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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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ジュートの草案

 私達はこの大陸へ来て、大変驚いた。広い国土とは名ばかりで、実際は種族同志が集まって独自文化を築いているだけである。君臨している筈のエルフ達は統治どころか、恫喝して高圧的に振る舞うだけの盆暗集団であった。


 つまり、統治するだけの能力がない。


 そのような役立たずの貴方達には即刻政治の場から退いてもらいたい。

 けれど、こちらは伝承に出てくる世界樹に見まごう巨大植物があったからと、碌な情報収集もせず御伽噺と現実の区別もつかないまま攻め入る貴方達のような無法者とは違う。


 そこで獣人達と接触し、彼等とならば利のある国交を築けると判断した。

 きちんと貴方達の逃げ道も用意してある。

 私達は六十二匹の竜を討伐した。これは貴方達が用意した選帝競儀の規定に沿ったもので、獣人による成果に他ならない。


 この南大陸において、覆しようのない結果だと考えている。これなら、会話の成立しない貴方達であっても拒絶しようがない現実であろう。赤の狩人の脅威について碌に知らされていないであろうユーシアメイルの住人も、明確な敗北の証拠が示されたなら受け入れざるを得ない筈である。下からの突き上げで我々の要求が聞き入れられない事態は避けられるのではないかと思う。


 勿論、反論があるなら聞き入れる用意はある。

 けれど成果が出揃うまで待たされるような時間稼ぎに応じるつもりはないので、まずは書面による計画書の提出をお願いする。その際、内容は提出前にしっかりと精査願いたい。現実味のない提案や我々ならこのくらいできる筈……と言った妄想の類を読むのは無駄である。


 受け入れられたなら、次代継承の手続きを急いで行いたい。その際、現政府の権限を一部制限させていただく。


 何しろ、貴方達の無法ぶりは目に余る。

 現王の死没で統治権の移譲が成った後、エルフの専横で連合国の立て直しが困難になっているなどあってはならない。国の明るい未来のためにも、貴方達が一線から退く事を望む。


 それに、エルフ達が個人的に行なったヴァンデル王国への侵攻の責任もある。

 他種族に一切の周知することなく自分達の信仰にのみ基づいて行われたこれらは責務を逸脱するものであり、一方的に獣人達を戦争の脅威が降り注ぎかねない状況へ陥らせた独善は統治者の資格がないものと考える。

 よって、権限の剥奪は戦争の賠償の一環でもある。


 無論、ヴァンデル王国にもたらした戦傷の補填については別途請求する。王国への侵攻はエルフの独断で行われたものと判断し、責任は全て貴方達に負ってもらう。


 また、継承の手続き完了後にブラヒム・カッバーニの引き渡しを求める事も併せて伝えておく。

 彼は現在、天子と呼ばれる次代継承候補と聞いているが、選帝競儀完了後ならただの一般人となる。血統による擁立でもないとの話なので、引き渡しには何の問題もないものと考える。


 彼の在り方は今のエルフの象徴とも言えるもので、横暴で傲慢、そして卑怯であった。

 彼が何処まで事実を報告しているものか分からないので通達しておくが、彼はディルガームの住人を虐殺した。状況と本人言動から、赤の狩り人の行動を制限する事が目的であったのは明白である。

 つまり、選帝競儀の妨害行為と言える。


 協議の規定に参加者を直接害する行為を禁止する項目はないが、わざわざ記載しなければ道義を遵守する必要もないと考えるほど貴国は蛮人の吹き溜まりなのであろうか?

 それとも、自らが定めた協議内容で敗北が濃厚になった際に、盤面をひっくり返す手段として通念の原則を規定から外した低劣集団なのだろうか?


 そうした誤解を解く証明のためにも、ブラヒムの引き渡しが円滑に行われる事を強く望む。

 もしもこうした要求が受け入れられない場合、エルフは南大陸の平穏を乱す()()として処理しなくてはならない。

 そうした不幸な結末とならないよう、文明人として賢明な判断を期待する。


「……うわぁ」


 要約するとそういう内容となる。

 勿論直接的な表現を避けて婉曲的で遠回しな文面に整えてあるけれど、中身は皮肉と罵倒に富んだ恫喝文書であった。暴力手段もマルフット前の平原で演習中のため、脅迫文書かもしれない。

 しかも、当たり障りのない言葉がたくさん並んでいるから、読み飛ばすだけだと選帝競儀の勝利宣言とブラヒムの引き渡し要求のみに見えてしまう。

 それで短絡的に兵をあげてくれるなら話が早い、多分そういった思惑もあるのだと思う。


 草案はジュートが考えても署名するのは私になるので目を通したところ、私の開いた口が塞がらないまま驚嘆の声が漏れた気持ちも分かってほしい。


「ふむ、これなら短気なバウワーブ卿あたりが食いついてくれるのではないですかな?」

「ある程度の教養があるなら読めるだろう。この文書を理解できないようなら、為政者に相応しくないと引き摺り下ろす口実にもなる」


 狐人の老支部長やファイサルさんに確認してもらったところ、文化が違うからと解釈が異なる事もないらしい。


 帝国との戦争を早期終結させられて、今更ながら本当に良かったと思う。文書で判断を迷わせるのも戦術の一環。あの時点でジュートが当主であったなら、戦争が長引いたなら、彼女と対峙する可能性もあった。

 今回は事実と正論を突きつけているだけであるものの、これに虚偽まで織り込まれるとあの時の私は果敢に判断を下せたかな?

 味方として出会えたのは間違いなく幸運だったのだろうね。


「なるほど、勉強になりますね」


 待って。

 オーレリアからこんな手紙をもらったら泣くよ?


 感心するオーレリアを止めたい気持ちはあったけれど、残念ながら制止の言葉は持たなかった。次期侯爵夫人となる彼女には必要な技能でもある。

 どこか喧嘩腰なのはともかく、表現をオブラートで何重にも包む文章はお母さまに通じるところもあった。オーレリアも将来的にはこういった文面を書くようになるのかもしれない。


「レティもアウローラ様から手ほどきを受けているのではないのですか?」

「そうだけど私の場合、喧嘩を売っているつもりなら買いますよってちょっぴり婉曲なお手紙を書くと、とっても素直な返答か、平謝りの返事が届くからあんまり必要としていないかな」

「ああ、やっぱり……」

「流石スカーレット、武力ほど分かりやすい説得力もありませんものね」


 分からない、或いは都合よく過小評価する者もいるから貴族社会は面倒なのだけれど。

 エルフも同じで、私達を消してしまえば万事が丸く収まると解釈するのだろうね。


 皇国でも似た状況になった。あの時は私が脅しの象徴になる事で収めたけれど、今回は私が南大陸へ常駐する訳にもいかないから影響力が残り辛い。転移鏡はあっても、奇跡じみていて理解を得られにくい。

 だから、獣人の勝利で終わらせる。

 寿命以外のエルフの優位性を全て剥ぎ取るのだと決めて、文書にサインするのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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