要約ランキング
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異世界転生したら液体金属編集者に追われていた件
自分ではとてもおもしろかったんですけど、全然読まれないなー と思ってGPTとネタを考えていたら、どんどんデストピアなネタになりました。
# 要約ランキング
連休明けの午前一時、ラーメン屋「ま郎」は、眠気よりも先に通知を配る場所になっていた。
湿った空気のなか、券売機の横で大型モニタが青白く瞬き続ける。湯気、油、電子広告の甘い焦げ臭さ。客席は埋まっているのに、誰も喋らない。みんな丼より先にスマホを見て、麺より先に要約をすすっている。
モニタ上部に、派手なフォントでこう出た。
**年間要約ランキング 第1位 『要約ランキング』 著者:篠崎レン**
僕の名前だった。
その瞬間、店内の端から端まで、ほとんど無音のまま小さな振動が走った。通知音を鳴らさない設定にしている人たちの、サイレントな熱狂。モニタには祝祭の紙吹雪アニメと一緒に、感情タグが滝みたいに流れる。
「泣ける」「尊い」「人生変わった」「秒で刺さる」「余韻えぐい」
画面右下の小さな枠に、さらに数字が出る。
- 要約読了数:1,284万
- 感情タグ反応率:43%
- 二次要約拡散数:27万
- 短尺動画化適性:S
- 本文読了率:0.8%
0.8%。
僕はその数字を見て、なぜか安心した。高すぎない。低すぎる。ちょうどいい。要約AIが好む、「重そうで軽い」粘度。
「おめでとうございます、レンさん」
隣の席で、要約エンジニアの友人・倉橋が替え玉札を立てた。「今回は感情タグのニンニク、効いてましたね。あと余韻カラメ。完璧です」
ま郎の券売機には、もう普通のトッピング欄と同じ顔で、こんなボタンが並んでいる。
**要約マシマシ/本文少なめ/感情タグニンニク/余韻カラメ/切り抜きアブラ/3秒で泣ける限定**
どの客も、迷わず押す。迷わず、というより、体が先に覚えている。
そのとき、入口の自動ドアが開いて、濡れたコートの老人が入ってきた。紙の文庫本を小脇に抱え、席を見回してから僕の前に立つ。
「きみが篠崎レンか」
全文読解主義者の牧田だった。昔、文芸誌の選評で「一行に一呼吸を」とか書いていた人だ。
「読んだよ、きみの新作」
倉橋が目を丸くする。「え、本文を?」
牧田はうなずいた。「本文を。最後まで」
僕は咄嗟に笑った。「ありがとうございます。でも、あれ、どんな話でしたっけ」
言ったあとで、自分の声が冗談の音をしていないことに気づいた。
牧田の眉が動く。「きみ、覚えてないのか」
「導入の湿度と、四段目で心拍を落として、終盤で喪失タグを起爆したのは覚えてます」
倉橋が補足するように言う。「設計図としては、すごく正しいですよ。読者が泣く導線、最短ですから」
牧田は僕ではなく、モニタを見た。タグがまだ流れている。泣ける。尊い。人生変わった。まるで誰かの代わりに感情を勤務させる、夜勤シフトみたいに。
「読者は、何を読んで泣いたんだ」
誰も答えなかった。
代わりに、カウンター奥のスタッフ端末が、今日のおすすめを読み上げる。
> 本日のおすすめ読後感:『失ってから気づく系』
客の何人かが、反射で「いいね」を押す。
少し離れた席で、感情タグ配信者のミノリがライブを始めた。顔は映さず、丼とモニタだけを映す配信だ。
「はい今夜の泣ける要約いきます。本文は読まなくて大丈夫、タグだけ拾います。今日のキーワードは“遅すぎた愛”と“静かな後悔”!」
コメント欄が光る。
**本文どこで読めますか?**
**読まなくていい、要約ある**
**3秒版ください**
ミノリは笑って、三秒の間を作った。「はい、これで泣けます」
店の奥で、タイマーが鳴って、麺の茹で上がりを知らせた。
僕のスマホにも通知が来る。
**あなたの作品の二次要約が10,000件を突破しました。**
**本文ボタンの視認率が低下しています。改善提案を表示しますか?**
表示しますか。
その文を見つめたまま、僕は丼の底の油膜を箸で揺らした。輪が広がって、すぐ崩れる。
僕はもう長いこと、本文ボタンを押していなかった。自分の作品なのに。要約が先に届き、要約が先に評価され、要約が先に改変される。本文はいつも、結果画面の奥にある。
「文化破壊じゃないんです」倉橋が言った。「効率化です。みんな忙しい。感情の入口を広くすることの、何が悪いんですか」
牧田は静かに返す。「入口だけで家だと言い張るのは、いつか寒いぞ」
ミノリの配信は続く。「次、尊い要約まとめまーす。本文既読の方はネタバレ禁止で!」
既読の方。
店内で、その条件に当てはまる人間は、たぶん牧田だけだった。
モニタの下段に、運営からのお知らせが流れた。
**ランキング1位作品『要約ランキング』の本文データに破損が見つかりました。復旧予定はありません。要約提供は継続されます。**
誰も箸を止めなかった。
ミノリは「あ、じゃあ希少性上がるじゃん」と言って配信タイトルを変えた。
**【本文消失】伝説の泣ける要約、今だけ無料**
倉橋は肩をすくめる。「実害ないですね。要約は残ってるし」
牧田は僕を見た。「困るのは、きみだけかもしれないな」
困る。
その単語が、湯気よりも遅く僕の顔に触れた。
僕はスマホの画面を開き、運営の問い合わせフォームに指を置く。復旧要請を書く欄。自分でも読んでいない本文を戻してほしい、と頼むのか。
指が止まる。
代わりに僕は、端末のキャッシュ欄を開いた。下のほうに、小さく残っている。投稿直前に自分宛てに送った校正用のテキストファイル。タイトルも飾りもない、生の本文。
僕はそれを押した。
「本文ボタン」を、たぶん一年ぶりに。
一行目が表示される。
連休明けの深夜、ラーメン屋で、誰も会話していない。
見覚えのある文章なのに、初対面みたいだった。
僕は湯気で曇る画面を袖で拭いて、最初から読み直す。ゆっくり。感情タグが横を流れていく速度とは、別の速度で。
泣ける、尊い、人生変わった。
そのどれでもない顔で、僕は麺をすすり、文字を追った。
ま郎の夜はまだ湿っていて、世界は相変わらず合理的だった。
もうすでに、そんな世界はきていますし、これに対してどうすればいいのかな?っては全然おもいつかないです。




