第16話 霊獣との意思疎通
◇◇◇
初めて身体を繋いだ日から数カ月。
ルーファウスは毎夜リズリアを抱き、ときには昼にも人目を忍んで交わるようになっていた。娼婦としての日々と回数はさほど変わらないのだが、彼とのそれは思いのほか体力を消耗する。
次期王弟として、そして次期魔術騎士団長として鍛錬を積んでいるルーファウスに日々抱き潰されていたおかげか、貧弱なリズリアの体力も鍛えられてきているようだった。
そして、ルーファウスとの交わりはリズリアの別の部分も成長させていた。
「──これは?」
「人差し指」
「じゃあ、これは?」
「中指……あっ、また人差し指になりました!」
「すごいな。もうすっかり視えている」
修練も座学もない休日のある日、二人は王宮の書庫室でそんな会話をしていた。
何かといえば、リズリアの魔力を視認する能力の確認である。ルーファウスが指先に浮かせた魔力がどこにあるのかを当てる、という単純なものだ。
魔力を餌にする霊獣を体内に飼っているせいなのか、あるいは常人離れしたルーファウスの魔力を日々取り込んでいるせいなのか、自身は魔力を持たないはずのリズリアはそれを視認できるようになっていた。
視るだけでなく気配を察することも可能になり、特にルーファウスの魔力ならば、たとえ間に障害物があっても感じることができる。
「もしかしたら、きちんと練習すれば魔力操作も可能になるかもしれないな。ノクスレアと意思の疎通ができれば、意外と簡単にいくかもしれないぞ」
「ノクちゃんとですか? それはできる気がしますけど」
霊獣の中には人語を操るものも存在するらしいが、ノクスレアはその類ではない。
だが、半年以上になる付き合いの中で、体内に住まうこの獣の意思がリズリアにもなんとなく分かるようになっていた。
「本当か? お前本当に適応力高いな……」
「ノクちゃん、蛇みたいな見た目だったのに意外と感情表現が豊かなんですよ。今朝のルゥの魔力団子がまだ少し残ってるから貸してくれないかな」
「魔力団子……」
おおよそ魔術師が言い表さぬであろう言葉に、ルーファウスが「人の魔力を何だと思っているんだ」と言わんばかりの表情をしている。
しかし彼と交わるたびに、流し込まれる魔力をノクスレアが焼く前のパン生地のように捏ねるものだから、リズリアにとってのルーファウスの魔力は、そう言うのが適切に思えていた。
「ノクちゃん」
『キュウ?』
腹を撫でて呼びかけるリズリアに、ノクスレアが返事を返した──ような気がした。
「それ、ちょっと貸してくれないかな? 魔力操作の練習がしてみたいの」
『…………』
「あっ! ぷいってした!」
ノクスレアが渡すもんかと言うように魔力団子に絡みつく。まるでおやつを手に入れた、あるいは玩具を咥えて離さない犬のようだ。
さらにノクスレアはそれに齧りつき、ないものは貸せないと言いたげに食べ始めてしまった。
「……だめみたいです。食べ始めちゃいました……」
「……本当に意思疎通自体はできるようだな」
しょんぼりするリズリアに、ルーファウスは感心しているのか呆れているのか分からない息をつく。そしてすぐに何か思いついたようにニヤリと笑みを浮かべると、書庫室の壁際まで彼女の手を引いていった。
「ルゥ?」
「体内の魔力は喰われてしまったんだろう? なくなったのなら、また増やせばいい」
「えっ……、こ、ここでするんですか!?」
彼の言葉の意図を察したリズリアが慌てふためくも、ルーファウスは意に介することもなく片手で彼女の細い腰を抱き寄せる。
そしてもう片方の手をくるりと回すと、書庫室の天井から壁に至るまでを己の魔力で覆った。
「人避けの術だ。これなら邪魔されないし、お前の甘い声が外に届くこともない」
「あっ……、ちょっ……」
結果的に、魔力団子のおかわりができたので、ノクスレアはそれを渋々ながらも貸してくれた。
しかしながら魔力操作の練習を始める頃にはもう、リズリアの膝は生まれたての小鹿のようにぷるぷると震えていたことはいうまでもない──。
今回ちょっと短かったけど、これにて第一章完了。
次回から第二章に入ります。




