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第12話 学者たちの夢の跡

 夏は終わった。


 確かに大学の「モラトリアム」と言っていい、長い夏休みは終わったが、正確には温暖化の進む現代において、まだまだ夏は終わっていなかった。


 9月。

 学校が始まってから最初の土曜日。


 山田、田中、高橋の三人組は、高速道路上にいた。

 これは、数日前に、いつものように唐突に山田万里香が、


―週末に、つくばにある廃墟を見に行く―

 と、通知アプリのグループチャットで言い出したことに端を発したのだが。


―つくば? じゃあ、高速使おう―

 と、提案した田中美希は、内心、まだ全然バイクで高速道路を使っていなかったので、「慣れる」意味でも高速道路を走りたいと思っていた。


 しばらく間があってから、万里香は、

―わかった。下道だと3時間はかかるし、面倒だから今回は高速で行く―

 と、やっとこのメンバー初の高速道路走行を認めた。


 ちなみに、美希が調べた限り、下道だと約3時間半、127キロ。一方、高速道路だと約2時間半、158キロ。


 距離は走るが、楽なことは楽だろう、と考えた。


 そして、実際、乗ってみると、確かに楽ではあった。

 しかし、


(風、強いし、風圧がキツい)

 所詮は250ccレベル、正確には232ccの軽二輪に過ぎない彼女のバイク、カワサキのKLX230。もちろん風防、いわゆるウインドスクリーンもついてないため、美希は高速道路での走行時に受ける風の影響は大きいと思うのだった。


 同じように軽二輪の残りの2人も、それほど楽そうには見えず、実際あまり飛ばしておらず、左車線を走っていた。


 それでも、

(信号機ないだけ楽かあ)

 とも思うのだった。


 高崎市から関越自動車道に乗り、途中から北関東自動車道に入ると、後はひたすら東に向かう。途中で東北自動車道に入るが、またすぐに北関東自動車道に戻る。


 この北関東自動車道は、そもそもあまり交通量が多くないので、土曜日とはいえ、流れは良かったので、あっという間に茨城県に入っていた。


 桜川筑西(ちくせい)インターチェンジを降りて、後は真っ直ぐに下るだけだった。


 茨城県つくば市。

 「TX」と略されるつくばエクスプレスの終着駅があり、駅前は結構道幅が広くて、広大な印象を抱かせる。


「こんなところに廃墟なんてあるの?」

 と、駅前にあるバイクを駐車場に停めてから、いぶかしみ、尋ねる美希に、万里香は、


「ある」

 とだけ短く呟いて、スマホの地図アプリを参考に歩き出した。


「楽しみですねー」

 相変わらず、能天気というか、呑気な声で頷く菜々子。


 そして、それは駅前からほど近い場所にあった。

「マジ? これ、全部廃墟?」

「そう」

 美希たちの前に立ちはだかったのは、巨大な「団地」だった。


 その10階建てくらいある団地がすべて廃墟だというから驚きだ。実際、全く人の気配を感じない。

 しかも、それが一棟だけではなかった。


「あっちもあっちも廃墟」

 と、万里香が指さした方向には、同じような形をした、数階建てのマンションというか、団地がゴロゴロと転がっており、同じく人の気配が全くなかった。


 日中とはいえ、土曜日。本来なら、子供の声や賑やかな声が響いていてもおかしくないはずの、一見穏やかな団地の風景。


 しかし、その団地はすでに「死に絶えて」いたのだ。


 人が住まなくなって、すっかり色()せている外壁、その外壁にも亀裂が入り、周囲の木々が侵食するように、団地のベランダ付近まで伸びている場所もあった。1階の窓には侵入防止のための板が打ち付けられてあった。


 建物的には、いかにも昭和に建てられたような、古い形状のマンションと言っていいが、それらが一棟や二棟ではなく、ゴロゴロと転がっているのがかえって不気味だった。


 まるで、ここだけが「終末世界」の異世界のような感じがするくらい、人がいなかった。


「ねえ、何でこんなに廃墟があるの?」

 当然ながら、美希は疑問を持った。


「これらは、元々公務員住宅だったんだ」

「へえ。それがどうして廃墟になったんですか?」

 菜々子の問いに対し、万里香は恐らく事前に調べてきたんだろう。説明するのだった。


「かつて、ここら辺一体は、筑波つくば学園都市として開発され、高度成長期に東京の人口が爆発的に増加したことを受けて、首都機能の一部を移転する事から始まったんだ」

 そこから徐々に団地廃墟を歩きながら彼女は説明を続けた。


「そうして、国立大学や研究機関の多くをここに誘致して、一時期は『つくばで石を投げれば学者に当たる』と言われたくらい、研究者が多く移住したんだ」

「この辺の建物はいつ頃、建てられたの?」


「大体、1970年代から1980年代半ば頃かな。1985年に科学万博、つくばエキスポ85ってのが開催された。その辺りがここのピークだったようだ」

 万里香は、すっかり人の手が入らなくなり、雑草がぼうぼうに生えている、団地の周りの道を、草を掻き分けるようにして進みながら、淀みなく話していた。


「この辺りの古い団地は、アスベスト問題や耐震補強の問題を抱えていてな。民間に払い下げられたんだが、その後、売れず、つくばエクスプレスの開業と共に、再開発により取り残され、2011年には国家公務員宿舎の削減計画が公表され、つくば市内の公務員宿舎の約7割が廃止されたらしい」

「じゃあ、この辺はどうなるんですか?」

 菜々子の疑問に、万里香は、少しだけ笑みを浮かべて、死にゆく町並みを見ながら答えるのだった。


「つくばエクスプレスの開業によって、実はこの街は人口が増えている。その証拠にあそこじゃ新しいマンションを建てているだろ?」

 そう言って指さした方向には、確かに巨大なクレーンが、新しいマンションの建設をしている風景が見られたし、よく見ると古い団地でも人が住んでいるところもあった。


「だから、この街は、衰退と発展の途中なんだ。ある意味、この団地廃墟は今しか見れない貴重なものかもしれない。解体して、新しく生まれ変わる可能性はある」

 美希は、それを聞いて、彼女には珍しく、廃墟を見て、前向きな発言をするのだった。


「なるほど。『街は生きている』ってことだね」

「そういうことだ。衰退して取り残された廃墟もあるが、生まれ変わる可能性もある」

「可能性は無限大ですからね」

 ということで、一通り団地の廃墟を見て、彼女たちは再び高速道路を使って、群馬県に帰るのだった。


 彼女たちにとって、初めての「団地廃墟」。しかし、万里香の興味はもちろんまだまだ尽きなかった。

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