表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
37/39

第三十五話 キキョとスイの治療院

 日中は治療に励み、夜は旨い酒と料理に舌鼓を打った。


 そのあとはポンコロリをして遊ぶ。


 小石を軽く飛ばして、ポンと当たってコロリと落ちた方が負け。


 大好きな遊びだ。


 時には二人の世話係、ダルシャナとヒーラも加わった。


 座り込む二匹の後ろで、寝そべって頬杖をついて小さな背中で顔を隠し、それぞれの動きに合わせて小石を避けた。


 勝てば治療費の中から少額硬貨を一枚渡した。


 治療費は思ったほど高額ではなく、二匹はそれも満足したし、ある程度貯まれば高額硬貨に両替してクマール商会はその際、本当にわずかな手数料しか持っていかなかった。


 桔梗と睡蓮は毎日満たされていた。


 クマール商会は自社でも多くの馬車で行商を行っていたが、他の行商人にも商材をおろしていたため、治療院の噂は口コミでたちまち広がった。


 患者は日ごとに増え、行列が出来るまでにさほど時間は必要なかった。


 神通力が強化された上、二匹の霊格も幾分か上がり、治療に掛かる時間も以前より随分短くなった。


「今日の両腕をなくしたしと、喜んでたべ」

 桔梗は夕食をとりながらダルシャナにコンコン鳴いた。


「食事もままなりませんからね」

 ダルシャナは笑顔で口の周りを拭く。


「顔に大きな傷のあるメスのしともとても喜んでくれたべさ」

 睡蓮はヒーラの顔を見た。


「女性にとって顔はとても大切ですから」

 ヒーラは睡蓮の食べこぼしを拭きながら答えた。


 桔梗も睡蓮もとても楽しく時間を過ごしたし、ダルシャナとヒーラも純粋な二匹の子ギツネと過ごす時間が好きだった。



 会長室に勘定官のビカシュが呼ばれた。


「何のご用でございましょうか」


 顔が崩れそうなほどの笑顔を湛え、ビカシュが入ってきた。


「売り上げはどんな具合だ」


「上々でございます間もなく箱も一杯になろうかと」

 揉み手でビカシュはダンラジに答えた。


「うむ、もう一箱用意させよう」


「ただやはり気がかりなのは……仮にあの箱を一つでも持って出されると、我商会は傾くかと……」


 ダンラジは声を上げて笑った。

「あんな子ギツネに、あの箱が持てるものか。せいぜいぶら下げていた、薄汚い革袋に溢れんばかりに銭を詰めて、こぼしながら逃げるくらいのことよ」

 ダンラジは顔の前で強く拳を握った。

「あとは私兵に銭を追わせてとっ捕まえて、また働かせればいい。銭の詰まった箱を五箱も寄越せと言いおった強欲キツネだ。銭で言うことを聞かせるんだ」


「しかし、不思議な力を持っています。突然力持ちになることも……」


「想像つくか、あの子狐が重たい箱を持ち上げているところを。そのために、街役人に借金までして詰め込んで重くしたんだ」


 ダンラジのニヤけ顔は止まらなかった。

「それよりも世話係はどうだ」


「よくやってます」


「どちらも逃がさんように、安全のためと偽って全ての出入り口に私兵を立てろ」


 ダンラジは机にヒジを付いて、絡めた指に顎を乗せた。



 桔梗と睡蓮は治療を続けた。


 ダルシャナとヒーラたちと話している時に、二人は幼なじみでヤクタラ村からきたということが分かった。

 オスギツネと戦った、ヒツジのいる村だ。

 外の世界が見てみたくて飛びだした、と言うのだ。


 桔梗と睡蓮は自分たちと重なった。


 この街は居心地がよく居着いたものの、クマール商会で働き後悔しているのだとか。


「人の扱いが雑で、実入りも少ない。入る時はいいことを言われるのですが、いざ辞めようとするとあれこれ言われ辞めさせてくれないのです」


 小さな声で二匹にそう耳打ちをした。


 それでも桔梗と睡蓮にとって楽しい毎日が過ぎる中、突然尻尾の付け根が痒くなってきた。


 尻尾の根元で光る(ゼンマイ)を見たダルシャナとヒーラは驚いた。


 さらにその薇が大きくなったのには、腰を抜かしそうになった。


「四本目だべさ」

 桔梗は尻尾を振ってみた。


「わだすら善行を重ねる、をしただか、徳を積む、をしただか」

 睡蓮も尻尾を振る。


 四本目で天誅五行の雷撃行(らいげきぎょう)を習得した。

 神通力も強化され、新たな神通力も覚えた。


「これは……」

 ダルシャナは二匹の四本目の尻尾を見た。


「おらたち善行を重ねるをすると、尻尾が増えるだ」

 桔梗はダルシャナを見た。


「善行を重ねていくと尻尾が増えるのですか」

 ヒーラが訊いた。


「徳を積むっていうのをしても、増えるだ。わだすたち、善行を重ねるや徳を積むを沢山やっただか」


 睡蓮の問いかけにダルシャナとヒーラは深くうなずいた。


「キキョ様とスイ様は多くの患者を救うことで、善行を重ね徳を積みました」

 ダルシャナが答えた。


「でも、それはダンラジがやったことでねえか」

 桔梗は二人を見た。


「いいえ、ダンラジは己の欲のためにやったのです。人々のためではありません。ですが、あなた方は常に患者のために動いていらっしゃいました」

 ヒーラが答えた。


「でもおらたちは、丸い板……お金を要求しただ」


 ダルシャナとヒーラは声を揃えた。

「それは訳あってのことではないのでしょうか」


「……」

 二匹は沈黙した。


 そののち口を開いたのは桔梗だった。


「おらたちは数日したらここを出るベ。おめたちも一緒にでれ、そしてヤクタラに帰るベ」


 睡蓮も口を開いた。

「ヤクタラはいいとこだったべさ。人もいいし花畑もあるし、森も豊かだべ」


 ダルシャナとヒーラは静かな涙を流した。


「でも、安全対策と称して私兵が見張りについています」

 ヒーラが心配そうな顔をした。


「大丈夫だ、おらたちが無事に街の外まで連れ出してやる」


 ダルシャナとヒーラは顔を見合わせて、うなずいた。



 数日が過ぎた。


 その間、桔梗と睡蓮はもちろん、ダルシャナとヒーラも懸命に働き、一人でも多くの患者を救おうと頑張った。


 そして夜がきた。


 いよいよ決行だ。


 二匹はそれぞれ革袋を持ってきて、その中に入るだけ高額硬貨を詰めると、神通力によりさらに器用になった指先で口をしっかり閉じた。


 桔梗はダルシャナに睡蓮はヒーラにパンパンに膨らんだ革袋を差し出した。


「持って行ってけろ」


「いえ、あなた方のお金が――」


 二匹は背後にある六箱以上の山積みの高額硬貨に両手を広げた。


「心配入れねえ、わだすたちにはこれがあるだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ