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人間と精霊、魔法と超能力  作者: キュリオ
第一章 始まりと覚醒
4/5

契約

そこまで長くなりませんでした。

 駅から自分の家に向かう海人。

 この江南区の交通量はさほど多くない。日曜日や土曜日は、スーパーに買い物に行く車で渋滞になるが、それでも中央区に比べると少ない。

 海人は近道だが人通りの少ない道を自転車で駆けていた。この時代で自転車が生きているのは、適度の運動に最適だからという理由で生き残っている。自転車もそれにあわせる形で進化してきた。海人が乗っている自転車もその進化系の一つである。

 そんな自転車に乗る海人は、今日の夕食について考えていた。そのせいか、前に人がいたのに気づくのが遅れた。幸い、そこまでスピードを出していなかったので急ブレーキをかけることで衝突は免れた。

 怪我はしてないだろうが驚いているようなので、海人は一応謝ることにした。

「すみません、私の不注意でした。怪我はありませんか?」

 海人は頭を下げず、驚いている相手の顔を見ながら謝る。

 相手は男だった。見た目は二十代後半から三十代前半、髪は少し短めだが耳は髪に隠れて見えなかった。背丈は海人より少し高く、紺色のスーツを着ていた。腹の辺りが少し出ている。

 その男は海人に謝られると硬直がとけ、口を開いた。

「ああ、大丈夫だ。・・・・・・今度から気をつけろよ」

 最後は少し強い口調で言われた。

「はい、今度から気をつけます。本当にすみませんでした」

 男は返事を聞いて走っていった。なぜ走ったかはわからないが。

 海人も帰ろうと自転車に乗ったが、出ようとしたところで落し物に気づいた。それはおそらくさっきの男が落としたものだろう。男は見当たらなかったので交番に届けるか、と海人は思い落し物を拾った。

 落し物は市販のデバイスだった。今日、海人が使ったタロットと同タイプだが、大きさはこちらの方が少し大きかった。大きいと言うことは、それだけデバイスに内蔵されている魔法の種類が多いということを表している。このデバイスは火、水のレベル三魔法まで使えるらしい。

 魔法のレベルは各属性ごとに一から七までの七段階ある。火の魔法ではレベル一でライター程度、レベル七で火炎放射器の強さにまでなる。一般に売られているのは、三か四だ。

 海人は上着のポケットにそれを入れると、自転車に乗って家まで走り出した。


 海人は家の玄関にいる男を発見した。

 男は黒服。帽子はしていないが髪が肩までかかるほど長い。手足は細くも無く太くも無い。明らかに怪しい男だった。

 その男は自転車のブレーキ音に気づいてこちらに振り向き、海人を見ると低い声で尋ねてくる。

「お前が広崎海人か?」

 海人は自転車を止めて男に尋ね返す。

「お前は誰なんだ? 自分から名乗るのが礼儀じゃないのか?」

「高広剛一だ。お前は広崎海人で良いんだな?」

「俺に何のようだ?」

「大した用ではない」

 ただ、と前置きし、

「お前を消しに来ただけだ」

 そう言うと同時に剛一は拳銃型のデバイスを取り出して海人に銃口を向け、詠唱を唱え始める。

「我が炎よ、その波にて罪深き罪人に鉄槌を」

 剛一が唱え終えた瞬間、炎の波が海人に押し寄せる。

 ポカーン、としていた海人はハッ! となって、自転車がある方向とは逆の方向に飛び込む。

 ボウッ! と曇った音と共に高温の熱の塊がさっきまで海人がいた場所に降り注ぐ。

「ッ!?」

 海人は声無き悲鳴を上げる。炎自体は避けることが出来たが、高温で伸びていた右足首がやけどしてしまったのだ。

 やけどの具合を確かめようとした海人が振り向くと、信じられない光景が目に映った。


 一面が火の海だったのである。


 通常の魔法は物質に触れると、魔法を構成しているヘイルが空気中に霧散にて魔法の効力が失われる。

 火魔法の発動時に発生する熱に関しても同様であるが、物質に触れて魔法が消えても魔法によってもたらされた結果は変わらないのである。

 今のように、魔法自体は道路のコンクリートにぶつかって消滅しただろう。しかし、火魔法の持つ温度でコンクリートが一瞬で溶けてしまったのである。むしろ、これだけの温度を放っていたにも関わらず、右足首のやけどで済んだ海人は奇跡なのだ。

 剛一は海人に当たっていないことを悟ると、すぐ拳銃型の照準を海人に直し詠唱を唱える。

「我が炎よ、その波にて罪深き罪人に鉄槌を」

 海人はやけどした足を無理やり動かし詠唱が終わる前に少しでも遠くへ逃げる。

 後ろのほうでボウッ! なったが今度は無傷だった。

 海人はそのままやけどで歩くのも厳しい足を無理やり動かし、商店街に出ようとする。

 この時間帯ならまだ交通量も多いし、助けを呼べると思ったからだ。携帯は自転車に乗っていた荷物と一緒に溶けていた。

 海人は細い路地を通って商店街に出た。

 が、商店街には車どころか人も無かった。公衆電話はあったが財布も自転車と一緒に溶けている。

 絶望している海人に追ってきた剛一が言った。

「無駄だ。このあたりには人払いの結界を張らせてもらった。誰もここには近づかんよ」

 剛一が言った結界の意味はわからなかったが、海人は虚勢を張って時間稼ぎしようとした。いや、恐怖を少しでも和らげる行動だったのかも知れなかった。

「お、お前はいったい何なんだ。な、何故俺を殺そうとするッ!」

 最後は声が裏返ってしまった。

 剛一は高揚の無い声で答える。

「お前には殺されるだけの価値がある、と言うことだ」

「なッ! ・・・・・・お、俺は何もしてないぞ!」

「そうだ。『お前は』何もしていない」

「だ、だったらッ!」

「だが、『お前の中のもの』は危険すぎる。覚醒する前に消去しろとの、上からの命令だ」

「お、俺の中のもの・・・・・・?」

「私が話せるのはここまでだ。次は外さん」

 剛一はそう言うと再び銃口を海人に定める。海人は何とか逃げようと辺りを見回す。

 今いるのは二車線の商店街。右手には大きな駐車場、左手は道路だ。駐車場には車が三台止めてあったが、おそらく火魔法の温度で溶けるだろう。駐車場の向こう側は用水路になっている。

 対して、左手に見える道路の先は狭い路地となっていた。丁度人が一人入れるか入れないかぐらいの本当に狭い路地だ。路地の向かって右側には日用品店、左側には駄菓子店が並んでいる。

「我が・・・・・・」

 剛一が唱え始めたと同時に、海人は走り出した。

 剛一の詠唱が終わり、炎の熱が海人に襲い掛かる。しかし、詠唱中に狙いを帰るのはあまりうまくないようで、海人が走り去ったあとのコンクリートを溶かすだけに終わる。駆け出した勢いのまま、海人は飛び込んだ。

 日用品店の中に。

 日用品店の中に飛び込んだ海人は雑貨店の中を出来るだけ散らかしながら走る。そのまま、裏口から出て行く。

 直後、日用品店が燃え始めた。剛一が海人はまだ中にいると勘違いし、火事で家ごと焼こうとして魔法を使ったからだ。

 海人は振り返らず、そのまま裏路地を駆けていった。


 しばらくして。

 走りつかれた海人は日用品店から一キロぐらい離れた公園のベンチに座っていた。

 無我夢中で走った海人は息を整えつつ、先ほどまでのことを振り返っていた。

「な、なんなんだいったい。・・・・・・俺は何もしてないぞ・・・・・・」

 近くの水道で渇いたのどを潤す。ベンチに座り直すと、だんだん頭が冷静になってきた。冷静になった頭で考えてみる。

(剛一とかいったか。やつは俺のことを知っていたから人違いではないだろう。しかし、何で俺のことを狙っているんだ? ・・・・・・・・・・・・そういえばなんか言っていたな。たしか、『俺の中のもの』とか言ってたっけ。あれは何だ?)

 海人は思考をめぐらせるが思い当たる節は無い。あるとすれば今日、宗佑に言われた魔法師の才能があるぐらいだが、それである可能性は低い。そのことで来たのならば勧誘の可能性のほうが高いからだ。海人の見た限り、剛一は魔法師としてはかなり優秀であると思われる。あのクラスの魔法を制御するのは、魔法師として相当な使い手でなければ無理だと思われた。並みの魔法師なら発現すら難しい。

(魔法といえば)

 海人は上着のポケットからデバイスを取り出した。

(これで何か出来るわけでもないか・・・・・・)

 あんな高レベルの魔法に一般のデバイスで勝てるはずがない。大体あのデバイスはレベル七の威力を超しているはずだ、と海人は考える。

(と言うことは、あのデバイスは違法改造されているはず。宗佑から教わったけど違法改造したデバイスは、威力だけにものを言わせて安全性は損なわれているはず。とすると、デバイスはオーバーヒートしやすいかもしれない。そこにつけ込むしかないか)

 デバイスはある程度の負荷が生じることで機能をロックするシステムが備わっている。負荷は、物理的負荷でも機能的負荷でも発生する。

 しかし、ごくたまにシステムが機能せずデバイスがオーバーヒートする事件が起こっていた。原因はリミッター解除したデバイスの使用によるものである。オーバーヒートするとデバイスが故障し魔法が使えなくなる。

(機能的負荷だとここら一帯が火の海になるから物理的負荷をかけるしかないか)

 どうすればいいかを考えていた海人の耳に人の走る音が聞こえた。

 隠れようと近くにあった大木の後ろに隠れる。

 走る音はだんだん大きくなりやがて止まった。止まった後に荒い息遣いが聞こえる。

「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・、どこに隠れようと無駄だ。ハァ・・・・・・結界の外には出られんぞ・・・・・・ハァ・・・・・・」

 相当苦しいようだ。多少ふらついているようだ。

(シンナーは効いていたかな)

 海人が通った日用品店の中にはいまどき珍しい油性ボールペンや蛍光ペンが置いてあった。その中のインクを燃やすとシンナーを同じ効果があると、どこかで聞いたことがある。あの魔法の温度では燃えるというより溶けていただろうが、同じ効果があれば問題ない。

 剛一の首が反対側を向いた瞬間、海人は大木の後ろから身をさらけ出し、自分の限界のスピードで剛一に向かって駆け出す。距離はおよそ三十メートル。海人なら四秒で走れる距離。

 海人が駆け出したのを少し遅れて気づく剛一。その間に海人はすでに距離を二十五メートルに縮めている。

 剛一は拳銃型デバイスを海人に向ける。距離は二十メートル。

「我が炎よ・・・・・・うッ!」

 詠唱し始めるが脳に痛みが走り、詠唱が止まる。距離は十五メートル。

(いけるッ!)

 海人は思わず心の中でつぶやく。激突まで十メートル。

 剛一も詠唱を諦めたのかデバイスをしまい、拳を握る。足元はまだふらついていた。

「うおおおォォォォォッ!」

「だあああァァァァァッ!」


 そして両者の拳がすれ違う。


 海人の拳は剛一の溝に。

 剛一の拳は海人の顔の左に。


「・・・・・・がはッ!」

 溝に当てられた剛一はそのまま倒れ腹を抱えてうずくまっている。どうやら意識はあるようだ。

 海人は倒れている剛一の懐を探る。

「お、あった」

 懐から出てきた手に握られているのは拳銃型のデバイス。金属は使ってないだろうが、手にズシリと来る重さだ。

 海人はデバイスを投げ捨てる。するとデバイスがバチンッ! と音を鳴らしてショートした。

 それを確認すると、海人は剛一に話しかける。

「なあ、あんたはいったい何者なんだ」

「・・・・・・・・・・・・」

「デバイスも壊したからお前に勝ち目はないぞ」

「・・・・・・本気で言っているのか?」

「・・・・・・どういうことだ」

 海人は眉をひそめる。デバイスも壊したし、体術でも海人の方が上である。それでも剛一は笑っている。

「・・・・・・たしかに俺に勝ち目はないかもしれない。だが俺に仲間がいないとでも思っているのか」

「・・・・・・ッ!」

 海人は慌てて周囲を見渡す。

 が、人らしき影はなかった。

「ハッタリ言って時間稼ぎか? みっともないぞ」

「・・・・・・ふん、油断していた貴様がいけないのだ」

 グサッ、と海人の後ろで聞こえた。

 なにを、と言いかけた海人は言葉が出なかった。

 言葉を出す前に背中を刺されたからだ。

「・・・・・・がッ!・・・・・・何が・・・・・・」

 海人は後ろを振り返ることが出来なかった。

 全身の力が抜けそのまま前に倒れる。

 後ろから声がする。

「なにやってんの。お前がドジ踏むから俺が出ることになっちまったじゃねえか」

 声の主はそういって剛一の肩を持つ。

「すまない。これは完全に俺のミスだ」

「言い訳は長にいいな」

 近いはずなのに会話が遠く聞こえる。意識が朦朧として、目の焦点が定まらない。

「こいつはどうする?」

「死体回収命令も出てないしこのままでいいんじゃない」

 足音がだんだんと小さくなり、やがて消えた。

 海人は口の中に鉄の味がするのを感じた。

 意識がだんだんとなくなってくる。

 

『ふむ、これだけの逸材。・・・・・・見殺しにするのは惜しいな』


 声が聞こえた。

 耳からではなく頭の中に。テレパシーみたいなものだろうか。

『・・・・・・しかも内にもまだ力がある。まだ覚醒してないようだが』

 また声が聞こえる。

 海人はなんでもいい、と前置きしその声に言った。

「俺は・・・・・・死にたくない。・・・・・・生きていたい・・・・・・」

 この声が幻想だろうと、妄想だろうと構わない。

 俺を救ってくれるのなら何だって構わないと。

 海人は残った意識の中、それだけを思っていた。

 そして海人の声にその声は答える。

『ならば唱えるがいい。我は汝を求め、ここに覇王との契約をする、と』

 海人は声を絞り出した。


「我は・・・・・・汝を求め、ここに覇王との・・・・・・契約をする」


 海人を囲むように魔方陣が展開する。

 海人には形はわからなかったが、色はわかった。

 黄色・・・・・・いや、黄金というべきか。

 海人は自分の中に何かが入ってくるのを感じた。と同時に背中にあった痛みも引いた。

 その後、魔方陣は消えた。

 痛みは消えた。

 しかし、神経をすり減らし疲労困憊状態の海人はそのまま気を失った。

 誰かが走ってくる音を聞きながら。

今岡です。

シンナーに関してはうる覚えです。

間違っていても気にしないでください。

次は二月中盤かな。

読んでくださりありがとうございました。

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