくつか残っており、昔はこの辺りが、東京湾を守る重要拠点だったことを如実に現わしている。


「昔は、この辺り一帯が東京湾要塞と呼ばれてな。対岸の観音崎かんのんざきにも砲台があって、逆に千葉県の富津ふっつ岬にも砲台があった」

「へえ。つまり、東京を守る玄関口だったわけね」


「美希にしては、まともな回答だが、その通りだ」

「一言多い」

 文句を言いながらも、美希は党内の散策を楽しむのだった。


 確かに今や貴重なレンガ造りの建物や、砲台跡を見るのは彼女にとっても興味深いものだった。


「で、その東京湾要塞は実戦で使われたの?」

「いや」


「一度も?」

「ああ。使われたことがない。そもそも太平洋戦争でも敵が東京湾に入ってくる前に日本は降伏したしな。本土決戦が行われていれば使われたかもしれないが」


「何だ、もったいない」

「でも、戦争なんてない方がいいですよ」

 菜々子のもっともな意見に、二人は頷くのだった。


 結局、2時間ほどこの島を歩き回り、散々写真を撮った後、三人は再びフェリーに乗り、横須賀へ戻った。


 最後は、横須賀名物のネイビーバーガーを食べて、帰路に着くのだった。


 しかし、美希は内心思っていた。

(首都圏、特に東京や神奈川は人や車が多すぎてゴミゴミしてて苦手)

 と。


 季節は、真冬へと向かっていた。

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