表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
25/39

第二十三話 屋台とお金

 馬車や人の往来が増えてきた。

 

 かなり大きな村か町のような村落があるのだろう。


 通り過ぎていく人の幾人かは、桔梗と睡蓮に手を合わせて行ったが素通りする者もいた。


 人が増えればそれだけ認知が減るということか。


 桔梗は歩き疲れていた。

「馬車に乗るベ」


 歩きづめの睡蓮もクタクタだった。

「んだな」


 やってきた馬車に駆け寄り、御者の踏み台に飛び乗った。

 睡蓮は前脚後ろ脚を揃えて座り、キキョウは脚を投げ出して座った。


 睡蓮は横目に口を開いた。

「行儀が悪いベ」


「このほうが楽だべさ」


「一応メスだべ」


「一応じゃなく、ちゃんとメスだ」


「じゃあ行儀よく座れ」


 桔梗は睡蓮の言葉を無視して、流れる景色を楽しんだ。


「この馬車どこさ行くべ」

 桔梗は馬のお尻から遠くを覗き込んだ。


「なんか優しい人間ばっかりのとこさ行って欲しいべ」

 睡蓮も覗き込んだ。


 馬車は大きな集落に着いた。

 そこは村というよりも、町と呼ぶべき規模だ。


 二匹は馬車を飛び降りると、初めて目にする町に小さな胸をときめかせた。


「何だべこれは。人間も家も沢山だべ」

 桔梗は紫眼を輝かせる。


「あれはなんだべ。煙の出てる人間の巣みたいなの」

 屋台を指して睡蓮は家ではない人間のいる建物に興味を持った。

 もちろん見た目だけに興味を持ったのではなく、そこから漂ってくる匂いにも心を躍らせた。


 二匹は踏まれないように注意しながら、屋台に向かった。


 焼いた肉を薄焼きパンで挟んだ物を屋台では売っていた。


 二匹が観察していると、どうやら丸い金属板と交換しているようだった。


 どうしてもそこで売っている物が食べたい二匹は、硬貨を探すことにした。


「あの丸い板がいるべ」

 桔梗は睡蓮を見た。


「どこに生えてるだ」

 睡蓮は辺りを見回した。


 二匹は足下に目を落とし硬貨を探しながら歩いた。


 すると痩せ細った無精髭の男が地面に座り、何か呟きながら目を閉じて手を合わせていた。

 男の前には椀が置いてあった。


 二匹が椀の中を覗くと硬貨が数枚入っていた。


 これだと思った二匹は、男の横で脱いだ椀を置くと手を合わせ、小さく、コン、コン、コン、コン、コン、と鳴いた。


 通りを歩く人たちはそれを見てクスクスと笑い、また、御狐様を知る人は手を合わせて行った。

 ただ、硬貨を椀に入れるものはいない。

 まさか子ギツネが硬貨を必要としているなど、思いもしないからだ。


 隣で子ギツネが物乞いをしていることに気が付いた無精髭の男は、恐ろしい剣幕で怒鳴った。

「人の商売を邪魔するんじゃねえ。稼ぎが減るだろうが、あっち行け!」

 男は拳を振り上げた。


 桔梗と睡蓮は椀を咥え駆け出した。


 睡蓮は椀を被り直した。

「何だべ、なにがいけなかったんだべさ」


 椀を被り直した桔梗も驚いていた。

「人間の言葉が分からないのは、不便だべ」


 二匹がまたしばらく歩いていると、解体した肉を売っている屋台があった。


 そこへウサギと水鳥を持った男がやってきて、肉屋の店主に渡した。すると店主は男に硬貨を数枚手渡した。


 観察していると、そのあともう何人かやってきて、同じやり取りをしていた。


「ここに狩った獲物持ってくると、あの丸いの貰えるベ」

 桔梗は大発見をした。

「これから狩りに行くベ」


 二匹は近くの森に狩りに行き、二匹のウサギを持って帰ってきた。


 肉屋の主人の前にウサギを置くと、主人は驚いた顔をした。

「御狐様じゃないのかい。うちのために狩ってきてくれたのかい」


 そう言うとウサギを受け取った。


 桔梗と睡蓮は前脚をだした。


 肉屋の主人は頭を掻きながら大笑いをした。

「大変失礼いたしました。特別高く買わせて頂きます。何しろ御狐様の狩ってきたウサギだからね」


 そう言うと硬貨を数枚差しだした。


 二匹はそれを咥えて、美味しそうな匂いのしていた屋台に向かった。


 屋台に着くと、台に飛びつき前脚でぶら下がり、硬貨を置いた。


 屋台の中には中年の男女がいた。夫婦のようだ。

 

 女性が二匹の行動に困惑していると、男性が振り向いた。

「うちの料理が食べたいんじゃあないのか」

 女性が、そうなの? と聞いてくるが言葉が分からない。


 桔梗が鼻先で硬貨を押す。


 すると女性は焼いた肉をパンで挟んで、差し出した。


 二匹はそれを咥えると、台から飛び降り去ろうとした。


 すると女性は慌てて声を掛けてきた。

「おつりおつり。これはあまりにも貰いすぎだよ」

 そう言って立ち止まり、パンを咥えて振り向く二匹をまじまじと見る。

「明日もこられるかい?」


 ゆっくりと何度も同じ言葉を繰り返していた。


 桔梗と睡蓮は顔を見合わせて、屋台をあとにした。


 女性は心配そうだ。

「明日もくるかね、あのリス」


 男性は首を傾げた。

「一応取っといてやんな」


 二匹は狩りの途中に見つけた川まできた。


 わざわざ離れた場所にパンを置き、椀で水を汲むと、またパンのところまで戻った。


 桔梗は満足そうに水を舐めた。

「お椀は便利だべ」


「わざわざ離れる必用あるべか」


「落っことして流されたら大変だべ」


「気を付ければいいべ」


 睡蓮は前脚でパンを押さえてかぶりついた。

「旨いベ。やっぱり人間の獲ってきた肉は旨いべ」


「これは何の肉だべ。周りの白い肉は、産まれた森の村で食べたのに似てるべ」


「わだすらウサギか水鳥しか食べたことないべ」


「イノシシは人間にやったから」


「結局あの時イノシシでてこなかったベ」

 睡蓮は思い出すように首を傾げた。


「明日も狩りをするべさ」


「んだな。それにしても、今日となりで怒ってたしと何だったんだべ」


「急に怒りだしたべ」


「それに、痩せてたべ。産まれた森の村のしとたちが、食べ物に困ってた時みたいだったべ」


「今度、ついて行ってみるべか。何か困ってるかも知んねえべ」


「んだな。しと助けだな」


 二匹は前脚で押さえてパンをかじる。


 咀嚼しながら水を汲みに行く桔梗の後ろ姿を見て、睡蓮は呆れた。


 

 パンを噛みしめながら、眼前に広がる目新しい景色を桔梗と睡蓮は楽しんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ