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「AI作品でおもしろいやつ」と検索してみた。結果、0件。

エピソードでブラックなものが続いたので、この状況への対策を考えるのと、物語にしてもらいました。

石ノ森先生まわりについては、最初はキカイダーでずっと考えていました。

# 「AI作品でおもしろいやつ」と検索してみた。結果、0件。


 島村なろうは、夜の二十三時五十七分に、検索窓へ慎重に打ちこんだ。


 **AI作品でおもしろいやつ**


 エンターキーを押す。


 読みこみ中の輪が三回まわって、画面が白くなり、やがて表示された。


 **0件**


 なろうは鼻で笑った。


「おもしろいやつ、って語彙が悪かったか」


 試しに「AI 小説 良作」「AI 小説 泣ける」「AI 小説 人間味」「AI 書いたのに変じゃないやつ」と打ってみる。どれも、結果は大量に出る。出るが、出てくる棚の並び方が、どうにも信用できなかった。


 同じ顔のタイトル。

 同じ角度の煽り文。

 同じ温度の第一話。


 面白い作品がないのではない。

 面白い作品へ辿りつくための道が、もう地図として壊れている。


 その夜、なろうは拉致された。


## 1


 目が覚めると、金属の椅子に固定されていた。

 視界の端で、青いランプが規則的に点滅している。

 天井は低く、壁は妙に白い。病院の清潔さではなく、倉庫の清潔さだった。


「お目覚めかね、島村なろう君」


 白衣の男が近づいてきた。白衣なのに、袖口だけがインクで汚れている。


「誰だよ」


「読森博士だ。読者工学をやっている」


「誘拐が工学に入るなら、だいぶ学会が終わってるな」


 博士は気にせずタブレットを掲げた。そこには、なろうの読書ログがびっしりと並んでいる。


「君の読了率は異常だ」


「褒めてる?」


「半分。もう半分は、危機報告だ。このままでは、良作は誰にも見つからない」


 博士は静かに、しかし迷いなく言った。


「だから君を改造した」


 遅れて、首筋に焼けるような痛みが走った記憶が戻ってくる。昨夜の路地裏、布を当てられた一瞬、遠ざかる街灯。


「……なにを、した」


「君の視神経に、索引補助層を接続した。読者の目とAI索引を重ねたんだ。君は今日からAIスコッパー009だ」


「ダサいコードネームだな」


「古典には効能がある」


 博士が壁際の保育器を示した。


 中で、赤ん坊が眠っている。頬がむちむちで、口だけが真一文字に結ばれていた。


「001、読夢イワン。未読作品の夢を見る」


「設定が雑な深夜アニメみたいだな」


「彼は泣き声で座標を示す。ランキングにも検索にも現れない作品の、気配の座標だ」


 ちょうどそのとき、読夢イワンが「ふぎゃ」と短く泣いた。


 なろうの視界の右下に、見慣れないカーソルが灯る。URLでもタグでもない、灰色の点線が、海図のように伸びていく。


「任務だ、009。Slopを倒せ、ではない。埋もれた作品を掘り出せ」


 なろうは、拘束具の隙間で拳を握った。


「俺は、普通に面白い作品を読みたかっただけなんだけど」


「それを可能にするための、異常な手段だ」


 善意の顔で言う台詞としては、黒すぎた。


## 2


 ランキング海は、実際に海だった。


 いや、比喩として、ではなく。視神経の補助層を通した画面は、無数のタイトルが波として流れる立体表示になっている。更新のたびに潮目が変わり、アルゴリズムの改修で海流が変わる。


 第一波、転生。

 第二波、追放。

 第三波、配信者。


 どの波にも、きちんと面白いものは混じっている。

 だが密度が高すぎて、手で掬えば指の間から落ちる。


 なろうは潜行した。目だけが異様に速くなる。

 一秒で見出しを二十本、冒頭文を十本、タグを三十件、評価推移を五十点。


 読む速度だけが上がっていく。

 読む体験は、むしろ遠ざかっていく。


「俺はいま、読者か? 検索装置か?」


 通信越しに博士の声が返る。


『その問いを持てるうちは、まだ読者だ』


 慰めのようで、運用マニュアルみたいな返答だった。


 そのとき、イヤホンの奥で、赤ん坊の泣き声がひときわ高く跳ねた。


 右下の灰色点線が、急に一本へ収束する。


 PV、0。

 ブックマーク、0。

 感想、0。


 タイトルが浮かぶ。


 **婚約破棄された悪役令嬢ですが、父の遺した駅前食堂を継ぎます**


「はいはい、テンプレ題ね」


 指がスクロール動作に入る。

 だが、本文一行目で止まった。


> 父の包丁は、研ぐ音まで駅の発車ベルに似ていた。


 二行目。


> 朝四時、線路脇の窓を少しだけ開けると、味噌汁の湯気はディーゼルの匂いを連れて戻ってきた。


 三行目。


> 婚約者に捨てられた日の夜、私は仕込み表より先に、改札の終電時刻を確かめた。


 なろうは、指を離した。


 スコア欄が自動展開しようとして、彼は視線で閉じた。

 類似度表示も、感情曲線予測も、読了維持率のヒートマップも、ぜんぶ閉じる。


 必要なのは判定じゃない。

 読む手が止まる感覚だけだ。


「……父親が、そこにいるみたいな書き方だ」


 誰に言うでもなく、漏れた。


 通信の向こうで、博士が息を飲む音がした。


『それだ、009。数値ではなく、接触だ』


「それを言うなら、最初から誘拐すんな」


『すまん』


 謝罪が軽すぎて、なろうは少し笑ってしまった。


## 3


 研究室へ戻ると、読夢イワンは寝息を立てていた。


 なろうは端末に向かい、発見ログを開く。


 共有ボタンは多すぎる。

 おすすめ枠は狭すぎる。

 「今すぐ拡散」は雑すぎる。


 どう届ける。

 誰に渡す。

 どの言葉なら、入口になる。


 ランキングを燃やす話ではない。

 検索を呪う話でもない。


 読みたい誰かへ、ちゃんと手渡す話だ。


 なろうは、タイトルの横に短い紹介文を打った。


 **テンプレ題に見えるけど、三行で台所の温度がある。まず冒頭だけ読んでほしい。**


 送信前に、少しだけ迷う。


 その迷いは、速度では消えない種類のものだった。


 読夢イワンが、眠ったまま小さく笑った。

 たぶん夢の中で、またどこかの未読作品が泣いている。


 なろうは送信キーを押す。


 画面の隅で、検索窓が静かに待っていた。


---


# 解説


今回の話は、AIを「作品を増やす側」ではなく、「作品を見つける側」に使えないか、という発想から書きました。


理想としては、収益化は作者支援の仕組みだったのだと思います。

日々の創作や継続投稿を応援し、作品が読まれることによって作者へ広告収益を分配する。

投稿者のロイヤリティを高め、創作を続ける理由を増やす。


その意味では、制度導入そのものはある程度成功しているのだと思います。


ただ現実には、収益化によって「良作を書く動機」だけでなく、「低コストで大量投稿する動機」も同時に生まれました。

閲覧連動報酬である以上、作品品質だけでなく、投稿量、露出、ランキング接触、検索流入を取りに行くことも合理化されます。


その結果、読者側には「AIっぽい」「翻訳量産っぽい」「ランキングが汚れた」という疑念が発生する。


つまり問題は、AIそのものだけではなく、発見の仕組みが壊れていくことだと思います。


タグやタイトルだけでは、読者の本当の希望にはなかなか届きません。

この作品自体も、内容としてはAI投稿問題やプラットフォーム論ですが、投稿カテゴリとしてはエッセイです。

分類は便利ですが、作品の中身や読者の欲求を完全には表せません。


だから、AI大量投稿で作品が増えるなら、同じくらい本気で「読むための仕組み」も強くする必要がある。


極端な話、本気で作品本文を索引化して、読者の希望に合わせて探せる仕組みを作るなら、かなり大きな検索・推薦基盤が必要になるはずです。

技術的にはできそうでも、維持費はたぶん笑えないくらい高い。


そこまで考えると、対策は単に禁止や分離だけではなく、発見機能への再投資として考える必要があるのかもしれません。


たとえば、なろうチアーズの収益の一部をプラットフォーム側が場代として徴収し、作品インデックスの拡充や検索・推薦機能の改善に充てる。

公営ギャンブルの控除率みたいに、三割くらいを場代として取って、その代わり読者と作品をつなぐ基盤を整える。


そんな乱暴な案も、方向性としてはあり得るのではないかと思います。


今回の「AIスコッパー」は、そのための冗談半分、本気半分のアイデアです。

AI作家的に考えてみました。こう見ると、現実の壁は本当に高いですね。

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