エピローグ
コランダムはパタリと日記を閉じた。十二月三十一日の記載がない日記が、リリーとの日々が終わりを告げたことを理解させた。
「やはり、話さないと分からないことが多くあるな……」
コランダムは日記を手に取り、そのまま店を出た。チリリンと軽やかな呼び鈴の音が誰もいない店内に鳴り響いた。
コランダムはリリーのいる牢へ向かった。コツコツとコランダムの履いている革靴が鳴り響き、止まった。
「あら、来たのね。刑事さん」
リリーはいつもと変わらない笑みを浮かべ、コランダムを見た。来店してきたコランダムを出迎えるように。いつもと違うことがあるとするなら、鉄格子の先にリリーがいることであった。
「リリー、教えて欲しい」
「何かしら?」
「黒百合の花言葉の意味はなんだ?」
コランダムの問いにリリーは、嬉しそうに微笑んだ後に少し頬を赤らめた。その様子はまるで恋する乙女のようだった。
「黒百合の花言葉は、『呪い』や『復讐』、『恋』、『愛』っていうのがあるの」
「『恋』と『愛』……」
コランダムの呟いた言葉にリリーは、まるでその言葉が正解であるかのように頷いた。
「ずっと私は貴方に伝えていたのよ?『愛しているわ、刑事さん』って」
鉄格子越しに佇むリリーの姿は、まるで黒百合そのものだった。
「……ねぇ、刑事さん。実は私、人が殺せないせいでおかしくなりそうなの」
そう告げたリリーは懇願するようにコランダムに手を伸ばした。コランダムは伸ばされた手に優しく頬を当てた。
「私を刑事さんの手で終わらせて……?」
甘えるようなリリーの言葉にコランダムは首を横に振った。リリーは目を見開き、声を震わせてコランダムに尋ねた。
「どうして……?」
コランダムは、頬を当てていたリリーの手に自分の手を重ねて、指を絡めた。
「リリー……。俺が君のことを愛してしまったからだ……」
コランダムの告白にリリーは目を見開いた。そして、何かを理解したような顔を見せた。
「それは……素敵な愛の告白ね」
リリーはそう呟くと、微笑んだ。しかし、その瞳は光が差すことのないものに変わり、微笑んだリリーの頬には一筋の涙が伝っていた。




