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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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世界で一番強い武器

 結局、精霊についてはよく分からなかった。

 気配があるなら本体も傍に存在している筈だけれど、そちらについてはまるで手掛かりがない。本当に精霊が存在しているのか、精霊に相当するものがいるのか、エルフが感覚的な何かを精霊と誤認しているのかも分からない。


 はっきりしているのは、エルフの言う精霊はヒエミ大陸にいなさそうってだけ。

 そもそも、精霊は万物に宿るとされる筈だった。世界の根源となった存在で、今もあらゆる物体に残滓が留まる。その働きによって自然の恵みが育まれ、人々の生活が成り立つ。


 でもその理論で言うなら、ヒエミ大陸で精霊の気配が確認できない理由が分からない。

 まさか、世界の成り立ちが違う?


 そんな事はあり得ないと思いながらも、突飛な仮説を完全否定できないでいるのは、私達無し人と亜人、生息種族が完全に別たれてしまっているから。

 おまけに魔物や植生、環境が異なるってだけでは説明しきれない相違点も多い。

 まるで、北半球と南半球を意図的に分断したみたいに……。


「スカーレット様?」


 心配そうなウォズに覗き込まれて、今はコキオをドライブ中だと思い出す。

 遊びに来た訳じゃない。

 運転中のカティと私の隣に控えるフランを除けば同行者はウォズしかいないので半分くらいはデートと言えなくもないけれど、主な目的は領都住人への顔見せだった。


 突然行方不明になって神様の許へ誘われたのではって噂まで立ったから、こうして元気に帰ってきた事を示しておく必要がある。

 最初はいつものように徒歩で出たのだけれど、大勢からあっという間に囲まれて動けなくなった。悪気がないのは分かっているので領主の時間を浪費させたと罰するつもりはないと言っても、あの歓迎振りに付き合っていたのでは顔見せが終わらない。

 噂はすぐに広がるとしても、私の不在で渦巻いた不安は一刻も早く払拭しておきたかった。


 そこで、私としては珍しく車での移動となった。

 速度制限があるから顔見せは十分にできるし、伯爵家の紋章がデカデカと装飾された車の進行を妨害する人もいない。時々降車して声を掛ければ、私の無事は十分に伝わる。


「あ、ごめん。ちょっと考え事してたよ」

「それならいいのですが……、エルフの異常性はそれほど気になりますか?」

「うーん、あんまり不可解だからつい、ね。考えたところで答えが出る状況じゃないのは分かっているんだけど」


 少なくとも新しい情報が入らなければ結論を出しようもない。

 それなのに考え事に集中していたのでは、何か問題がありそうな印象を与えてしまう。住人の不安を晴らす目的でお出掛けしているのに、心配事があるのではないかと誤解を振りまいたのでは本末転倒だった。


「ここからはちゃんと切り替えるよ。精霊が何か分からないからヒエミ大陸の環境は再現できそうにないし、エルフと今後の付き合い方を考える材料にはなっても戦争を有利に進められる因子にはならない。それなのに、結論も急ぐ理由もないよ」


 エルフは不思議生物ではあったものの、獣人も存在するこの世界で寿命以外はそれほど特筆する点を持たない。長寿生命体が本気で発展を求めたならとんでもない超常都市が出来上がったかもしれないけれど、そこは彼等の信仰と思い上がりが阻害した。


 精霊の意志の体現者、その求める先が何なのかも分からないまま追い求めた。分かっているのは、天帝には何か目的がありそうって事くらい。そんな状態で団結できる訳もない。


 そして、獣人を支配するにはこのくらいで十分って思い上がりが発展を止めた。現状で満足していたなら急進的な成長が続く筈もない。


 だから、戦争の障害とはなり得ない。

 不思議生物であっても、急所を突いても死なないような超常生命体じゃないから敵じゃない。

 ヒエミ大陸では人間性を消失するおかしな生態の詳細を知るのは急がなかった。


「そうですか。精霊とは何か、と言う気持ち悪さがありますから分からなくはありません」

「うん、あんなふうに最低限の生命維持以外をピタリと止めたところを見てしまうと、どうしてもね」


 それと、万物の根源と聞いて私が思い浮かべるのは別物となる。

 聖地に情報集積体なんてものがあった事を考えてもほぼ確定と言える。

 だと言うのに、今も街の隅を蠢いている()()と精霊が同じものだとは思えなかった。


 ……おっと。

 また思考に沈みそうになった意識を引き戻す。今の私は領主、探究者の真似事は後でいい。


「そう言えば、このあたりじゃなかった? ヴァイオレットさんが見つけた感じのいいカフェって」


 こうして外出中にお気に入りのお店を見つけたからと、領主である私が頻繁に通うって訳にもいかなかった。あからさまな贔屓だと捉えられる。

 周囲の嫉妬を集めてしまうかもしれないし、その店の営業努力を止めてしまうかもしれない。領地全体の活性化のためには悪影響にしかならない。だから、直感で選ぶ以外では領政で関わる職員や友人知人から広く情報を集める事にしていた。


 目的地の存在しない周回なので、この機会に立ち寄ってみるのはちょうどいい。街の人々と触れ合うにも適した場所だからと、既にカフェへ三件寄ってお腹はタポタポだけど。


「それもいいですけれど、先に工場へ寄らせてもらえませんか?」

「勿論構わないよ。魔法籠手の進捗確認か何か?」

「いえ、発注していた品物が完成したと連絡を受けていますので、引き取りに行っておきたいのです」


 問題なんてある筈もない。こうして連れまわしている訳だから、ついでに用事を済ませておくくらいいくらでも付き合うつもりだった。


 そうして向かったのは巨樹の近く、工場としては小さめの建物だった。ただし、最新鋭の外壁と三重の魔力認証を必要とする領主邸の次くらいに防備を固めた場所だった。

 何しろ、ここで生産しているのはオリハルコン関連となる。

 加工に大量の魔力を必要とするため巨樹の近くに設置せざるを得ず、保管場所も兼ねているのでセキュリティも最高レベルを設定しなければならなかった。


「あれ? 何か新製品?」


 オリハルコン関連の製造は領地でも最重要案件の一つなのに、ウォズが個人で受け取りに来るような品物に心当たりがなかった。


「スカーレット様の失踪後に発注した代物でしたので、報告が遅れてしまいました。あ、でも、製造許可はきちんと取り付けていますよ」

「そこは疑ってないよ。だけど、帰還後も報告がなかったのはどうして?」


 ウォズは私の婚約者であっても、あくまで婚約者止まりなので領地の産業へ口を挟まるような権限を持っていない。私が不在で直接許可が得られなかったのは仕方ないとして、ベネットをはじめとした執政官の許諾は必要な筈だった。

 そして、私が帰還したなら真っ先に報告が届いてしかるべき。質問はウォズよりフランへ向いた。


「それに関しては、俺の我儘ですね。直接報告するからと、時機を見合わせてもらいました」

「そなの?」


 ウォズもだけれど、この件に関わったであろうフランもベネットも、私に不利益はもたらさないだろうってくらいの信頼はある。そんな二人が規定の曲解を黙認したなら、それだけの理由があったのだろうと察せられた。


 意図的な報告遅れを口うるさく指摘しようとは思わない。それでも、その理由については気になった。

 けれどそれも、ウォズの代わりに品物を受け取りに行ったカティが戻った事で氷解する。


「もしかして、私に?」


 カティが抱えて戻った箱が綺麗に包装されているのを見れば、プレゼントである事は疑いようもない。そして当然、これが私宛じゃないと思えるほど鈍い私でもいられなかった。

 つまり、報告がなかったのはサプライズを計画したからって事になる。


「以前から考えてはいたのです。もうすぐ成人するスカーレット様に何か記念品を贈ろうと。そこで皆で意見を出し合いまして、スカーレット様の象徴となるものが相応しいだろう、と」


 嬉しかった。

 表情を保つのが困難なくらいに嬉しかった。

 雑談のついでにこぼした欲しい素材をプレゼントされた事なら以前にもあった。サプライズならストラタス商会の設立も飛び切りだった。

 そんないくつかの前例と比べても嬉しさが先立つ。

 ワクワクが止まらない。


「ここで開けても?」

「ええ、勿論」


 折角綺麗に包んでくれたのに、とか。

 お屋敷に帰るまでのお楽しみ、とか考える余裕はなかった。このまま巡回を再開しても、さっきとは別の意味で気もそぞろになって顔見せの意義を果たせない。


「鉱石や煌剣の輝きを見た時から、スカーレット様の手に相応しいと思っていたのです。量の限界や様々な制約があってこれまで実現は不可能でしたが、オーレリア様やエレオノーラ様も絶対に実現するべきだと、皆さん一丸となって開発に協力してくださいました」

「――‼」


 包みの中から出てきたのは、白銀の箒だった。

 開発――つまりオリハルコンを成形しただけじゃない。


 念入りに調整した柄は手に馴染み、穂先のカバーには芙蓉の花と箒、ノースマーク伯爵家の紋章が刻んであった。

 サラサラの穂もオリハルコン製で、魔力含有量を調整して柔らかな手触りを実現している。魔力を流すと覚えのある感覚が伝わる事から、キミア巨樹から製作した紙を穂の形へ整えて、液体状のオリハルコンを染み込ませているのだと思う。

 巨樹は私の魔力の影響を強く受けているので、オリハルコンと私の親和性を高める工夫だと分かった。魔法を使う際の触媒、杖の代わりに使う事を思えば、この僅かな違いが使い勝手を高める。

 そして、柄の先に輝く大きなレッドダイヤモンド。

 魔力許容量が並外れたオリハルコンを素材とする以上、魔石を取り付けても魔法制御の補助効果は薄い。むしろ魔力の流れを阻害しかねない。

 だから、この宝石だけは杖の役目と無関係。この箒がスカーレット(わたし)のものだって証明が輝く。


「これを完成させれば、スカーレット様が戻ってくると信じました。もしかして……と不安に苛まれる中、これを渡す機会はきっとある筈だと心の拠り所としていたのです」

「うん……、うん」

「本当は学院の卒業式を節目に渡すつもりでしたが、いつまでも秘匿に協力してもらうのはフランさん達に悪いですし、大きな戦いを控えた今こそ受け取ってもらうべき時だと考えました」

「うん」

「だから、その箒を使って勝ってきてください! オリハルコン(きせき)を振るうのに相応しいのはスカーレット様だと、その箒を手に戦うスカーレット様は無敵なのだと、示してきてください!」

「うん、うん!」


 困った事に、他に言葉が口から出てこない。

 ニマニマ緩んだ表情(かお)も戻りそうにない。

 大切な箒を抱きしめた状態で、ひたすら幸せを噛みしめていた。

 こんなに嬉しい事ってなかなかない。


「本当に……、渡せて良かった。俺が思っていた以上に白い輝きがスカーレット様と調和して、とても美しく映ります。神々しいとは、今のスカーレット様のためにあった言葉に違いありません。自賛になりますが、素材にオリハルコンを選んで正解でした」


 ウォズはこのまま私を喜ば死させるつもりかな?

 今の私なら、褒め殺しで本当に心臓止まるよ?


「宝石や高価なだけの装飾品より、今のスカーレット様を美麗に彩るのはこの輝きだと思います。気に入って……いただけましたか?」

「うん‼」

「それなら、そのスカーレット様だけの箒に名前を付けてもらえませんか? 新しい相棒に相応しい名前を」


 そう願われて、思い浮かんだ言葉は一つしかなかった。

 多分、普段なら選ばない。

 でも今は、その響きを恥ずかしいとも照れくさいとも、私らしくないとも思わない。何より、この箒にピッタリの名前はこれしかない。


「アモール!」

いつもお読みいただきありがとうございます。

ブックマーク、評価をいただけるとやる気が漲ってきます。是非、応援いただければと思います。

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― 新着の感想 ―
デレティの誕生、他のメンバーがいたらニヨニヨされるだろうね。そしてオリハルコン製箒で更にエルフの勝ち目がなくなるとさ(元からあるとは思わんがな)
アモール… たしか、“愛”だったかと、プシュケが“心”で、ギリシャ神話由来かな?
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