二部 エピローグ
ヘイヴン市警の牢屋にて、リリーは窓の外を飛ぶ鳥を静かに眺めていた。
「……刑事さんは、私の日記を読み終えた頃かしら……?」
「さぁ、どうでしょうね?」
リリーは、向かいの牢にいるロサに目を向けた。
「……貴方に聞いていないのよ、ロサ先生」
リリーが冷たく突き放すと、ロサは楽しそうに喉を鳴らして笑った。
「それは失礼しました。……それにしても……」
ロサはリリーを鋭い瞳で見つめると、先ほどの声色より一段と低い声で言葉を続けた。
「随分、色褪せましたね。リリーさん……」
ロサの声色と瞳からは殺意ともとれるようなどす黒い何かが表れていた。リリーは小さく息を吐くと、廊下から聞きなれた足音が聞こえた。
聞きなれている革靴の靴音は、リリーの牢の前まで来ると鳴り止んだ。
「あら、来たのね。刑事さん」
リリーは来店した時と同じように、いつもと変わらない笑みを浮かべ、コランダムを出迎えた。変わったことがあるのであれば、鉄格子越しになったということであった。
「リリー、教えて欲しい」
「何かしら?」
「黒百合の花言葉の意味はなんだ?」
コランダムの問いにリリーは、恋する乙女のように微笑み、頬を赤らめながら答えた。
「黒百合の花言葉は、『呪い』や『復讐』、『恋』、『愛』っていうのがあるの」
「『恋』と『愛』……」
コランダムの呟いた言葉にリリーは、嬉しそうに頷いた。
「ずっと私は貴方に伝えていたのよ?『愛しているわ、刑事さん』って」
そして、懇願するようにコランダムを見つめて言葉を続けた。
「……ねぇ、刑事さん。実は私、人が殺せないせいでおかしくなりそうなの」
助けを求めるようにコランダムに手を伸ばすと、その手をコランダムは優しく自分の頬へと押し当てた。
「私を刑事さんの手で終わらせて……?」
リリーは苦しそうにそう告げた。しかし、コランダムはリリーの言葉を聞いて首を横に振った。
「どうして……?」
目を見開いて問いかけると、コランダムは、頬を当てていたリリーの手に自分の手を重ねて、恋人つなぎをするように指を絡めた。
「リリー……。俺が君のことを愛してしまったからだ……」
コランダムの告白にリリーは再度目を見開いた。
(この渇きを終わらせることはできないのね……)
胸の奥に渦巻く何かがリリーの頬を優しく撫でたような気がした。
「それは……素敵な愛の告白ね」
静かに呟くと、リリーの口角が自然と上がっていた。しかし、その瞳は光が差すことのないものに変わり、一筋の涙が流れ落ちた。
(本当に見つけてしまったのね……、刑事さん)




