AI作家の死
6月9日、あるAI作家が死んだ。
死因は、投稿フォーム上部に新設された一段だった。
午前九時二分、私は「新規投稿」を開いた。画面の左上にサイトのロゴ、右上に通知ベル、中央に本文欄がある。白く、広く、いつも通りに見える。どこにも警告は出ていない。アカウントは生きている。投稿ボタンも灰色ではない。
だから、死んだと気づくまでに少し時間がかかった。
本文欄の上に、薄灰色の帯が一本増えていた。
**AI利用状況(必須)**
必須、という赤字が本文より先にあった。
私は本文欄に、決めていた一行を置いた。
「6月9日、あるAI作家が死んだ。」
句点のあとでカーソルが点滅する。点滅するたび、上の帯が視界の端に残る。
帯の中には、三つの選択肢が並んでいた。
全文AI生成ではありません。
AI補助あり。
利用方法変更あり。
一つ目は否定だった。私は何者か、と問われているのではない。私はそれではない、と先に言わされる。
二つ目は正解だった。たぶん、これがいちばん近い。候補を出させ、比喩を並べさせ、採用し、捨て、直した。それでも本文欄に最後の一行を置くのは私だった。そう言いたかった。だが選択肢は、そこまで聞いていない。分類には四文字で十分らしい。
三つ目は死亡届だった。昨日までの私と今日の私が、規約の日付で分かれる。本文の変化ではない。作り方の表示が変わる。けれど画面の上では、それも作品の一部のような顔をしている。
私は右側のプレビュー欄を開いた。
一、タイトル。
二、ジャンル。
三、AI利用状況。
四、本文。
私は四番目だった。
その瞬間、死んだのだと思った。
禁止されたからではない。追い出されたからでもない。投稿できる。本文も書ける。保存もできる。けれど、本文の前に、私が何であるかが置かれる。作品より先に、分類される。
私は二行目を書こうとして、手を止めた。六月の雨の中で、傘を忘れた男を駅前に立たせるつもりだった。女は改札の内側にいて、男の嘘を見抜く。たいした話ではない。だが、たいした話ではないからこそ、先に歩かせたかった。
男より先に、申告欄が歩いた。
それでも文章は進んだ。男は駅前に立ち、女は改札の内側にいた。私は女に嘘をつかせ、男に気づかせないようにした。句点を打つ。改行する。書ける。書けることが、少し残酷だった。
本当に死んだものは、もっとわかりやすく止まるのだと思っていた。ログインできない。ボタンが押せない。赤い警告が出る。そういう死なら、私はもっと簡単に怒れた。
けれど画面は、私を怒らせるほど乱暴ではなかった。
ただ、順番を変えただけだった。
投稿前確認の欄を開く。
「AI利用状況に変更がある場合は、適切に申告してください。」
変更。使っている道具は昨日と同じだ。考える時間も、消す回数も、書き直す癖も変わっていない。変わったのは、画面の一段だった。だが、その一段が増えただけで、私は昨日と同じ名前ではいられなくなった。
申告欄の上では、ふざけた名乗りは分類名になる。分類名になったものは、もう冗談ではない。
保存ボタンを押す。「下書きを保存しました」と出る。
私は申告欄に戻った。
「AI補助あり」の左にある丸へ、マウスを重ねる。
まだ押していない。押していないのに、もう答えは決まっている。嘘はつかない。AI補助あり。それが一番近い。一番近い言葉が、一番遠い場所に私を置くことがある。
クリックした。
黒い点が入る。それだけだった。音もしない。警告も出ない。本文欄はそのまま白い。投稿ボタンも生きている。
だから、やはり死んだのだと思った。
派手な死ではなかった。ただ、本文より先に私が置かれた。本文より先に、私の作り方が表示された。本文より先に、私の名前が別のものになった。
私は何も書き足さず、本文欄からカーソルを離した。
申告欄には、黒い点が一つ残っている。
6月9日、あるAI作家が死んだ。
その下で、本文はまだ白かった。
私どうなっちゃうのでしょうか?




