第十九話 騎士候補生との決闘 後
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――――ゼノは拗ねていた。
理由は単純、先日のエリーザとの一件である。
『器が小さい』、『スパーダに愛想つかされる』……そんな言葉の数々に精神年齢がまごうこと無き幼女のゼノは心にダメージを与えられた。
加えて、自分を泣かせたそんな女に言葉にスパーダが従い、今もそれに従うように決闘していることに怒りや悲しみが入り交じり、ゼノにこんな行動をさせたのだ。
「フライト、隣にいるその子誰?」
「いや、分からない。何故か隣に座って来たんだ」
フライトやカレンのそんな言葉も無視し、ゼノはただその場に座っていた。
スパーダのバカ……何であんな奴の言う事なんか聞いとるんじゃ……。
もう知らんわ。一人で勝手にやればいいじゃろ。儂がいなくても魔剣使えるし……。
頬を膨らませ、決闘の成り行きをゼノは見守る。
「スパーダ、やはり後手に回っているな……」
「無理も無いわ。ロズは騎士候補生の中でトップクラスの実力者。魔力量や魔法の精度は群を抜いているし、何よりも魔力特性を三つ持っている。奴が強いのは疑いようのない事実よ」
「スパーダ……」
何じゃこの凡人共、スパーダが負けるワケないじゃろ。
儂のパートナーじゃぞ。
静観を続けるゼノ。
だが、スパーダは劣勢を強いられ続けていた。
何をやっとるんじゃスパーダ、そんな奴早く倒してしまえばいいじゃろうが。
そう思ったのは、ボロボロになったスパーダがロズに一撃を当てた瞬間だった。
「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
次に発生したのはスパーダとロズによる激しい魔法のぶつかり合い。
魔法の衝撃が周囲に凄まじい風圧と、爆発を巻き起こす。
観客席の誰もが腕で顔を覆ったり、目を瞑ったりと激しい攻撃のやり取りに自身の身を守るような態勢を取っている中……ゼノはただ一点に、スパーダを見詰めていた。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
スパーダは体中から血を吹き出し続けながら戦いを続けている。
歯を食いしばりながら、魔王斬對慟を放っている。
「何しとるスパーダ!!」
遂にゼノは、観客席から身を乗り出して叫んだ。
そしてその声は、スパーダに届いた。
◇
ったく、あのバカ魔王……!! 何してんだよ……!!! ついこの間運命共同体とか言って癖に……!!
腹立たしさが内蔵損傷の痛みを同化して、腹に巣くう。
「俺は、一人じゃ……勝てねぇんだよ……。何も、できねぇんだ……!!」
それはてめぇも知ってんだろうがゼノ……この二年、俺を見てたんだから……!!
――――へっ、大方……エリーザのことで拗ねやがったんだろ……!! ったく、面倒くさい奴だなぁ……!!
そんなモン……、
「気にしてんじゃねぇ!!」
俺は声に出して叫んだ。
傍から見れば、頭の可笑しい奴に映るだろう。それはもう慣れっこだ。そんなことよりも、今必要なのは……届ける事だ。
言葉を……ただ一人のために。
「都合悪いことは忘れろ!! 都合の良いことで自分を塗り固めて胸を張れ!! 傲慢で、傍若無人なお前の得意技だろうが……!! くよくよしてんじゃねぇ!! 死んだ目なんててめぇには微塵も似合わねぇんだよ……!!」
――――てめぇは魔王なんだから!!
「うぅぅぅぅぅ……!!!」
ほら、てめぇの大事なパートナーって奴が……ピンチに陥ってるぜ……!!
魔王様がいなきゃ、勝てるモンも勝てねぇんだよ……!!
「だから……!!」
魔剣を強く握りしめ、俺は顔を上げる。
「助けてくれよ相棒ぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
そして、更に声を張り上げた。
『うるさいわ』
「っ!? ゼノ……」
俺は、突如として背後から聞こえた声が魔剣に集約されたのを感じる。
ゼノが戻ってきたことを実感する。
「待ちわびたぜ……ってか思念体になるの見られてないだろうな?」
「問題ない。全員この戦闘で生じる衝撃に対応するので儂の方など見ておらん」
「そりゃ良かった……ていうか何ボケっと見てたんだよ。相棒が死ぬ思いしてたってのに」
『魔王にも色々あるんじゃ。水に流せ』
「ははっ……まぁいいや、この局面乗り切ったら……トイレの水にでも何でも流してやるよ!!」
魔剣の力を解放し、ゼノの魔力を高速で体中に巡回させる。
魔剣にゼノが憑りついたことで回復能力と身体能力が向上、魔力の遅延も消え去った。
「全開だ……!! いくぜぇ……!!」
ゼノディーヴァに全力でゼノの魔力を流し込む。
「なっ……!? 何だ、急に魔法の威力が……!!」
「悪いな!! 俺は、こんな所で……死ぬワケにはいかねぇんだよぉぉぉ!!!」
最大出力の魔王斬對慟に慄くロズに、俺は決死の声を上げた。
――――そして約五秒後、勝敗が決した。
◇
「ロズ・チェンバーを戦闘不能とみなし、決闘の勝者は……シュラインガー魔法学園体験入学生、スパーダ!!」
「っし!!」
立会人の宣言に俺は腕を掲げる。
ロズは地面に仰向けに倒れ、意識を失っていた。
「はぁ……はぁ……ギリギリだった……」
ゼノとの距離が離れていたってのもあるけど……それにしたって、ここまで苦しい戦いになるとは思ってなかったぞ……。
息を切らし、俺はロズを見た。
『ふむ。何じゃコイツ、かなり業物を使っておるな』
「業物……?」
だが、そこに唐突にゼノから言葉が発される。
『うむ。そいつが持っている剣の一部に何か特殊な素材が使われておる』
「特殊な素材って……」
『恐らくじゃが、儂と言う存在とは対極の存在が利用しているものじゃな……剣に邪気が全く感じられん』
対極の存在って……魔王と真逆の存在ってことか……? それって……。
「スパーダ」
そこまで思考したところで、俺は立会人に名を呼ばれた。
「誓約を決めていないためこの過程を省き、これにて決闘を終了する。もう戻っていい」
「……分かりました」
俺は短くそう言うと訓練場を後にする。
◇
同時刻、スパーダとロズの決闘を勝敗が決したのを興味深く見詰めていた少女がいた。
「……すごい……この人なら、本当に……」
上下の唇を強く合わせ、体に力を籠めた彼女は……意を決したようにその場から駆け出したのだった。
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◇◇◇
小話:
ロズの剣に使われてた素材についてはその内ちゃんとした言及があります。




