あくまで迎え撃つ側
ディルガームから僅か半日、私達はマルフットへ到着した。
フィルママンとはスピードが違う。反重力で浮かせた機体の位置エネルギーを一部推進力へ変換していただけだったから、自走するエアロリスとは初めから比べものにならない。何しろ、新システムの導入でウェルキンより速いくらい。
おまけに、空飛ぶ魔物を警戒しなくてもエアロリスの装甲を傷つけられるような魔物はいない。
実に快適な道程だった。
マルフットには、戦争へ参加する獣人が集まりつつある。
一か月と期限は切ったものの、即刻打ち切るような真似はしない。急な号令で戸惑いも大きかったろうし、真偽の確認に時間を取られた者、マルフットまでが遠い者もいる。だから戦争の準備を整えつつ、後続の到着を待つ。
「あ、このまま攻め込むんじゃなかったんですね」
キャシーが随分と好戦的な事を言う。オーレリアと一緒に行動して、彼女の悪いところがうつった?
「蛮族じゃないんだから、正当性もなく政権を奪取するような真似はしないよ。そのために、竜をあんなに狩ってきた訳だし」
「でも、コキオは問答無用で攻められましたよ?」
「だからこそ、だよ。エルフ達は自分達の信仰を絶対のものとして、技術的に優位にあるって思い上がりで侵攻してきた。だけど、私達は同じ舞台には上がらない。きちんと大義を主張して、交渉のテーブルへ着くよう呼びかけるよ」
私達目指すのはクーデターじゃない。正攻法を貫徹する。
武力による非合法な政権奪取は獣人達のためにならない。軍事政変は、同様の武装勢力によって倒される事が多い。非合法な手段を肯定してしまうから。
ヒエミ大陸にもシドって前例があった。
長く圧政を敷いていたエルフを排除する事で一時的に支持が得られるのは間違いない。けれど、それで生活環境が向上しなければ少なからず不満を覚える。
しかも、政治的な人材が不足している関係上、そうした事態は避けられない。政権交代後も、しばらくは混乱した状態が続く。広大な南大陸全体の不備を見直せる余裕もない。いつかは改善を目指すとしても、当面の我慢を強いる地域、種族は出てしまう。
そうなれば、新政権の打倒を目指す勢力が生まれても不思議はなかった。
新政権を見限って自分達がと改革を目指す。或いは不満をぶつけるだけ。エルフに代わって支配者になりたいって野心も考えられる。理由は何であれ、武装蜂起する事態は十分にあり得た。
クーデターって前例は、武力行使による解決の敷居を下げてしまう。
しっかり根回しする時間もなかったので、三日天下とまでは言わなくとも短期政権となってしまう可能性も高くなる。おまけに連合国全体を支配できる優秀な勢力が都合よく出てくる筈もないから、新政権の転覆後は国や種族単位に分かれて長く争う事態まで想像できた。
今回のエルフ打倒は獣人達のためってだけでなく、王国の都合も介在しているので、暗澹とした未来が確実なのに放置するような無責任な真似はできない。
せめて古来よりの慣習である選帝競儀に勝利して、政権交代の正当性を訴えておく必要があった。
少なくとも仕来たりに沿った統治者であったなら、多少の生活苦も仕方がないものとして辛抱させられる。安易に武力蜂起へ走るのではなく、不満があるなら次の選帝競儀で取って代わればいいと展望も持たせられる。
そうして稼いだ時間で、改革を着実に推し進めればいい。
だから、これからの戦争準備には政治的な側面も含まれる。
「でもお姉ちゃん、戦うためにあんなに大勢を集めたんでしょう? それなのに話し合いを目指すの?」
「うん。私達は選帝競儀の勝利を宣言するだけ。私達の戦果を覆す手段はないと突きつけて、統治権の移譲を要求する。こっちから喧嘩を吹っ掛けるような真似はしないよ」
「それだと、エルフの回答次第では戦争にならないって可能性もあるの?」
「残念ながら、それはあり得ませんわね」
うん、私も全力でジュートに同意する。
「建国以来君臨し続けた立場を、今更手放せる筈がありませんわ」
「けれどミラーブ侯爵、レティ様の成果は竜六十二匹ですよ? そんな怪物に勝ち目はないと為政者側が弱腰になる可能性もあるのでは?」
……キャシー、しれっと私を怪物扱いしてない?
およそ六分の一はオーレリアとジュートだよ。
「思い上がりは目を曇らせるものですわ。見下している無し人や獣人が成し遂げたなら、自分達も可能だろうと思い込むに決まっています。天子、天帝と言った強大戦力もいるそうですから、対抗は十分に可能と判断するでしょう」
「一部為政者が日和ったところで、国民感情が許さないだろうしね。彼等には正確な情報が届かない分、過去の栄光に固執する。多少冷静な政治家がいたところで、国民感情は無視できないよ」
こちらに根回しの余裕がなかったのと同様に、エルフにも意思統一の時間はない。肥大化し過ぎた自尊心が首を絞める。
そもそも選帝競儀の内容自体、軍事力に任せて絶対に勝てると彼等が設定したものだから、その上での敗北を受け入れられるとは思えなかった。敗北の事実をなかった事にするには、武力をもって私達を消すしかない。
私達はただ暴発するのを待てばいい。
挑発の意味でも、竜はユーシアメイル側に積んである。複数種族がマルフットに集っているのだから警戒のための監視くらいはある筈で、その目に現実を突きつける。選帝競儀の討伐証明は映写晶で十分なのだけれど、否定しようのない実物を提示しておいた。
マルフットの周辺は平野しかないので、牛人国や鹿人国からも確認できる。見て見ぬ振りをするのも難しかった。
「ところでスカーレット、ユーシアメイルへ送る文面、私に考えさせてもらえませんか?」
「いいけど、何か考えがあるの?」
「ええ、折角の機会ですもの。エルフが看過できないくらいに屈辱的な内容にしようではありませんか。先日シャハブに撃退されたブラヒムの失態を詳しくお知らせするのもいいかもしれませんわ」
そう言うジュートの口元は楽しそうに歪んでいる。帝国で頭の固い貴族を揶揄するために身に付けた技術かな?
私には定型文しか思いつけそうにないから、性格が悪そうに笑うジュートに任せる事にした。オーレリアにしろキャシーにしろ、そういった方面は苦手そうだし。
これも開戦に必須のプロセスだよね。
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