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第二十七話 トラ狩りのシェラパ

 小さな村を見付けたので、寄ってみることにした。


 畑に囲まれ、豊かな森に面した暮らしやすそうな村だった。


 どことなくカンナン村に似ていた。


 桔梗と睡蓮が歩いていると、大きな(もり)のように真っ直ぐな(くわ)が飛んできた。


 その凄まじい風切り音に反応し、桔梗と睡蓮は左右に飛び退いた。

 鍬は二匹のいた場所に、土を巻き上げ深々と刺さった。


 それを見た二十代後半の男は、もう一本真っ直ぐな鍬を左手に大笑いしていた。


 そこへ収穫しかけた野菜を放り投げて、女性が走り出して。

「シェラパ、あんた何やってるんだい」

 と、シェラパと呼んだ男を突き飛ばし、二匹の元へと駆け寄って来た。

「申し訳ございません。御狐様」

 女性は膝を付いて手を合わせた。


 シェラパは悠々と歩いてきて、鍬を抜くと誇らしげに言った。

「わざと外したんだよ。決まってるだろ、こトラ狩りのシェラパ様がヘマこく分けねえだろ」


 桔梗と睡蓮は警戒態勢をとり、威嚇音を鳴らした。


「以外と臆病なんだな御狐様ってのは」

 シェラパは鍬に付いた土を踵で落とす。


 女性は頭を地面に付け二匹に謝罪した。

「よろしければこちらに来て頂けませんでしょうか」


 女性は掌で一軒の家を指した。


「酒をくれるかもしれね」


「んだな」


 桔梗の言葉に乗せられて、睡蓮も女性のあとについて行った。


「村長、御狐様がきて下さったよ」


「おお、こちらへどうぞ」

 村長は二匹を見ると椅子を差しだした。


 椅子に座ると椀を脱いで、テーブルに置いた。


 村長とその家族は、すぐに料理と酒を用意した。


「それがね村長、シェラパの奴が鍬を投げつけて、御狐様をすっかり怒らせちまったみたいなんだ」

 話し終えた女性に村長は、見意見にシワを寄せた。

「すぐにシェラパを呼んできてくれ」


 少ししてシェラルパは現れた。

「何でしょうか、村長」


「何故、御狐様に鍬を投げた」


「噂通りのキツネかどうか確かめたんですよ。始めから当てるつもりはありません」


 ニヤつくシェラパを村長は一括した。

「黙れ! トラが出るたびに家で用事があったなどと抜かし顔も出さず――この村で虎に襲われた傷のない青年はお前だけだぞ」


「それだけ虎の習性に精通しているんですよ」

 シェラパは神妙な顔つきをした。


「一日中鍬を振り回してないで、畑仕事でもしな」

 女性は顔を歪めた。


「これは畑を耕すもんじゃねえ、トラを突くもんだ」


「一度でも突いたことがあるのか。家に隠れてて突けるのか」

 長老は呆れ返った。


 そんなやり取りの中、桔梗と睡蓮はひたすら酒を呑み料理を口にした。


「親兄弟がおらんからと言って、この村に住む以上勝っては許さんぞ」

 村長は静かに言った。


「だから敵を取るんだ」


「トラにより家族をなくした者は多い。だが、皆堅実に生きておる。亡くなった家族の分もな」


「……」

 シェラパは拳を握りしめた。


 食事を終えると村長は、桔梗と睡蓮を別室に案内した。


 別室には二十代後半と思われる男が横になっていた。


 男に片脚はなく、脇腹もえぐれ内臓も損傷していると思われた。


「息子のエジンバです。村にトラが出た際、女子供を救おうとしてこんな事になってしまいした。働き盛りの人手を失い女子供が働くはめに……」

 天井を見上げていたエジンバの目から涙が流れた。


 長老は続けた。

「この村の働き盛りの男は、同様の理由で何らかの深い傷を負っています……シェラパ以外は」


 女性がその後に続いた。

「あの男は口ばかりの臆病者なのさ。トラが逃げ出した頃にノコノコ出てきて、大げさに悔しがり、なにしてたか問いただせば、毎度家で用事が有ったなどと。毎回そうさ。普段は鍬投げてフラフラしてるだけなのに」


 村長がヒザを付くと女性や家族も全員ヒザを付いた。

「村に出るのは毎回同じトラだと思います。出産で気が立っているのでしょう。殺してくれとは申しません。少々懲らしめて村へこないようにして頂けませんでしょうか。トラはあちらの森に住んでおります」


 桔梗と睡蓮は村長の指す方角を見た。森のある方角であった。


 家にいるものは全員手を合わせてきたので、二匹もとりあえず手を合わせ、森へと向かった。


 森はその殆どが複数のトラの縄張りであった。


「恐いべ」

 睡蓮が桔梗に身を寄せる。


「さっきのしとたち、長々となにをしゃべってただ」


「とりあえず脚のないしとは可愛そうだべな」


「治癒の術を使えれば、サシャみたいに治せるだろうか」


「この森はトラだらけだべ。もう帰るべ」


「んだな、危険すぎるべ。それにしても後ろのしと何で着いてきてるべか」


「シェラパとか呼ばれとったべ」


「これ以上は危険だ。帰るべ」


 二匹が踵を返すと木の陰からシェラパが出てきた。


「気付かないとは鈍感だな。それにもう逃げ帰るのか、この臆病者が」


 桔梗と睡蓮は無視してシェラパの横を通り過ぎた。


「ちょっと嫌な気配だべ。今の人間の声で気付かれたべ」

 二匹は小走りになった。


 シェラパはそのあとを追い、追い越して一目散に逃げていった。


「来たべ」

 二匹は木陰に隠れた。


 トラは通り過ぎてシェラパを追った。

 オスギツネなど比較にならない大きさのトラであった。


 二匹は慎重に村へと向かった。


 シェラパが二本の鍬を持って村に駆け込んできた。


「トラかい。まさか呼び込んだんじゃないだろうね」

 農作業をしていた女性がシェラパに訊く。


「あの二匹のキツネだあいつらが連れてきた」

 シェラパは血相を変えて畑を踏み荒らした。


「連れてきたって、いないじゃないか」


「喰われちまったんだよ。助けようとしたが、手遅れだった」

 シェラパはそう言うと家に駆け込み戸を閉めた。


 女性は叫んだ。

「トラだ! トラが来るよ!」


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