第13話 スターハウス
10月に入り、やっと異常な暑さが落ち着いた頃。
唐突に、万里香が提案したのがきっかけだった。
「スターハウスを見に行く」
「スターハウス? 何、それ?」
美希と菜々子、そして万里香が集まった、大学のカフェテリア。
昼下がりに、唐突に出た言葉だった。
「知らないのか? スターハウスってのは、Y字型の平面形状を有するものでな。上から見ると星型に見えるから、星型住宅なんて呼ばれてる」
「へえ。オシャレですね。でも、どこにあるんですか?」
菜々子の問いに、万里香が答える。
「昔は全国にいっぱいあったらしいが、今、首都圏で残されてるのは、ひばりが丘、赤羽台辺りかな」
「都内ですね」
「ちょっと遠くない? あと、都内は信号機多くて、すぐ渋滞するから嫌いなんだけど」
美希は不服そうに言葉を返す。
「だから高速を使う」
「それくらいかかります?」
「ひばりが丘なら、1時間45分くらい。ちなみに下だと3時間以上はかかる」
「マジか。じゃあ、高速で行こう」
美希の一言が決定打となり、二人も頷く。
ということで、10月中旬のある日、いつもの3人はそれぞれのバイクで都内に向かうことになった。
前橋インターチェンジから関越自動車道に乗り、後はひたすら真っ直ぐ下る。
都内に近づくにつれ、周りの景色は住宅街だらけになり、巨大なビルやマンションが増えてくる。
やがて、所沢インターチェンジで降りて、後は下道。
途中で休憩を挟み、約2時間10分ほどで到着。
そこに広がっていたのは。
確かに、横から見ると、不思議なY字型の団地で、4階建てのマンションというか、アパートだった。
古い建物だが、整備はされているようで、特徴的な建物だった。場所的には、東京都東久留米市になるという。
「確かに、Y字型の団地だけど、これは上から見ないとわからないよね。ドローンとかないの?」
「ない」
万里香の一言は、にべもなかった。
「じゃあ、仕方ないですね。とりあえず見ましょうか」
菜々子が先導するように歩き出した。
万里香によると、この特徴的なスターハウスは、公営住宅の一種で、日本住宅公団 (現・都市再生機構)が、公団住宅第1号である1956年(昭和31年)竣工の金岡団地での導入を皮切りに、多数の団地にスターハウスを建設したらしい。
その後、板状住棟に比べ1戸あたりの建設費が高額であることや、住宅用地の不足による量的要求が増したことにより、1964年(昭和39年)12月竣工の愛知県にある名和団地のスターハウスをもって、公団住宅での中層スターハウスの建設が終了したということらしい。
つまり、
「それじゃ、新しくても60年以上経ってるんですね」
菜々子の言う通り、住宅の歴史としては古い。
「面白いのは、中だ」
万里香は、わざわざ住人の一人を捕まえて、見学に来たから見せて欲しいと頼み込んで、中を見せてもらうことになった。
とは言っても、階段部分である、共有部分だけだったが。
そして、
「おお、下から見ると、確かに面白い」
美希が上を見上げて声を出した。
階段部分を下から見上げると、ちょうど三角形に見えて、螺旋状の階段が上まで伸びている。
「だろ。これだけで飯3杯は食べれる」
そんなことを呟く万里香に、美希は慣れたとはいえ、呆れていた。
続いて、同じく都内の北区赤羽にある、団地に行く。
短い距離なのと、首都高は狭くて苦手という、美希の意見に従って、一行は下道だけで向かったが。
(渋滞、信号機。やっぱり都内は苦手だな)
美希は、少しだけ後悔することになる。
何とか混雑する道をすり抜けもしながら、向かい、1時間弱。
北区赤羽台にある、スターハウスに到着。
形としては、ひばりが丘にあったものとほとんど同じような形状のものだった。
つまり、特徴的なY字型の団地で、こちらは5階建てという違いはあるが、ほとんど同じ形状。
そして、同じく現役の団地として生きている。
「たまには、こうした”生きた”団地もいいだろう」
というのが、万里香の意見だった。
「そうだね。いつも死にそうな、というかもう死んでる廃墟ばかりだったからねえ」
「でも、子供たちの声が聞こえないのが残念ですね」
菜々子が発言したように、こうしたスターハウスに住む住人は、高齢化が進んでおり、60代、70代、あるいは80代の住人もいるという。
まさに、少子高齢化の縮図のような部分があった。
団地は、かつては高度経済成長期に建てられ、それこそ数多くの家族の団らん、憩いの場として生きてきた歴史があるが、今や高齢化の波に押し流されようとしている。
ちなみに、万里香によると、多くのスターハウスがなくなる中、ここ赤羽台団地は、登録有形文化財に登録され、保存が決定しているという。
「いいなあ、こういう団地。住みたい」
と、万里香はご満悦そうだったが、一方、美希は嫌がっていた。
「何でだよ?」
万里香に問われ、
「だって、階段しかないから」
というもっともな理由を彼女は返していた。
通常、マンションやアパートは、3階建てならほとんどの場合、エレベーターが設置されるが、こうした古い団地になると、それがないことが多い。
ここもそうで、つまり、「若いうちはいいけど、年を取ると階段が大変」になることが多い。
現代社会の、それこそバリアフリーなんかには対応できていないのだ。
「見てる分には綺麗ですけどねえ」
菜々子も、美希と同じような意見のようで、外から眺めて写真を収めていた。
こうして、万里香による、思い付きで発生した、スターハウス見学は終わったのだ。
季節は進む。




