第十九話 B級昇格試験後半と灰岩竜尾肉の香草赤酒煮込み
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
「ダガンさん!」
「おう!」
岩陰から、ダガンが飛び出した。
両手で握った大剣を頭上へ振り上げる。
氷に脚を取られた灰岩竜は、六メートルを超える巨体を斜面へ打ちつけようとしていた。
背中と脚を覆う灰色の鱗は、鉄よりも硬い。
しかし、腹の鱗は比較的薄い。
巨体が傾いた今なら、大剣を通せる。
「食らいやがれ!」
ダガンが全身を使い、大剣を振り下ろした。
刃が灰岩竜の腹へ当たる。
ガギィィン!
金属同士がぶつかったような音が、岩山へ響き渡った。
「硬っ……!」
鱗が砕ける。
その下の肉まで刃が入る。
だが、浅い。
灰岩竜は倒れながらも前脚を地面へ突き立て、身体を捻っていた。
剣が直角に入る寸前、腹の向きを変えたのだ。
「グオオオオオオッ!」
灰岩竜が吠える。
傷口から僅かに血が流れた。
痛みを与えることには成功した。
しかし、致命傷には程遠い。
「ダガンさん、離れてください!」
レスティナが叫ぶ。
灰岩竜の太い尾が、斜面を削りながら振るわれた。
「くそっ!」
ダガンは大剣を引き戻し、盾のように構えた。
直後、尾が大剣へ激突する。
ドォンッ!
「ぐっ!」
ダガンの身体が宙へ浮いた。
数メートル先の岩場へ飛ばされる。
「ダガンさん!」
「俺は大丈夫だ!」
地面へ転がりながらも、すぐに声が返ってきた。
立ち上がろうとしている。
意識はある。
だが、尾を受け止めた左腕が僅かに下がっていた。
負傷した可能性が高い。
レスティナは駆け寄りそうになり、足を止めた。
灰岩竜はまだ生きている。
ここで自分が背を向ければ、倒れているダガンが再び狙われるかもしれない。
「ノノさん、ダガンさんの状態を確認してください!」
「分かった!」
岩の上にいたノノが飛び降りる。
レスティナは灰岩竜から目を離さない。
「ルーリィさん、距離を取ってください! 正面には立たないで!」
「了解!」
ルーリィが杖を構えたまま、斜面の横へ移動する。
役割を振り分ける。
負傷者の確認を、自分だけで行う必要はない。
今は灰岩竜の注意を引きつけ、残る仲間を守ることが自分の役目だった。
灰岩竜が四本の脚を地面へついた。
爪を氷へ食い込ませる。
「滑らないようにしています」
ただ暴れているのではない。
一度滑ったことで、凍った地面への対処法を学んだのだ。
「聞いていたより、頭がよいですね」
「感心している場合じゃないわよ!」
「はい」
灰岩竜の黄色い瞳が、レスティナへ向けられる。
最初に石を投げた相手。
地面を凍らせた相手。
この中で最も危険なのが誰か、見極めている。
レスティナは槍を構えた。
自分へ向かってくるなら問題ない。
仲間から引き離せる。
「こちらです」
槍の石突きで、凍った地面を叩く。
乾いた音が響いた。
灰岩竜が頭を低くする。
突進。
レスティナは正面から走り出した。
「おい!」
ダガンの声が聞こえる。
「大丈夫です!」
灰岩竜との距離が縮まる。
十五歩。
十歩。
五歩。
巨大な口が開いた。
鋭い牙。
その奥に、灰色の光が集まっている。
「魔法?」
灰岩竜が息を吸い込んだ。
周囲に落ちていた小石が、口元へ引き寄せられていく。
「レスティナ、避けて!」
ルーリィが叫ぶ。
灰岩竜の口から、無数の石片が放たれた。
石の吐息。
吸い込んだ砂や小石を魔力で固め、高速で撃ち出す灰岩竜の攻撃。
一つ一つは小さい。
だが、速度がある。
無防備に受ければ、全身を削られる。
レスティナは槍を地面へ突き立てた。
「土壁!」
目の前の地面が隆起する。
分厚い土の壁が生まれた。
石片が次々と壁へ突き刺さる。
表面が削れ、土煙が上がった。
レスティナへ届く前に、すべて止まる。
「そんな攻撃もあるのですね」
事前に確認した資料には、石の吐息について詳しく書かれていなかった。
個体によって使える能力が違うのか。
あるいは、過去に戦った冒険者が生きて戻れず、情報が残らなかったのか。
どちらにせよ、最初に自分が受けてよかった。
仲間へ向けられていれば、怪我人が出ていたかもしれない。
「ルーリィさん、今の攻撃を防げますか?」
「水壁で威力は落とせる。でも、全部止めるのは無理よ!」
「では、灰岩竜が息を吸い込んだら、岩陰へ隠れてください!」
「分かった!」
土壁の向こうから、地面を踏み鳴らす音が聞こえる。
石の吐息で視界を奪い、そのまま突進するつもりだ。
レスティナは槍を引き抜いた。
その場を離れる。
直後、灰岩竜が土壁へ激突した。
ドォンッ!
分厚い壁が砕ける。
土と石が周囲へ飛び散った。
灰岩竜は壁を突き抜け、勢いのまま前へ出る。
しかし、その先にレスティナはいない。
真横。
レスティナは、灰岩竜の右側へ回り込んでいた。
「こちらです」
槍を突き出す。
狙うのは脇腹ではない。
硬い鱗と鱗の間。
前脚の付け根。
槍の穂先が隙間へ入り、薄い皮膚を裂いた。
「グオオッ!」
灰岩竜が前脚を振り上げる。
レスティナは槍を引き抜き、後ろへ跳んだ。
大きな爪が地面を抉る。
傷は深くない。
肉を傷つけすぎないよう、槍へ込める力を抑えたからだ。
「少し、力を抑えすぎました」
「肉の心配をしてるのか!」
ダガンの怒鳴り声が聞こえる。
ノノに支えられ、すでに立ち上がっていた。
左腕を痛めているが、大剣は右手で握っている。
「左腕は?」
「痺れてるだけだ! 折れてはいない!」
「戦えますか?」
「誰に聞いてる!」
「ダガンさんです」
「そうじゃない!」
怒鳴れるほど元気なら、意識に問題はなさそうだった。
だが、両手で大剣を振るのは難しい。
「ダガンさんは下がってください」
「まだやれる!」
「片手では、大剣の威力を出せません」
「なら、盾くらいには――」
「これ以上怪我をすると、帰るときにお肉を運べなくなります」
「心配してるのは肉か!」
「ダガンさんもです」
レスティナは灰岩竜を見たまま答えた。
「仲間が動けなくなる作戦は、失敗です。次の攻撃には参加しないでください」
はっきりと告げる。
ダガンは何か言い返そうとしたが、左手を動かした瞬間、顔を顰めた。
「……分かった」
「ノノさん」
「僕は怪我してない」
「攻撃できますか?」
「右目を狙える。けど、鱗が邪魔で、正面からじゃ矢が滑る」
「ルーリィさん」
「まだ魔力には余裕があるわ」
「では、作戦を変えます」
レスティナは灰岩竜の動きを見る。
前脚の付け根へ傷を負っている。
右前脚へ体重をかけるたび、動きが僅かに鈍る。
腹の鱗は、ダガンの大剣で一部が砕けている。
ただし、同じように転倒させようとしても、もう氷には乗らないだろう。
「ノノさんは、右側から目を狙ってください。ただし、矢を当てる必要はありません」
「外していいの?」
「灰岩竜に、右目を閉じさせてください」
「分かった」
「ルーリィさんは、左側から口元へ水を放ってください」
「窒息させるの?」
「いいえ。口を開けさせます」
「そのあとは?」
「私が倒します」
ノノが動く。
岩から岩へ移り、灰岩竜の右側へ回り込む。
弓を構える。
矢を放った。
狙いは右目。
灰岩竜が咄嗟に瞼を閉じ、顔を背ける。
「今!」
「水弾!」
左側から、ルーリィの魔法が放たれた。
大きな水の塊が、灰岩竜の鼻先へぶつかる。
鼻孔へ水が入り、灰岩竜が頭を振った。
「グオオオッ!」
怒りと息苦しさで、大きく口を開ける。
「口の中には、鱗がありません」
レスティナは地面を蹴った。
一気に距離を詰める。
灰岩竜の正面。
開かれた口へ向かい、槍を構える。
だが、灰岩竜の喉奥へ再び灰色の光が集まった。
石の吐息。
先ほどよりも近い。
放たれれば、レスティナだけではなく、後方にいるダガンとベルクまで攻撃へ巻き込まれる。
「させません」
レスティナは左手を突き出した。
灰岩竜の口元へ付着していたルーリィの水へ、氷の魔力を流す。
バキバキバキッ!
水が凍る。
上顎と下顎の間に、太い氷の柱が生まれた。
灰岩竜は口を閉じられない。
石の吐息を放つために集めていた力が、行き場を失う。
「グッ、ゴオオオッ!」
「いただきます」
レスティナは槍を突き出した。
穂先が、口の奥にある柔らかな上顎を貫く。
頭蓋の内側へ入る。
腕へ魔力を集中。
一歩踏み込み、槍をさらに押し込んだ。
灰岩竜の巨体が震える。
太い尾が持ち上がった。
「レスティナ、後ろ!」
ルーリィの声。
死の間際に放たれた尾が、レスティナへ迫る。
避ければ、背後のダガンへ当たる。
レスティナは槍から右手を離した。
振るわれた尾を、片手で受け止める。
ドンッ!
足元の岩へ亀裂が走った。
それでも、レスティナの身体は動かない。
片手で灰岩竜の尾を掴み、その場へ止めている。
「……は?」
ダガンが呆然とする。
レスティナは灰岩竜の瞳を見た。
光が消えている。
脚から力が抜ける。
巨体が傾いた。
「皆さん、離れてください」
刺さったままの槍を引き抜く。
尾を掴み、倒れる方向を変えた。
仲間のいない場所へ、灰岩竜の身体を静かに倒す。
ズズンッ!
岩山が揺れた。
砂埃が舞い上がる。
灰岩竜は、もう動かない。
レスティナは鼻先へ近づき、呼吸を確認した。
首へ触れ、脈も確かめる。
「討伐しました」
静寂。
誰もすぐには答えなかった。
ノノは弓を構えたまま、レスティナを見ている。
ルーリィは杖を下ろすことも忘れていた。
ダガンは、片手で止められた巨大な尾と、レスティナの細い腕を交互に見ている。
「お前……」
最初に口を開いたのは、ダガンだった。
「最初から、一人で倒せたんじゃないか?」
「はい」
「はい、じゃねえ!」
「ですが、それでは試験になりません」
「俺たちがいる意味はあったのか?」
「ありました」
レスティナは灰岩竜の右目を指差す。
「ノノさんが目を閉じさせてくれました」
次に、凍った口元。
「ルーリィさんの水があったので、口を閉じられなくできました」
腹の砕けた鱗。
「ダガンさんの攻撃で、灰岩竜の注意を腹へ向けられました。それに、灰岩竜が身体を捻って攻撃を避けることも分かりました」
「最後は、お前一人だっただろうが」
「皆さんが作った隙を使いました」
レスティナは三人を見る。
「一人でしたら、正面から殴っていたと思います」
「だろうな……」
ダガンは諦めたように息を吐いた。
レスティナは、すぐに灰岩竜の解体を始めなかった。
槍を地面へ置き、ダガンのもとへ向かう。
「左腕を見せてください」
「大したことはない」
「大したことがあるかは、見てから決めます」
「……分かったよ」
ダガンの胸当てを外す。
左腕を覆う防具も、慎重に取り外す。
外傷はない。
腕の形にも、不自然な変化は見られない。
指を一本ずつ動かしてもらう。
「痛みますか?」
「動かすと少しな」
「では、骨は折れていないと思います。腕を上げてください」
「この辺りまでだ」
肩の高さへ上げたところで、動きが止まる。
尾の衝撃を大剣で受けた際、筋肉と関節を痛めたらしい。
レスティナは水魔法で布を濡らし、氷魔法で冷やした。
冷たい布を、腫れ始めている場所へ当てる。
「しばらく冷やします。そのあと、布で固定します」
「治療もできるのか」
「狩りで怪我をしたときのために、師匠から教わりました」
「《飯狂い》が怪我することなんてあるのか?」
「修業を始めた頃には、よくありました」
「今は?」
「最近は、あまりありません」
「だろうな」
次に、ノノとルーリィの状態を確認する。
ノノは高い岩から飛び降りた際、手のひらを少し擦りむいていた。
水で汚れを洗い、消毒作用のある薬草を潰して塗る。
ルーリィに外傷はない。
魔力の消費も、本人の申告では半分以下。
レスティナは全員の状態を確認し終えてから、ようやく灰岩竜へ向き直った。
「血を抜きます」
「やっと肉か」
ダガンが笑う。
「はい。ですが、一人では時間がかかります。手伝っていただけますか?」
「もちろんだ」
「俺は片腕しか使えないぞ」
「では、縄の位置を指示してください。動かすのは私がします」
「分かった」
「ノノさんは、周囲を警戒してください。他の魔獣が血の匂いへ寄ってくるかもしれません」
「任せて」
「ルーリィさんは、水をお願いします。切った場所と道具を洗います」
「ええ」
先ほどまでとは違う役割。
戦いが終わっても、周囲の安全を確保し、負傷者に無理をさせず、必要な仕事を分担する。
レスティナは灰岩竜の後ろ脚へ縄をかけた。
近くの大岩を支点に使い、巨体の首が低くなるよう傾ける。
首の鱗は硬い。
刃を入れやすい場所を探し、顎の下にある鱗の隙間へ短剣を差し込んだ。
太い血管を切る。
濃い血が勢いよく流れ出した。
岩場の低い場所へ血が溜まらないよう、土魔法で細い溝を作る。
レスティナは灰岩竜の腹と胸を押し、残っている血を送り出した。
「鱗を剥がす前に、どこまで持ち帰れるか考えます」
「全部じゃないのか?」
ルーリィが尋ねる。
「本当は全部持ち帰りたいです」
「持てるだろ、お前なら」
ダガンが言う。
「私一人なら持てます。ですが、帰り道で魔獣に襲われたとき、すぐに皆さんを守れません」
巨大な死骸を担いだままでも戦うことはできる。
けれど、視界は狭くなる。
片手も塞がる。
仲間を庇う動きは遅れる。
「必要な部位だけを持ち帰ります。残りは明日、ギルドへ回収を依頼します」
腹肉。
尾の付け根。
心臓と肝臓。
料理に使う骨。
素材として価値の高い鱗と牙。
今日持ち帰るものを選ぶ。
食べられる部位をすべて持ち帰れないのは、レスティナにとって苦しい判断だった。
それでも、食材より仲間の安全を優先した。
少し離れた場所で、試験官のベルクが一連の様子を見ている。
彼は何も言わない。
助言もしない。
ただ、手元の紙へ何かを書き込んだ。
「もう日が傾いています」
レスティナは空を見上げた。
「今から山を下りるのは危険です。今夜は鉱山の詰め所を借り、明朝出発します」
「賛成だ」
ダガンが答える。
「ダガンさんは、もう動かないでください」
「肉を運ぶくらいならできる」
「治る怪我が悪化すると、帰りが遅れます」
「だが――」
「私たちが運ぶわ」
ルーリィが灰岩竜の腹肉を指差した。
「レスティナ一人に任せるのも違うんでしょう?」
「はい」
レスティナは頷く。
「では、皆さんが運べる重さに分けます。ダガンさんは何も持たないでください」
「怪我人扱いかよ……」
「怪我人です」
「容赦ねえな」
ノノが笑った。
安全な場所へ移動するため、全員で荷物をまとめる。
最後に、レスティナは灰岩竜の肉を一塊だけ別へ分けた。
「それは?」
ノノが尋ねる。
「今夜の分です」
「まさか」
「はい」
レスティナの目が輝く。
「灰岩竜が本当に硬くて美味しくないのか、確かめます」
B級昇格試験は、まだ終わっていない。
それでもレスティナにとって、討伐した魔獣を美味しく食べるところまでが依頼だった。
◇
日が沈む前に、一行は鉱山の詰め所へ到着した。
採掘作業が中止されているため、中に人はいない。
石造りの小さな建物には、作業員が休むための広間と、道具を保管する倉庫があった。
窓の一部は割れているものの、壁と屋根に大きな損傷はない。
「今夜は、こちらを使います」
レスティナは室内を確認した。
床に魔獣の足跡はない。
残されていた食料も荒らされていない。
灰岩竜は身体が大きすぎて、扉を通れなかったのだろう。
「ノノさんは、建物の周囲を確認してください。魔獣の痕跡があれば教えてください」
「分かった」
「ルーリィさんは、飲み水をお願いします」
「近くに川があったわね。汲んだあと、魔法で浄化するわ」
「お願いします」
「俺は?」
ダガンが尋ねる。
「座っていてください」
「本当に何もさせないつもりか」
「怪我を治すことが、今の仕事です」
「片腕は動くぞ」
「片腕でできることでしたら……」
レスティナは少し考えた。
「灰岩竜のお肉へ使う香草を、茎から外していただけますか?」
「……子供でもできる仕事だな」
「片腕でもできます」
「分かったよ」
不満そうにしながらも、ダガンは椅子へ座った。
机の上に香草を置き、葉を一枚ずつ茎から外し始める。
レスティナは、試験官のベルクへ目を向けた。
「ベルクさんは、何をしていただけますか?」
「俺は試験官だ」
「料理をしている間に襲われた場合は?」
「お前たちで対処しろ」
「では、見張りをお願いします」
「……試験官を使う気か?」
「何もしないのでしたら、周囲を見ることはできます」
ベルクが僅かに眉を動かした。
「俺は評価をする側だぞ」
「はい。私たちが安全に野営できるか、外で見ていてください」
「……分かった」
ベルクは反論を諦め、詰め所の入り口へ向かった。
その背中を見ながら、ダガンが笑う。
「試験官に見張りをさせる奴は、初めて見たぞ」
「手が空いていましたので」
「間違っちゃいないがな」
レスティナは調理道具を取り出した。
厚手の煮込み鍋。
平鍋。
包丁。
木べら。
まな板として使う厚い木板。
調味料は、塩、豆醤、果実酒、蜜、乾燥香辛料。
新鮮な鱗茎と根菜も、厨房から持ってきている。
そして、先ほど切り分けたばかりの灰岩竜の尾肉。
「まずは、お肉の状態を確認します」
レスティナは尾肉を木板へ置いた。
表面には血が残っている。
皮と鱗は、解体した際に取り除いていた。
しかし、その下には青白い薄膜と、太い筋が何本も走っている。
指で押す。
硬い。
炎角牛の腿肉より、明らかに強い弾力がある。
匂いも強かった。
血と脂。
湿った岩のような独特の臭い。
何もせずに焼けば、噛み切れない肉へ臭みだけが残るだろう。
「確かに、このままでは美味しくなさそうです」
「今さら気づいたのか?」
ダガンが香草を毟りながら言う。
「はい。ですから、美味しくします」
「できるのか?」
「試してみます」
料理の名は――。
『灰岩竜尾肉の香草赤酒煮込み』
最初に、肉を大きな塊のまま冷水へ入れた。
水の中で表面を揉み、残っている血と細かな汚れを洗い流す。
長く水へ浸してはいけない。
血の臭みは抜けても、肉の旨味まで水へ流れてしまう。
水が薄く赤くなったところで取り出し、清潔な布で水分を拭き取った。
薄膜の端へ包丁を入れる。
刃を上へ向けず、膜と肉の間へ寝かせる。
左手で膜を引きながら、包丁を小さく前後させた。
「その白い部分は食べないのか?」
「加熱しても縮むだけで、柔らかくなりにくいです」
青白い膜は、肉の表面を包む筋膜。
残したまま焼けば、熱で縮み、肉全体を締めつける。
煮込んでも口へ残り、噛み切りにくい。
表面の筋膜をすべて取り除く。
肉の中に入っている太い筋も、指先で位置を確認しながら切り出した。
ただし、細い筋まですべて取る必要はない。
長く煮込めば柔らかくなり、煮汁へ濃度と旨味を与えてくれる。
「次は、切ります」
肉の繊維は、尾の根元から先端へ向かって、長く伸びている。
そのまま輪切りにするのではなく、繊維へ直角に包丁を入れた。
一切れは、口へ入れるには大きい。
煮込む間に少し縮むため、最初から小さくしすぎない。
厚みを揃え、拳の半分ほどの大きさへ切り分けた。
切った肉を、二枚の布で挟む。
包丁の背を使い、一定の間隔で叩いた。
強く潰さない。
表側。
裏側。
向きを変えながら、硬い繊維を部分的に断ち切っていく。
「俺の大剣で叩いたほうが早くないか?」
「肉が潰れます」
「冗談だ」
「食材を使った冗談は、よく分かりません」
「悪かったよ」
叩き終えた肉を木の器へ移した。
塩を振る。
細かく刻んだ鱗茎。
潰した香味根。
ダガンが茎から外した香草。
乾燥香辛料。
赤い果実酒。
酸味の強い赤実を潰した汁。
蜜を少量。
すべてを加え、手で肉へ揉み込んだ。
「酒へ漬けるのか」
「はい。臭みを移し、香草の香りを肉へ入れます。赤実の酸味で、表面の肉も僅かに柔らかくなると思います」
「長く漬けるほど、柔らかくなるんじゃないか?」
「酸味へ長く漬けすぎると、表面だけが崩れます。中は硬いままです」
「難しいもんだな」
「ですから、漬けている間に他の準備をします」
器へ蓋をする。
氷魔法で周囲の空気だけを冷やし、肉を休ませた。
その間に、野菜を切る。
鱗茎は繊維を断つ方向へ薄切り。
煮込むうちに形が崩れ、煮汁へ甘みと濃度をつける。
土人参と白蕪は大きめに。
灰岩竜の肉が柔らかくなるまで時間がかかる。
小さく切れば、先に煮崩れてしまう。
芋はさらに大きく切り、水へさらした。
こちらは煮込みの最後に加える。
最初から入れれば、肉が柔らかくなる頃には形がなくなってしまう。
「厨房ではないので、出汁がありませんね」
レスティナは、灰岩竜から切り取ってきた骨を見る。
肉が僅かに残っている。
出汁を取るには時間が足りない。
だが、水だけで煮込むよりは味を出せる。
骨を水で洗う。
表面に残っていた血を落とし、関節部分へ厚刃包丁を当てた。
石を槌代わりに使い、骨を数個に割る。
「硬い骨だな」
「中まで火を通しやすくします」
割った骨を焚き火の上へ置いた鉄板に並べる。
表面へ薄く焼き色をつけた。
焦がさない。
血と脂が焼ける匂いから、香ばしい肉の匂いへ変わったところで鉄板から下ろす。
煮込み鍋へ骨と水を入れた。
鱗茎の切れ端。
香味根。
香草の茎。
塩は、まだ加えない。
強火へかける。
湯が沸き始めると、灰色の泡が浮かんできた。
レスティナは泡だけを匙で掬う。
透明な脂は取りすぎない。
脂には香りと旨味がある。
濁った泡と血の塊だけを取り除いた。
「これを出汁にします」
「短い時間でも取れるのか?」
「濃い出汁にはなりません。ですが、肉を煮る水としては十分です」
骨を煮ている間に、漬け込んでいた肉を取り出す。
漬け汁は捨てない。
ただし、そのまま煮込みへ加えることもしない。
生肉へ触れていたため、一度しっかりと沸かす必要がある。
肉の表面から鱗茎と香草を手で落とす。
布で水分を拭き取った。
「つけた味まで、拭いてしまわないの?」
水を汲んで戻ったルーリィが尋ねる。
「水分が残っていると、焼き色がつきません。味は肉の中に入っています」
肉へ薄く麦粉をまぶす。
余分な粉は手で叩いて落とした。
平鍋を焚き火へかける。
油を入れ、十分に熱する。
肉の端を当て、すぐに音が上がることを確認。
一度に入れるのは、数切れだけ。
ジュウウウッ!
強い音とともに、香草と赤酒の匂いが立ち上った。
すぐには動かさない。
麦粉が固まり、肉の表面へ濃い焼き色がつくまで待つ。
「煮込むのに、やっぱり焼くのね」
ルーリィが言う。
「はい。焼いた香りを煮汁へ移します」
片面が焼けたら裏返す。
中まで火を通す必要はない。
すべての肉へ焼き色をつけ、一度皿へ取り出した。
平鍋の底には、茶色い焼き跡が残っている。
そこへ鱗茎を入れた。
少量の塩を振る。
鱗茎から出た水分で、鍋底の旨味を剥がしていく。
薄茶色になるまで炒める。
次に、肉を漬けていた赤酒を注いだ。
勢いよく蒸気が上がる。
強火のまま、しっかりと沸騰させる。
灰色の泡が浮いた。
すべて掬い取る。
酒精の尖った香りが消え、赤実と香草の匂いへ変わるまで煮詰めた。
「これで、漬け汁も使えます」
骨を煮ていた鍋から、骨と香味野菜を取り出す。
簡単な灰岩竜の出汁。
そこへ、煮詰めた赤酒と鱗茎を加えた。
焼いた肉を戻す。
土人参と白蕪。
新しい香草を糸で束ね、鍋へ沈める。
煮汁の量は、肉が完全に沈まない程度。
多すぎれば味が薄くなり、煮詰めるのに時間がかかる。
蓋をする。
しかし、完全には閉じない。
木べらを一本挟み、蒸気が僅かに逃げる隙間を作った。
「最初は、沸くまで中火です」
煮汁の縁に泡が上がる。
そこで焚き火から少し離し、炭火の近くへ移した。
「ここからは、煮立たせません」
「強火のほうが早く柔らかくならないのか?」
ノノが周辺の確認から戻り、鍋を覗き込む。
「強く沸かすと、肉の繊維が急に縮みます。長く煮ても硬くなります」
煮汁の表面が、ときどき小さく揺れる。
その程度の火加減を保つ。
レスティナは火の周囲へ石を組み、風が直接当たらないようにした。
炭の量を調整する。
火が弱くなれば、新しい炭を少しだけ足す。
強くなれば、鍋を遠ざける。
魔法で一気に温度を上げることはしない。
穏やかな熱を、長く保つ。
「どれくらい煮るんだ?」
ダガンが尋ねる。
「柔らかくなるまでです」
「時間は決まってないのか?」
「灰岩竜を調理するのは初めてですから、肉を見て決めます」
半刻が過ぎた。
レスティナは肉へ細い串を刺した。
途中で強い抵抗がある。
「まだです」
一刻が過ぎる。
もう一度、串を刺す。
先ほどより入るが、中心には硬さがある。
「もう少しです」
「腹が減った」
ダガンが呟く。
「握り飯があります」
「夕飯のために我慢する」
「食べても、灰岩竜のお肉は残ります」
「そういう問題じゃない。腹を空かせたほうが美味い」
「なるほど」
レスティナは、その考えも覚えておくことにした。
一刻と半分が過ぎた。
串が肉の中心まで入る。
まだ僅かな抵抗はあるが、噛み切れない硬さではない。
「芋を入れます」
水へさらしていた芋の水分を拭き取り、鍋へ加えた。
崩れやすいため、木べらで強く混ぜない。
煮汁を上からかけ、蓋を戻した。
さらに四半刻。
芋へ串が通る。
レスティナは肉を一つ取り出した。
繊維を断つ方向へ切り、味見をする。
「どう?」
ルーリィが尋ねる。
「まだ、少し臭みがあります」
「香草も酒も、ずいぶん入れたのに?」
「消そうとしすぎると、灰岩竜の味も分からなくなります」
臭みをすべて香辛料で隠すのは簡単だ。
だが、それでは灰岩竜を食べる意味がない。
レスティナは煮汁も味見した。
肉と骨の旨味は出ている。
赤酒の酸味。
鱗茎と根菜の甘み。
足りないのは、香りをまとめるもの。
「火を止めます」
「もう完成か?」
「最後の仕上げをします」
束ねていた香草を取り出す。
長く煮た香草は、すでに香りを煮汁へ移している。
残したままでは苦みが出る。
新しい香草を細かく刻む。
火を止めた鍋へ加えた。
さらに、酸味の強い黄色い果実の皮を薄く削る。
白い部分まで削れば苦くなる。
色のついた表面だけ。
細かく刻み、鍋へ散らした。
果汁も、ほんの少しだけ搾る。
強かった灰岩竜の匂いへ、鮮やかな香りが重なった。
再び味見する。
「うん」
臭いを消したのではない。
肉の力強い香りを残しながら、不快に感じる部分だけが薄れている。
塩を一つまみ。
蜜を一滴。
最後に、冷たい獣酪を加えた。
余熱だけで溶かし、鍋を揺らして煮汁へ馴染ませる。
赤褐色の煮汁に艶が生まれた。
「できました」
『灰岩竜尾肉の香草赤酒煮込み』
深い器へ、灰岩竜の肉を盛る。
土人参。
白蕪。
芋。
その上から、とろみのついた煮汁をたっぷりとかける。
仕上げに新しい香草を一枚。
全員の分を取り分けた。
「ベルクさん」
レスティナが入り口へ声をかける。
「食事です」
「見張りはどうする」
「私が交代します。先に食べてください」
「お前は指揮官だ。最後に食べる必要はない」
「ですが、見張りは必要です」
「俺が続ける。冷める前に食え」
「試験官なのでは?」
「見張りを頼んだのは、お前だろう」
「そうでした」
五人は詰め所の中へ集まった。
ベルクだけは、扉から外を確認できる位置へ座る。
「いただきます」
レスティナは最初に、灰岩竜の肉へ匙を入れた。
煮込む前には硬かった肉が、繊維に沿ってほぐれる。
芋と一緒に掬い、口へ運ぶ。
「ん~」
柔らかい。
角兎のように舌で崩れる肉ではない。
噛めば、しっかりとした弾力が返ってくる。
それでも、噛み切れない硬さではなかった。
噛むほどに、濃い旨味が出る。
赤酒の酸味と、鱗茎の甘み。
灰岩竜の骨から取った出汁。
香草と黄色い果実の皮が、強い肉の香りを食欲へ変えている。
「美味しいです」
レスティナの頬が緩んだ。
「本当に?」
ルーリィが恐る恐る肉を口へ入れる。
目を見開いた。
「柔らかい……」
「硬いと聞いていましたが、きちんと処理すれば食べられます」
「臭くない」
ノノも続けて食べる。
「少し変わった匂いはするけど、嫌じゃない。むしろ、美味しそうな匂い」
「最後に加えた果実の皮のおかげです」
ダガンは大きな肉を一口で頬張った。
何度も噛み、飲み込む。
「美味い」
「どうでしょう?」
「酒と肉の味が濃い。芋も煮汁を吸ってる。握り飯を残しておけばよかった」
「まだあります」
「あるのか?」
「多めに作りましたので」
「持ってきてくれ!」
握り飯を煮汁へ浸して食べる。
炊き込み飯へ、さらに灰岩竜の旨味が重なる。
「これは合うな」
「はい。次は、最初から一緒に食べることを考えて味を調整してみます」
「次も灰岩竜を狩るのか?」
「食べる機会があれば」
全員が食事を進める。
長い山道を歩き、灰岩竜と戦った疲れが、少しずつ薄れていく。
傷めていたダガンの左腕も、食事を終える頃には熱と痛みが和らいでいた。
「なあ」
ダガンが腕を回す。
「治療薬を使ったわけじゃないよな?」
「冷やして固定しただけです」
「さっきより動く」
「休んだからではないでしょうか」
「それだけか?」
「美味しい食事を食べたので、元気になった可能性もあります」
「料理って、そんなにすぐ効くものなの?」
ルーリィが首を傾げた。
「空腹で動けないとき、食べると動けるようになります」
「それはそうだけど……」
ルーリィ自身も、魔力の戻りが普段より早いように感じていた。
ノノの手のひらにあった擦り傷も、痛みがほとんどなくなっている。
しかし、一日歩いて戦ったあとの温かい食事である。
身体が楽になったとしても、不思議ではない。
「《飯狂い》なんて二つ名だから、食べることしか考えていないのかと思ってた」
ノノが言う。
「はい。食べることは、いつも考えています」
「否定しないんだ」
「ですが、食べるためには生きて帰らなければいけません」
レスティナは仲間たちを見る。
「皆さんが無事でよかったです」
ダガンが笑う。
「肉を運ぶ奴が減らなくて、だろ?」
「それもあります」
「そこは否定しろよ!」
笑い声が、無人の詰め所へ響いた。
ベルクは食事を続けながら、レスティナを見ていた。
戦闘前。
彼女は、何でも自分で行おうとしていた。
荷物も。
索敵も。
討伐も。
一人でできてしまうからこそ、他人へ任せる必要性を知らなかった。
だが、指摘されれば理由を考え、すぐに修正した。
戦闘では仲間へ役割を与えた。
ダガンが負傷したあとは、無理に戦わせなかった。
討伐後は食材より先に仲間の怪我を確認した。
持ち帰る肉の量も、安全を優先して減らした。
完璧ではない。
最初の作戦は、灰岩竜の知能と未知の攻撃を想定できていなかった。
仲間の力量も、完全には把握していない。
それでも、間違いを認め、次の判断を変えられる。
B級冒険者に必要なのは、すべてを知っていることではない。
予想外の事態が起きたとき、最も多くの命を残せる判断をすることだ。
「ベルクさん」
「何だ」
「おかわりはいかがですか?」
「……もらおう」
「はい」
レスティナは嬉しそうに、試験官の器へ煮込みをよそった。
◇
翌朝。
一行は詰め所を片づけ、領都へ向けて出発した。
ダガンの左腕は、まだ完全には治っていない。
それでも、軽い荷物なら持てるまで回復していた。
帰り道も、ノノが先頭を歩く。
レスティナは中央から全員の状態を確認した。
休憩を取る時刻。
水の残量。
歩く速度。
一人で走れば半日もかからない道を、全員の歩調へ合わせて進む。
その日の夕方、五人は無事に領都へ戻った。
冒険者ギルドへ入る。
「戻ったぞ!」
ダガンの声に、酒場の冒険者たちが振り返る。
「灰岩竜は?」
「討伐した!」
歓声が上がった。
「素材は、これだけですか?」
受付の女性が、持ち帰った鱗と牙を確認する。
「残りは現地にあります。明日、回収をお願いします」
レスティナが答えた。
「なぜ、すべて持ち帰らなかったのですか?」
「負傷者がいました。私が死骸を担ぐと、仲間を守るのが遅れます」
ダガンが苦笑する。
「俺のせいだ」
「違います。指揮を執った私の判断です」
試験官のベルクが、受付へ一枚の報告書を提出した。
「試験は終了だ。支部長を呼んでくれ」
しばらくして、支部長のオルドが奥から現れた。
一行を会議室へ案内する。
レスティナたちは机を挟み、オルドとベルクの向かいへ座った。
「まず、同行した三人の評価を聞く」
ダガンが最初に口を開いた。
「最初は、全部一人でやろうとしてた。俺たちがいなくても倒せると思っていたんだろう」
「はい」
「本人が認めるなよ……。だが、こっちが指摘すれば聞いた。戦いでは指示が分かりやすかった。俺が怪我したあとも、無理に使おうとはしなかった」
「評価は?」
「合格だ」
次にルーリィ。
「魔法の使い方を細かく指定されたけれど、無理なことを伝えれば、すぐに別の方法を考えてくれたわ。魔術師を後ろへ置いて、自分が攻撃を引き受けた。安心して戦えたと思う」
「評価は?」
「合格」
最後にノノ。
「僕に索敵を任せてくれた。最初は自分で先頭を歩こうとしたけど、理由を話したら代わってくれた。戦闘中も、僕が当てられる場所を考えて指示した」
「評価は?」
「合格です」
三人全員が、同じ評価を下した。
オルドがベルクを見る。
「お前は?」
「判断の甘い部分はあった」
ベルクは報告書を開いた。
「灰岩竜が既知の情報どおりに動くと考えすぎていた。初撃が失敗したあと、仲間に怪我を負わせた。指揮官としては減点だ」
「はい」
「だが、想定外の攻撃へ即座に対応した。負傷者の役割を変更し、残る仲間の力を使って討伐した。討伐後の処置、野営地の選択、帰路の判断にも問題はない」
ベルクは報告書を閉じた。
「合格でいい」
オルドは頷いた。
「レスティナ。お前をB級冒険者へ昇格させる」
「ありがとうございます」
レスティナは頭を下げた。
冒険者札が、一度受付へ戻される。
専用の魔道具へ置かれ、新しい階級が刻まれた。
『登録名 レスティナ』
『階級 B』
『二つ名 飯狂い』
返された札を確認する。
「二つ名は変わらないのですね」
「変えたいのか?」
「いいえ。気に入っています」
「そうか……」
オルドは何とも言えない顔をした。
「B級になれば、受けられる依頼は増える。だが、責任も重くなる。今回の試験で学んだことを忘れるな」
「はい」
「それから、灰岩竜の回収だが――」
「お肉は、すべて私の分です」
「まだ何も言っていない」
「鱗と牙は、三人で分けると決めています。お肉は私がいただきます」
「分かっている。明朝、回収班を出す」
「ありがとうございます」
「保管庫も使うんだろう?」
「はい。灰岩竜のお肉も、少し寝かせてみたいです」
「勝手にしろ」
話を終え、レスティナたちは会議室を出た。
酒場へ戻る。
ダガンが大声を上げた。
「新しいB級冒険者の誕生だ!」
冒険者たちから歓声が上がる。
「十三歳になる前にB級か!」
「領都支部最年少じゃないか?」
「《飯狂い》がB級になったぞ!」
レスティナは祝福の声を受けながら、冒険者札を見つめた。
B級になれたことは嬉しい。
受けられる依頼が増える。
今まで入れなかった場所へ行ける。
出会える魔獣も増える。
つまり――。
「これで、もっと色々な食材を探せます」
レスティナが最初に口にした感想に、ギルド中から笑い声が上がった。
お読み頂き、ありがとうございます。




