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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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閑話 ノーラの慟哭

今回はレティが消えた後の王国について、ノーラに語ってもらいたいと思います。

 スカーレット・ノースマーク伯爵消失。

 今、王国では誰もがこの事件に注目してします。


 戦争の方針について話し合うため、大勢の貴族が集った場所で姿を消したものですから事実を隠せませんし、情報の漏洩を防ぐ事もできませんでした。

 当然、緘口令は敷かれました。

 王国の最大戦力、様々な形で各国へ影響力を持つスカーレット様が不在となれば、国内外でよからぬ企みも動きます。戦時下ですから民心への影響も無視できません。ディーデリック陛下は不用意に情報を漏らさないよう口外禁止を命じられたのです。けれど、それで秘密が保たれる事はありませんでした。


 人間、誰かと秘密を分かち合いたいという感情は湧いてしまいます。

 信頼できる人物と語り合いたい。自分の心内を誰かに聞いてほしい。衝撃の瞬間を目撃したことを誰かに自慢したい。

 どれも自然な欲求です。

 しかも、それが()()ともなれば、猶更口は軽くなると言うものです。


 神様の(いざな)い。


 数々の功績を上げた偉人や何度も人々を救い続けてきた勇者が、ある日突然神様の御許に招かれる――歴史を振り返れば、そうした逸話がいくつか確認できるのです。迷信の類ではなく、実際にあった出来事としてきちんと記録されています。

 初代国王がこれで雲上世界に向かったとされている以上、この国で吉兆の否定はできません。


「いつかこんな日が来ると思っていた!」

「どれだけの功績があると思っている? 神様だって驚いたに違いない」

「いや、本当におめでたい」

「最後は何が決め手になったのだろうな?」

「スカーレット様万歳! 奇跡の魔導士様に感謝を!」


 ……と、庶民の間では既にお祭り騒ぎです。神様に認められるほどの人物が傍にいた事、彼等はそれだけで誇らしいのでしょう。

 そして、これを否定する事実をわたくし達は持ちませんでした。


 最大級の栄誉を前に、貴族だって似た反応です。

 一度秘密が漏れてしまえば、もう歯止めは利きません。神事が起きた事を記念して彫像を建立するべきだと誰かが言い、スカーレット様が活躍した場所が多い事からどこへ祀るべきかと真剣に議論が交わされています。伝記にまとめなければならない、式典を執り行うべきだ、神様に招かれた者の爵位が伯爵のままでは格好がつかないから陞爵させなければと、戦時下である事も忘れて検討しているほどです。


 そうかと思えば真逆の行動をとる勢力が出るのが貴族で、スカーレット様は神様に招かれたのではなく、戦争を恐れて逃げ出したのだと非難する者達もいました。

 曰く、国内が一丸とならなければならない時に行方を晦ますなど貴族の資質に欠ける。即刻領地を明け渡すべきだ、と。

 要するに、この混乱に乗じて南ノースマークを手に入れておきたいのでしょう。


 スカーレット様が消えて十日余り、今日もわたくし達は主のいない領主邸へ集まります。


「今日も砲撃があったと聞きました。スカーレット様がいない状況で、あの方の民が傷つく事態にはなっていませんか?」

「それは大丈夫ですよ、ノーラ。初見時に展開速度で負けこそしましたが、レティの障壁は弾道を集中させるくらいで破れはしません。南ノースマークの皆さんは今日も無事です」

「身体的には……、身体的にはそうですけれど、精神的な負担は大きくなっているように思います。魔法障壁を突破されるような事態にはなっていないと言っても、敵船が常駐し、砲撃を繰り返しているのです。どうしても不安は消えません。鬱屈とした空気が蔓延してしまう前に、対策は考えておくべきでしょう」

「本来なら、領都内は絶対に安全であると宣言するべきなんですけどね……」


 キャシー様はそう言いますが、それが最も難しい状況です。

 彼等が信頼するスカーレット様の言葉でなければ、本当の意味で不安は払拭できません。


 一週間前、尋問によって存在が知らされていた後続部隊がコキオ沖に到達しました。王都方面へ向かう筈だった一部も合流した様子です。先遣隊が行方不明である事に警戒は抱いたようですが、目標であるキミア巨樹を奪取するために作戦行動を続けています。

 守りは十分であっても、スカーレット様のように巨樹に命じて捕縛させるなんて真似は不可能です。わたくし達は防衛に徹するのが精一杯でした。


 並外れた射出速度と射程を持った武器を前に、攻撃に転じる隙は与えてもらえていません。救援に来た王国軍が攻略を試みましたが、高速艇八隻、飛行列車一両が撃墜されるに至り、有用な結果は勝ち取れませんでした。

 だからと言って、ただ防衛に徹するわたくし達でもありません。


「キャシー様、魔法籠手の改造はどの程度かかりそうですか?」

「あと……、二日。明後日にはあいつ等をまとめて焼き払ってあげますよ!」


 わたくしが今回キャシー様に依頼したのが、墳炎龍素材を用いた特殊魔法籠手の改造です。開発したまではいいものの、威力が高すぎて射手まで危険に晒す魔道具を対エルフ船用武器にと生まれ変わらせるつもりです。

 あれなら、射程の不利を覆せるでしょう。


「マーシャ様、奪取した電磁加速砲はどうなっていますか?」

「今日で……、今日で四門すべての修理が完了しました。しかし、よろしいのですか? 南ノースマークで運用するのではなく、王国軍に引き渡してしまって……」

「仕方がありません。わたくし達では有効な活用方法を思いつけませんわ」

「こちらに敵の注意を惹きつけておくことも大事ですが、連中を攻略しなければ膠着状態が続くばかりです。現在王国軍で、ぱぺっ君を用いた強襲作戦を計画中だそうですから、お父様ならその戦略に敵兵器をうまく組み込んでくれると思います」


 かなり強引な手段で船ごと奪取したせいで、ほとんどが使用不能になってしまった事が悔やまれます。砲塔部分、弾丸、動力部、いずれも相当に緻密な調整を必要とするため、簡単な修理しか行えないのです。


「スカーレット様の行方について、何か有力な情報はありますか?」

「「「………………」」」


 最も欲している情報については、今日も沈黙しか返りません。

 そんな吉報が入っていたなら、何よりも優先して話題に挙げていた筈ですから形式的な確認でしかなかったのですが……。


 現状、南ノースマーク伯爵領は王国の直轄管理下にあります。

 領主が不在でもベネット様達で代行できていたこれまでとは違い、連絡を取る手段すら存在しない状況では統治可能と判断してもらえません。あくまでここはスカーレット様が納める土地ですから、当主の帰還が不透明な状況では権限を国へ返還せざるを得ませんでした。


「で、そのウォズは今日も?」

「はい、キャシー様。スカーレット様の情報を得るため、小国家群を順番に巡っているそうです」


 そして領主不在の今、南ノースマークの臨時管理官として任命されたのがウォズ様でした。

 スカーレット様の婚約者だからと選ばれた訳ではありません。あくまで婚約者、未婚状態で領地を継ぐような権限はないのです。


 けれど、今のウォズ様は南ノースマークでスカーレット様が生み出した技術を各地へ普及させる“新技術運用提唱官”です。徐爵の際、爵位に紐づく官位として正式に辞令も出ています。

 新技術を普及させることを目的とした技官なら、非常時の領地管理もその役目の範疇だろうと、ディーデリック陛下が任じてくださいました。当然、身内が管理することに反発する声も上がりましたが、これも陛下が抑えてくださっています。

 あくまで臨時管理、スカーレット様は戻らないのだと判断せざるを得なくなる一年に限定したものではありますが。


「目撃情報はないかと書面で打診して、その上で更に直接話を聞きに行く訳ですよね? 毎日毎日何人ものお偉いさんと面会する訳で……、大変ですね」

「書面だけだとどれほどの協力を得られるか分からないとのお話でしたから、仕方がありません。協力をお願いするのだからと、心付けも身銭を切っているそうですから、かなり無理をしているのでしょうね」

「とても……、とてもじっとしていられない様子でしたから……」


 帝国、皇国はそれぞれにこの事態を重く見て動いてくれているそうですから、今は小国家群で情報収集するしかありません。ビーゲール商会の情報網も使って、東西の大陸での捜索も依頼しているそうです。

 それだけしても、何の情報も入っていません。

 本当に消えてしまったのではないかと思ってしまうくらい、忽然と消息を絶ってしまわれているのです。


 それを、おめでたい事だとはどうしても思えませんでした――


 だって、もしもスカーレット様が神様の許へ行ってしまわれたのだとしたら、それはもう会えなくなってしまう事と同義です。

 こうしてわたくし達とテーブルを囲むことも……、

 他愛のない世間話で盛り上がる事も……、

 スカーレット様の思い付きを真剣に議論し始めることも……、

 うっかり領地へ帰るのを忘れて夜を明かしてしまう事も……、

 脳神経が焼ききれると思うくらい魔眼を酷使して、それでも後悔がないほどの充足感を得ることも、もうないのだと思うと胸が張り裂けてしまいそうです……!


「お願いします。どうか無事に戻ってきてくださいませ……」


 意図せず胸の内の言葉がこぼれてしまっても、誰も何も言いません。

 言葉にしたところで叶わないと知っているだけで、きっと想いはみんな同じだからでしょう。


 不在のウォズ様に代わって領地を支えようとこうして集まっていても、スカーレット様がいないだけで精彩を欠いてしまっています。

 常にスカーレット様が起点となって何かが始まっていた訳ではありませんが、切っ掛けを作っていたのはやはりあの方だったように思います。スカーレット様の突飛な発想が、わたくし達には必要なのです。

 実際、この南ノースマークを守るための何かを造らなければと思っていても、具体的な着想が湧いてこないのです。


 それでもここへ来るのをやめられないのは、もしかするとウォズ様が何か情報を得ているのではないかと期待を抱いてしまうから。

 スカーレット様なら、何事もなかったようにある日ひょっこり戻ってくるのではないかと、領地で仕事をしていても気がそぞろになってしまうから。

 せめて誰も諦めていないのだと確認しておかないと、不安に押し潰されそうだから……。


 普段はあれだけ頼りにしている魔眼も、スカーレット様の行方については何も教えてくれません。

 スカーレット様が消えた瞬間も、それまであの方が立っていた場所も、控室に残った所持品も、あの方の行き先についての情報を示してはくれませんでした。

 もしかしてと、僅かな可能性に縋って訪ねた聖地デルヌーベンでも、何の手掛かりも得られませんでした。


 本当に、こんな日々がこれからも続いてしまうのでしょうか……?

 別にオーレリア様達との関係が変わった訳ではありません。それでも、いつものように会話が弾まないのは何故でしょう?

 比喩でもなんでもなく、いつも眩しいと思っていたスカーレット様の魔力を目にする事はもうないのでしょうか?

 スカーレット様の思い付きに突き動かされ、誰に強制される事無く全力で目標へ向かって突き進んだ日々は、もう戻ってこないのでしょうか?


 お願いします。

 スカーレット様を返してください。

 多くの人がそれを望んでいます。

 本当にただの祝事だと思っているなら、技官の役職を拡大解釈してまで領地の管理を任せたのに、その当人へ国外を飛び回る許可を陛下が出す筈もありません。

 帝国のアモントン公爵も、皇国のフェアライナ皇女も、スカーレット様の身を案じているから捜索に協力くださっているのです。いなくなって良かった。神様の御許へ招かれて素晴らしいと考える方ばかりではないのです。


 カミン様は茫然自失で、オーレリア様の前で気丈に振る舞う事すらできなかったと聞いています。大切なお姉様にもう会えないかもしれないと、ヴァン様は毎日泣いているそうです。

 そんな事、スカーレット様が望むとも思えません。

 神様の誘いとは、当人の意思を無視してまで行われるものなのでしょうか?


 あんな唐突な別れ、戸惑いしか見て取れなかったスカーレット様が望んだとは思えません。

 わたくし達との永遠の別れを受け入れてまで、スカーレット様が望まれたとも考えたくありません。

 わたくし達でも心に穴が開いたような喪失感に苛まれているのに、あの心優しいスカーレット様が進んで別れを受け入れるなどある訳がないではありませんか……!


 ですから神様、どうかスカーレット様をお返しください。

 お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします。お願いします……、どうかスカーレット様を返してください!


 不敬だと思われるなら、わたくしに罰を下してくださって構いません。スカーレット様を返していただけるなら、いかなる代償であろうと支払ってみせましょう。

 どんな責め苦であろうと、今の空虚さより心が痛い筈もありません。


 わたくしには、わたくし達にはスカーレット様が必要なのです。

 これまでのスカーレット様の功績をお認めになられたと言うのなら、スカーレット様を戻してくださればもっと凄い偉業を一丸となって成し遂げてみせます。天上に轟かんばかりの名声をも上げてみせます。どんな奇跡も起こしてみせましょう。

 スカーレット様と共にいられるならば、不可能などあろう筈もありません。


 ですからどうか……、どうかお願いします。

 わたくし達は、もっとスカーレット様と共に生きていきたいのです……!

いつもお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
ここまで大事になってしまったら戻った暁には 勇者召喚されました と正直に答えるしかありませんな
そのうちウォズは手がかり…手がかり?にたどり着くと思うけど、被召喚者はもっといるのかな…
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