協力要請と意外な返答
素直に謝罪できる人間は信頼できる。
それがたとえ義務感からだったとしても、不満を顔に出さなかった時点できちんとした管理職なのだと思う。あの後、応接室へ場所を移したのも評価できた。
「改めまして、狩人協会支部長のサーリアと申します。あのような者を受付に配置したのはわたくしの責任です。重ね重ね、申し訳ありませんでした」
当然、他人事としても終わらせない。
「顔を上げてください。元々は買取金額をめぐる諍い、不当な金額で食材を騙し取られた後でもありませんから、それ以上の謝罪は不要です。勿論、明日以降も同じ事態が続く事がないよう願いますが」
「重々承知しております。今度こそ信頼できる者を配置しましょう」
買取窓口に限定するとは言っていない。次に不快な現場を見かければ、私へ被害がなくとも協会本部へ通達させてもらう。狩猟による供給は環境の影響を受けやすいので、不安定な生活を続けるここのような国は狩人協会との関係が切れると大変な事になる。
至上主義が協会内にどれだけ浸透しているかは知らないけれど、以降の人員整理が大変そうなのは察せられた。
言葉の裏を読めなさそうな人ではないので、余計な忠告までは口にしない。
国を跨いだ組織と言っても働いているのは現地人なので、有力者の紹介で簡単に解雇できない場合も珍しくない。今回の件にそれが当て嵌まるかどうかはともかく、組織改革に利用してほしいと思う。
「それで、オーク肉の買取は行なっていただけるのですか?」
「ええ、勿論ですとも。ご迷惑をおかけした分も、上乗せさせていただければと思います」
「そうですか。では、こちらもお願いしますね」
「……希少なものをありがとうございます」
取り出した鉱化スライム片は五個だけ。受付で並べていた分より少ない。
別に勿体ないと思った訳じゃない。サーリア支部長に恨みがある訳ではないけれど、この国の公共資源になると分かって大盤振る舞いする気にはなれなかった。
流石に、サーリアさんが不満を顔に出す事はない。試されているのだと分かっているだろうし、厚顔になれる立場にもない。
「私はこの国へ来て初めて知ったのですが、ああした振る舞いは多いのでしょうか?」
「そうですね……。わたくしが考えていた以上に広まっている様子です。言い訳する訳ではありませんが、皆様に迷惑をかけたビラールが特定の思想に傾倒しているとは今日まで知りませんでした」
「まあ、獅子獣人に対応する分には障害となる思想ではありませんからね。しかし、貴女の口ぶりからすると度々問題を起こしていたようでしたが?」
「お恥ずかしい話ですが、貢献の少ない狩人に対して高圧的な態度に出る事が何度か……。ほとんどの場合は熟練の狩人が諫めてくれるもので、わたくしも甘えておりました」
その理屈で言うなら、赤の狩人として知られる私も蔑視対象から外れる。不快な状況が連日続いた原因はこれかな。一見まともそうに見えるので、対策したつもりだったと。
「一部の人間がああ言った態度に出る原因は、選帝競儀の勝算があるからだと聞きました。本当に可能性のある話なのでしょうか?」
「まさか」
面会ついでの情報収集で噂の真偽を確かめてみたところ、思った以上に明確な否定が返ってきた。
宿の女将さん同様、手放しで受け入れられるような話でもないらしい。
「期間内に魔物から得た魔石の質と量を競う……との競儀内容、軍隊を持つこの国ならばエルフ族にも対抗できるとは言われています。しかし、そんなものは現実を知らない者達の世迷言です。装備も違う、兵の数も練度も違う。しかも、エルフ共はいくつもの基地を各所に構えているのです。そんな相手に、どうやって対抗すると言うのでしょう?」
「まあ、そうですよね」
冷静に敗因を挙げる彼女に、同意する事しかできない。
エルフを嫌っている様子ではあるものの、だからと無責任な希望は抱けない立場にある。
「狩人協会には様々な情報が集まります。エルフが討伐している魔物、ユーシアメイル軍の装備、そう言った根拠を示して職員達を説得してきたつもりでしたが、あんな者を出してしまって恥ずかしい限りです……」
少々ヒートアップしてきてはいるものの、この流れは私にとって都合がよかった。彼女はこの国の有力者、引き込んでおいて損はない。
「サーリア支部長が妄言主義者達を快く思っていないのは分かりました。では、エルフの打倒が確実であるなら協力いただけますか?」
狐人の国からは山二つを迂回する必要があるので、協力要請はまだ届いていない。大言壮語にしか聞こえなかったであろう私の提案に、サーリア支部長は目を細めた。
なお、種族間の協調を目的とする狩人協会を武装蜂起に巻き込んでいいのか、と言う問題は発生しない。
統治すれども管理しないエルフ達の怠慢の結果、魔物や食料不足と言った脅威から獣人達を守る目的で発足した互助組織なので、エルフもドワーフも、ついでにユーシアメイルに隣接した六か国も加盟していない。
今回の挙兵は獣人達へ不利益をもたらす脅威を排除するためのものなので、狩人協会の規定に即しているとも拡大解釈できた。
「大変魅力的なお話ですが、根拠がなければ夢物語と変わりがありません。わたくしを納得させられるだけの交渉材料はお持ちですか?」
当然ながら、彼女は簡単に信用してくれない。
強力な魔物を次々と討伐する赤の狩人の噂は聞こえていても、エルフ全体を敵に回すとなれば話は変わってくる。
通常、クーデターを成功させるのに必要なのは個人の武勇より兵の数なので、何の後ろ盾もない筈の無し人を警戒するのは間違っていない。
「根拠、ですか。……こちらで如何でしょう?」
「――‼」
そのくらいの流れは想定している。コートスォロの件みたいに武力を示した訳でもないのに、彼女の信用が得られるとも思っていない。
あらかじめ用意しておいた説得材料を私が取り出すと、冷静であろうとしていた筈のサーリアさんの目が大きく見開かれた。
一方は竜の魔石。
ヒュウガライツで見せつけたのと同じもので、異論を掻き消せるだけの迫力がある。南大陸で討伐した訳じゃないので、他の素材も見せてくれと言われると困るけど。
それを言わせないための後押しがもう一つ、アル・サウル基地の部隊証だった。司令部に掲げてあったものを剥がしてきてある。当然、基地を落としでもしなければ手に入らない。
ちなみに、各狩人協会支部へ伝令に走る狐人にも、これらを映写晶に撮って持たせてある。ついでに、深く沈めたアル・サウル基地の映像も写していくって話だったから、訪問先の説得には困らないと思う。
「ここにいる三人ともう一人の協力者で、既にアル・サウル基地は落としました。選帝競儀で勝利を得るためにこれから竜を討伐後、マルフットまでの道中にある基地も落としていくつもりです」
戦力として必要だったかどうかはともかく、ここでファイサルさんを省くような真似はしない。協力者には違いないから、功績はしっかり宣伝しておく。
彼には新政府を叱咤する監督役が相応しいんじゃないかって期待しているし。
「決して実現不可能な絵空事でないとご理解いただけましたか?」
「は、はい。失礼いたしました。疑ってかかったことを謝罪します……」
これだけ突き付けて、反論なんて出よう筈もない。
けれど、希望を知って表情が晴れるような雰囲気でもない事は気になった。
「改めてお聞きします。この条件なら協力いただけますか?」
「すみません。その質問にお答えする前に確認させていただきたいのですが、この獅子国が軍隊を派遣して勝利に貢献した場合、新政府の指導者はわたくし達獅子人に任せてもらえるのでしょうか?」
「そこはまだ決まっていません。幸い種族単位での統治が確立していますので、大陸全体の変革を急ぐのではなく、暫定政府を樹立して徐々に体制を変えていくべきかと思っています」
「暫定政府……つまり、指導者もその選定方法も成り行き次第だと?」
「そうですね。ほとんど政治に関わってこなかった獣人達から、連合国全体を任せられる人物がいきなり現れるとも思えません。まずは経験を積むところからでしょうね」
現統治者が消えたところで、獣人達にはプラスにしか働かないのは本当に都合が良かった。そうして時間を稼いでいる間に、王国の意向も介入させながら新しい国を造ればいい。最悪、今の統治形態のまま独立させる事も考えている。
どんなに獅子人が活躍しても、私がいる時点で協力者の一部でしかないのだから、殊更優遇するつもりはない。
「そうですか……。そう言ったお話なら、お力になる事はできないと思います」
「え?」
意外だった。
この展開は想定になかった。
確実に同意を得られると思っていたので、バツが悪そうな様子で伝えられたサーリア支部長の回答に、私は次の言葉が発せられないのだった。
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