不本意な再会
オーレリア達と合流した私達はディルガームへ向かった。
竜を六匹追加して。
そんな予定はなかったのだけれど、改めて南大陸へ戻ると、ミクダードとは違う意味でオーレリアが竜の山へ興味を示した。
私も討伐してみたい、と。
ダンジョンに棲息していた岩石竜の特殊個体まで斬ったオーレリアにとって敵になる気はしないけど、考えてみると全属性コンプリート目指して竜を狩った事はなかった気がする。以前に竜を探した時は、討伐じゃなくて集めるのが目的だったし。
聖地周辺で竜を捜索すると、探すと言うより竜に囲まれる状況に陥るので個人的な討伐には向かない。王国へ戻ると剣より社交が忙しくなることもあり、折角の機会に腕を振るってもらう事にした。
それで増えた竜が六匹。オーレリアなら旋風竜に梃子摺る事はないとは思っていたものの、潜影竜まで仕留めたのは想定外だった。オーレリアの人間離れがますます加速している。
「影の内側に作った力場へ逃げ込んだ潜影竜って、物理で斬れるものだっけ?」
「確信があった訳ではありませんでしたけれど、最終的には気合いですね。無心で事に当たれば意外と何とかなるものだと思いました」
「いつから気合いって言葉が現実を凌駕するためのものになったんだろね……」
キャシーによると、これで凡人って自己評価だったらしいからどれだけ自信がないのか分からない。もっと褒めるようカミンに言っておこう。
ちなみに、オーレリアは煌剣を使わず潜影竜以外の討伐を成し遂げている。本人曰く、メドゥ沃龍討伐時に斬撃を繰り返した結果、剣に魔力を纏わせる事で煌剣に似た切れ味を再現できるようになったらしい。
おそらく、極限突破風刃魔法を自力習得したんだろうね。魔力が不足しないよう、斬りかかった瞬間だけ小規模に発動させている。
そのオーレリアはジュートと意気投合し、槍をイメージしながら拳を突き出す技を伝授していた。
騎士学校で教壇に立った成果か、ジュートの呑み込みが早いのか、彼女の攻撃力は目に見えて上がっていた。けれど、彼女は帝国へ帰ってそれをどう生かすつもりなんだろうね。
ディルガームへの寄り道は竜を届けるためとなる。
当初は解体を依頼するつもりだったけれど、今のあの国にそんな余力はない。だから、高級食材の差し入れが主な目的となる。美味しいものを食べて復興を頑張ってもらう。予定より竜が増えたし。
転移鏡は一定以上の大きさで作ると付与した魔法効果を失ってしまう。あくまで限定的な転移魔法で、制限があるのも仕方がない。その分、完全な転移魔法を実現する楽しみもあるのだけれど。
とは言え、そのせいで竜をコキオへ運んで解体するって訳にもいかない。
そこで、解体はマルフットに到着後に行う事となった。作業員が足りないならコキオから呼べばいい。
代わりに、新型魔法籠手の製造はコキオの工場で受け持つ。できるなら南大陸で広めるべきではない技術を取り入れてあるし、工場の設備も南ノースマークの方が整っていた。それに、魔法籠手なら何度かに分ければ転移鏡で運び込める。
子供のお世話もあるマーシャにそれらの責任者として残ってもらって、私達は南大陸での移動を続ける。エアロリスの試乗でもあるけど。
「うーん、それにしてもエアロリスでの移動は楽でいいね。くつろぐための空間が整っているし、本もあれば実験器具もそろっている。何より、運転しなくていいところが最っ高!」
「乗り心地を考えて設計しないからです。魔力の循環効率もイマイチでしたし、魔法で無理やり動かす構造でしたから操縦するレティ様の負担が大きくなって当然です」
手に入れられる素材で何とか組み上げたフィルママンだったけれど、キャシーにはすこぶる不評だった。もっと最適化できた筈だとお小言までもらってしまう。
そのあたり、どうも苦手なんだよね。
設計の過程で、動くならいいやと思ってしまう。
ちなみにそのフィルママン、エアロリスの後部格納庫に収納してある。もう乗る予定はないのだけれど、フェリリナちゃん達の教材になるからと持って帰ると言う話。
もしかして、不格好な設計例として吊し上げられる?
「フハハハハハハハ! 素晴らしい、素晴らしいぞ! 出仕を決めていきなりこんな仕事を任せてもらえるとは、技術者冥利に尽きる! 最高じゃ、最高じゃぞぉ‼」
そして、エアロリス後部の作業スペースではミクダードの声が響き渡っていた。ちょっと大きな工作を任せたのでやる気に満ちている。
竜の解体こそ後回しにこそなっているものの、魔法籠手の量産体制は整ったので獣人達へ支給する武器の見通しは立った。なので、次は私達用の武器の設計に移っていた。
私やオーレリアはともかく、キャシーやマーシャが怪我を追うような事態は許せない。
そこで、攻撃力に特化した武器と防御力に特化した鎧を作る事にした。武器は大量の魔力を消費するので私が担当。鎧は私のアイディアをキャシーが形にして、中枢部分をノーラが、装甲部分をミクダードが製作する。
「それにしても、流石スカーレット様ですわね。このような鎧? ……を作る事になるとは思いませんでした」
「そう? 発想の素はぱぺっ君だよ」
「ええ、鉱化スライム片を用いた基本設計が同じなのは認めます。でも、これを“ぱぺっ君”と呼んだらフェリちゃん泣きますよ」
それは困る。
きちんと別名称で登録しておかないといけない。
でも、キャシーに言わせるとそこまでかけ離れたものらしい。可愛らしい人形を、厳つい鎧へ置き換えただけなのだけれど。
それでも図面を引く手を止めないあたり、彼女もこの鎧を面白いと思っているのは間違いない。
運転の必要はなくなっても、何だかんだと忙しい移動の時間を過ごしていると、なんとなく見覚えのある物体が視界の端をよぎった。エアロリスの遥か下方、山の木々が途切れたあたりに転がっている。
「…………」
「スカーレット、あれ……」
「見なかった事にしてもいいかな?」
「気持ちは分かりますけれど、あれもまだ使い道がありますわよ?」
そうなんだよね。マルフットの伝手も使ってもらわないといけないし、ユーシアメイルのドワーフへ投降を呼びかけるなら確実にあれの協力が要る。
これからシャハブと合流しようって時に関わりたくないだけで……。
「レティのお知合いですか?」
視力も優れたオーレリアはエアロリスの小窓からでも倒れているのが人だと判別できたらしい。
危険地帯は抜けてもう少しでディルガームと言うところまでは辿り着けているけれど、あのまま放っておくとオークあたりに食べられる。ディルガームでは狩人も復興作業に集中して、魔物の間引きが滞っているだろうし。
「どんな関係かは聞いていませんけれど、ここで放置するのは後味が悪いのではありませんか?」
オーレリアの正論を聞いても、助けに降りようって気持ちが湧いてこない。
と言うか、良く生きていたよね。
死んでいたならそのまま忘れられたのに……。
「出会った頃のエノクを覚えてる?」
「…………」
類似例を出すと、一瞬で嫌そうな顔に変わった。私は付き合う距離を適度に見極められたけど、オーレリアとエノクの関係は修復できていない。彼女にとっては今でも、気持ち悪い態度で強引に求婚してきた面倒な相手でしかなかった。
「あんな風に中身のない美辞麗句でシャハブを褒め称え続ける人」
「それは、放っておきたい気持ちも分かりますね」
「きっと、シャハブ様にもう一度会うまでは死ねない、シャハブ様の活躍を一目見るまでは……なんてブツブツつぶやいているに決まっていますわ」
容易に想像できた。
その執念は大したものだと思うけれど、もう一度関わりたくはない。
「そんなに嫌なら、馬車だけでも降ろしてまた吊って行けばどうだい? 少なくとも視界に入る事も、妄言で集中力を乱される事もありませんぜ」
「「「それだ‼」」」
ミクダードの提案を採用して、とりあえずマルフットまでは吊り下げていく事に決めた。その後はユーシアメイルのドワーフのところへ調略に出してしまえば顔を合わせる時間は最低限で済む。
と言うかそんな提案が出るあたり、竜の棲息領域行きのミクダードもハイサムに煩わされていた?
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