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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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ミクダード・ハダード

 ディルガーム国主アウフ氏殺害から三日、私達はまだアスラン兄のお屋敷にいた。捜査はあまり進んでいない。


 と言うのも、犯人に該当する人間がいない。

 アスランさんが訪れた時点では生存が確認されており、彼の兄が死体を発見した……世間的には私達がって事になっているけれど。

 アスランさんが帰った後、片付けの時点で異常はなかったとされている。そこからアスラン兄来訪までの間に誰かが出入りした形跡がない。


 アウフ氏の死因は突き飛ばされて転倒した際に後頭部を強打したもので、自殺であったり一人で転んだりと言った可能性は残っていない。それなのに、侵入の手口はまるで明らかになっていなかった。


 捜査がそこで止まっている原因は、方針が統一されていない状況にある。

 アスラン兄は侵入者ありきで捜査するよう指示を出しているものの、反発する者、勝手に動く者、足を引っ張る者が多くいる。

 当然、この機会にアスランさんを国主へ推す一派である。


 それで私達への疑いが強まったかと言うと、実はそんな事にはならなかった。

 何故なら、アスランさん側は更に統制が取れていないから。


「当然だ。担ぎ上げられた人間が指示を出さず、どうして集団がまとまる?」


 実兄の辛辣な評価通り、組織として機能していない。ある者は私達へ罪を押し付けようと無理のある持論を展開し、ある者はアスラン兄を陥れて国主の座を空けさせようと証言の粗を探し、ある者は真実を明らかにしようと地道な調査を続ける。


 最後のパターンは、アスランさんが父親の死で塞ぎ込んでいなければそう動くだろうと想像できるから。

 彼を慕う人々の集まりなので、人助けを当然としてきた彼の活動に共感した者達はその理想を追う。ただし、今回に限ってはその行動が必ずしもいい方向に働いている訳ではなく、犯人転嫁派やアスラン兄否定派と衝突して内輪揉めや足の引っ張り合いを起こしてしまっている。

 彼等をまとめるべきアスランさんが動かないのだから、どうしてもこうなった。


 そんな中で、私はアスラン兄の証言を怪しんでいた。

 声真似のトリックには一定の説得力があるものの、あの時点でそれほど効果があるようには思えない。結果として私達が第一発見者となったから容疑が逸れただけで、最上階への出入りが記録に残っているのだから一時しのぎでしかなかった。

 時系列的には最後に生存が確認された後の訪問者であり、最も怪しい人物と言える。


 アスラン兄がアウフ氏を殺害して、死亡時間を誤魔化すために父親との会話を偽装した……そう考えた方が自然ではある。私達の保護も、寛容さを見せつける事で容疑が自分へ向かないように振る舞っているとも考えられる。

 けれど、証拠はなかった。


 匿ってもらっておきながら、確かな根拠もなく「貴方が犯人ですね?」と問い詰めるほど厚顔にはなれなかった。

 私はこの国の人間(とうじしゃ)でも探偵(せんもんか)でもないので、確証でも得られない限りは事件に関わろうとは思わない。一応容疑者である私が何か言ったところで聞く耳を持ってもらえるとは思わないし、火の粉が降りかかってくるようなら力尽くで振り払うってだけ。


 それで私が何をしているかと言うと、竜討伐で中断していた強化武器の設計を続けていた。この国を出れば竜討伐に集中する期間が続くので、滞在の延長はありがたかったくらい。

 事情が事情なので感謝はしないけど。


 外を出歩ける雰囲気でもないのでジュートは刺繍を、シャハブは本を読んで、ハイサムはそれを眺めて過ごしている。

 国を出て以来いろいろと不足を思い知ったのか、最近ではファイサルさんも本を読む時間が増えた。アスラン兄と議論を交わしている光景もよく見かける。アレを参考にしていいものか、割と極道ちっくな兎虎豚熊共栄圏には適当なのか、ちょっと判断は難しい。


「見ろ、十枚目ができたぞ!」


 それからもう一人。

 ハイサムが連れてきた人物が私へ鋼板を差し出す。付与魔法を施して魔道具の基板とするために用意したもので、ただの金属板へ魔力を融和させてある。


 ノーラほどしっかり品質を判断できる訳ではないものの、受け取った鋼板はよくできていた。何しろ、モヤモヤさん漏れがない。

 単純に魔力を流し込んだだけでこうはならない。私的には一定以上の圧力で魔力を飽和させる事で実現していた状態を、彼は技術で再現する。付与前の魔道具基板へ魔力を融和させる事自体は南大陸で一般的に行われているものの、ここまでの精度で定着させられるのは一部の職人だけらしい。


「ええ、見事です。ほとんど休んでいない筈なのに品質の低下が見られないのは流石ですね。このまま続けてください」

「ワシがやると言ったらやるのだ。品質など落とすものかよ。このまま百枚でも千枚でも作りきってみせるわ!」

「そうですか。しかし、三百日も待つつもりはありませんから、せいぜい頑張ってくださいね」

「ふん!」


 私の煽りに面白くなさそうな様子で顔を背けると、また作業に戻る。不満はありそうだったけれど、文句も罵声も言葉にしない。苦情は作品で示す、憤りは成果で見返すとでも言うように黙々と鋼板製作を続けていた。


 彼の名前はミクダード。

 ユーシアメイルで最高幹部を務めるほど優秀な一族の出身で、その腕はドワーフの中でも随一だと自称している。

 一族の長を炎錬卿と呼び、彼等の技術と研鑽がその人物へおもねるためのものへとなり下がる中、親類一同と縁を切って郊外で暮らしていたところをハイサムがスカウトしてきたらしい。


 親族とは絶縁してもドワーフの技術こそが最高のものだと疑わない自惚れは残しており、ここへ来た時点の態度は横柄そのものだった。余程上手く言いくるめられたらしいですが。けれど、魔法籠手の設計図を見て顔色が変わった。


 何しろ、南大陸の魔道具には分割付与どころか多重付与すら用いられていない。基板一つに付与する魔法は一つだけ。それを光送風布や水流管、幽雪草などと言った特殊な性質を持つ素材と組み合わせる事で魔道具として完成させる。

 鉱化スライム片――精霊石があった事も独自技術を発展させた。あれは機能の切り替えだけでなく、動作の制御にも応用できる。そのおかげで基板を複雑化させる事無く多くの魔道具を開発できた。

 それ自体はなかなか面白い発想ではあるものの、改良の余地がある事には違いない。


 私としても着想を刺激されて改良型の魔法籠手は原型からかなりかけ離れた武器になりつつあった。鉱化スライム片の使い方次第では、魔力だけでなく精神力すら魔法の威力向上に利用できそうな気がしている。


 そんな私の設計図を見たミクダード氏は食い入るように読み込んだ後、黙って鋼板の製作に取り掛かり、完成したそれを私へ突き出した。


「これを使えば更なる威力の向上が望めるぞ」


 純粋に完成度を高めたかったのか。自分の能力を示したかったのか。意図の説明はないままだから分からない。

 それでも、彼の提案が正しい事は知っていた。

 モヤモヤさん漏れがないくらいに安定させた物体があるなら、付与魔法の効果向上が見込める。基板の魔力抵抗も減って魔法発動へ回せる魔力が増える。


 これまでは私にしか実行できない特殊技能として使用を控えてきたものが、ミクダード氏の協力のおかげで採用可能となった。

 正直な話、魔力増幅の基板を追加した方が威力上昇を見込める程度の作用ではある。

 三日で十枚しか作れなかった通り、決して効率がいいとは言えない。


 それでも、私は彼のこだわりを否定する気はなかった。

 例えば、刀鍛冶師は折り返し鍛錬を行う事で粘り強く強靭な刀を打つと言う。熱した鋼を叩いて伸ばし、折り重ねて再び熱する工程を繰り返す。何度も叩く事で金属内に含まれる不純物を取り除き、含有する炭素濃度を均一化する。

 十回以上も繰り返してきたとされるこの大変な作業が、化学的には二回でほぼ仕上がっていたとの研究結果があった。

 けれど、私は長年続けられてきたこの技巧が無駄だったとは思わない。

 あくまで()()()()であって完璧じゃない。十回を超える折り返しが更なる均一化を生み、熟練の技が理屈を超えた積層構造を形作る。


 刃紋が美しければ愛着につながるし、気休め程度の性能差であっても命を預けるならその違いが明暗を分ける。

 効率化の観点から化学的考察は有用であるものの、職人の研鑽でしか辿り着けない領域はある。

 今回にしても、単純に魔力増幅の機構を追加するより耐久力向上が期待できた。連続使用の負荷にも耐えるかもしれない。安定して使い続けられるという安心が、使用者の心に余裕をもたらす事態は十分考えられた。

 熟練のドワーフが作ったってネームバリューだけでも需要を生む。


 もっとも、私の技術を認める、ドワーフの未熟を受け入れるなどの発言はないので、ギスギスしたやり取りを続ける他ないのだけれど。

 偏屈な職人の面倒なところではある。

 それでも、新しい協力者を得てエルフを打倒する準備は着々と進んでいた。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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