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大魔導士と呼ばれた侯爵令嬢 世界が汚いので掃除していただけなんですけど… 【書籍&コミックス1~2巻発売中!】   作者: K1you
消えた大魔導士編

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四種族共栄圏

 熊人の国ヒュウガライツまでもう少しと迫った時だった。具体的には今いる国を超え、街道を更に進んでいけば目的地へ辿り着く。

 二、三日の休息を必要とするとは言え、シャハブの足ならもう一日走れば到着する。


 このあたりまで来ると路面もしっかり整備されていて、行き来する馬車も多かった。このあたりでは各国が交易して独自文化圏を築いているらしい。

 君臨すれども統治せず……って訳でもないのだろうけれど、政治を牛耳っているエルフ達は地方へ目を向けない。文化圏は自分達側にだけあればいいもので、十分に税金が納められているなら一切関知せず、どういった国を作ろうと自由なのだとか。

 実際、種族によって習性や因習が大きく異なるので管理自体が難しい面もあった。


 そうして課すエルフ達の税率は厳しいもので、支払いが滞った場合には武力を投入し、取り立てに来る。その戦力はどの獣人族であっても決して敵うものではなく、権力と武力を握られて、歯向かえる道理もない。

 私が召喚された猫人の国のように、多くは厳しい人頭税を支払いながら貧しい生活を余儀なくされていた。

 けれど、より効率的な集金を目的として、国家形態を変革させた者達もいる。先日の混成国家がいい例で、他にも他種族同士が合同で産業を立ち上げたり、有用な不思議植物の栽培に投資したりしているのだと言う。


 この周辺の文化圏もそうして発生した一つで、熊人、虎人、豚人、兎人の四種族が強固な結びつきを形成した。

 互いが得意な産業で支援し、強力な魔物や災害に対しては一丸となって対処する。街道を整備して行き来を容易にし、新聞と言う形で国家間の情報も素早く届けて共有する。そのための識字率も向上させていた。熊人国の中の虎村、兎人国の中の豚村といったふうに特別区を設け、互いの文化差についても理解を深めているのだとか。

 北側大陸の常識としては珍しくないものの、共栄を種族の壁が妨げてきた歴史があった。食性が異なり、寿命や魔力量に差がある中で完全な信用は難しい。弱者側は強者側の横暴を常に警戒し、強者側はどうして従わないのかと不信を持つ。それを打開し、一大文明圏を築き上げたからこそ、エルフ打倒もささやかれるようになっている。


「召喚された勇者は女性、それも相当な強さを持つ……。間違いないのですね?」


 そうした共栄圏の一つである兎人の国に入ったからか、召喚者の情報が入ってくるようになった。

 既に召喚されていた事実はショックではあるものの、少なくとも意思を封じられているような様子はなくて安心した。


「おうよ! なんでも、ロックパイソンを一撃のもとに討伐したらしい。頼もしいったらないもんだ」

「それも選帝競儀の点数に加えられるのですか?」

「おう! さっすが赤の狩人殿、競儀の詳細まで把握されているか」

「こちらのシャハブが生まれ故郷のためにと頑張ってくれていますので」

「そうか。声の幼さにゃあ驚いたが、立派な獅子人さんだけあっててぇしたもんだ、がっはっは……‼」


 シャハブの討伐分は猫人の国のものとしてカウントされているけれど、私の討伐分は宙に浮いている。狩人ギルドがきっちり記録を残しているのでなかったことになるような事態はないけれど、今後の扱いについては保留してあった。

 なお、シャハブは疾走に集中しているので移動時の討伐数は私の方が多い。


 特段隠すつもりはないらしく、私が召喚者だろうと察した上で情報を流しているのはタリクさん。国長(くにちょう)を務める大柄な人物だった。平均身長一一〇センチ程度の小柄種の中で一六〇センチを超えるとなると相当に大きい。ついでに態度と声も。


 ここは国で一番の屋敷で、茅ぶき屋根で派手さはないけど壁はレンガ造りでどっしりとしている。

 どうしてそんな場所に招かれたのかと言えば、入国前に盗賊の襲撃を受けていた商隊を助けたのが切っ掛けだった。経緯を町に報告する必要があると走っていった商人の一人を待っていると、連れられてやってきたのがこの人だった。

 例によって首だけ残して埋められていた盗賊達はタリク国長の身の丈を超える巨大ハンマーで潰され、絶命した。この国が、引いては四種族共栄圏が舐められるような事があってはならない。血の契りを交わした四種族の人間を襲えばどうなるか、見せしめの意味もあったらしい。


 ……そう、血の契り。


 互いを決して裏切らず、互いが流す血を己のものとして怒り、悲しみ、原因となった敵、或いは環境の排除に死力を尽くす。一人の敵は全員の敵であり、誰かが悩めば全員で解決を目指す。契約のもとに上下関係は発生せず、恩には報いる気概が必要でも、借りを気負う必要はない。そんな気遣いは笑って流すのが彼等の義侠だと言う。

 この盟約は絶対で、命尽きる時はその後継が必ず義務を引き継ぐと終わらない約定を結んである。

 契約を交わしたのは四人の国長であっても、その傘下に名を連ねる国民全員が盟約の庇護者として産業を支えている。

 なお、国民は血判で庇護下に入ることを示すらしい。これがそのまま、住民票として扱われる。


 これまでに聞き集めてきた情報で、知的に共存共栄を目指しているのかと勝手に思っていたら、とっても極道な結びつきだった。

 種族の壁を超えるには、このくらいの思い切りが必要だったのかもしれないけれど。


「ロックパイソンはこのあたりによく出没を?」

「うーん、あまり多いとは言えんが、厄介な魔物ではある。なにしろ、あいつ等のかったい鱗ときたら、あっしのハンマーの一撃も防ぎおるからの。それが容易に討伐可能と聞けば、これは明るい話じゃあ!」

「私が知る冒険者も、装備次第では撤退を選択すると聞きますからね」

「逆を言えば装備次第で討伐は可能っちゅう事じゃろう? 剛毅な話じゃの」


 そう語るタリク氏の身体にはあちこち切り傷が刻まれていた。慣れた様子で巨大ハンマーを取り回していた様子と言い、国民を庇護する者として前線に立っているのだと思う。この世界の人間社会において何より優先されるべきは安全圏の確保で、極端な話、他の業務は誰かに任せてもいい。

 王国でだって貴族が後方でふんぞり返っていられるようになったのは近年の話で、騎士を率いて魔物を討伐し、戦となれば共に突撃するのが自然な姿だった。今でも学院の講義に騎士教練が入っているのはそういった歴史の名残でもある。


 だから、タリク氏が好んで戦場に立つのも荒くれ者だって理由だけじゃない。

 発展途上の文明圏では、武威を示すことが国民に安心を与える。

 盗賊の一報を聞いて処刑のために駆け付けたのも、盗賊への警告であると同時に、民へ安寧を示す意味もあったのだと思う。

 もっとも、着流しのまま返り血も碌に拭き取らず客を迎えている様子はどうかと思う。彼は可愛い兎人などではなく、泣く子を更に大泣きさせる任侠兎である。兎人でこれなら、熊人の国長はどんな強面だろうと、向かうのが憂鬱になった。

 あと、どうでもいいけど“国長(くにちょう)”って呼び方が、“組長”と言っているようにしか聞こえなくて困る。


「なんでも、勇者様は強力な魔物の討伐に進んで協力してくれているらしい。競儀についても勿論じゃが、このあたりの魔物が大人しくなるだけでも助かるってもんじゃ」

「私でも面会は可能なものでしょうか?」

「知己かもしれんて話か? まあ、閉じ込めとるなんて話は聞かんし、熊モンのファイサルがそんな真似をするとも思えん。会いたいなら行ってみればいいんじゃねぇかい?」


 熊モン……。

 共栄圏内では互いの種族の事を親しみを込めて“〇〇者”、それがなまって“〇〇モン”と呼ぶ。間違っても熊本県のご当地キャラクターじゃない。そして、ゆるキャラみたいな愛嬌を熊人達の大親分に求めてはいけない。


「その結果、その女性を私が連れ去る事になったとしても、ですか?」

「そこは微妙なところじゃの。あっし等も、召喚陣で強制的に喚び寄せたっちゅう負い目がある。国へ帰る意思までは否定できん。じゃが、何の成果も示さず、ファイサルの意向に反して連れ去るなら、あっし等と敵対する覚悟は固めておいた方が良かろう……」

「ええ、それは勿論」

「………………」

「………………」

「……ええと、お姉ちゃん?」


 しばらく私とタリクさんとの間で睨み合いが続く。様子を窺っていたシャハブが不安を覚えるほどだったようだけど、ロックパイソンの討伐で一喜一憂する程度ならグリットさんと相対するほどの迫力もない。


「失礼します、お料理をお持ちいたしました」


 そうこう探り合いを続けていると、華やかな着物……に近い格好をした女給さん達が入ってきた。いざこざには慣れているのか、私とタリクさんの様子など気にもしない。


「これは……?」

「おう。お前さん達が助けたマデイラ紹介のモン達がお礼にと寄こしたもんじゃあ。知人が攫われたかもしれん状況で冷静になれっちゅうんも無理な話かもしれんが、こうして綺麗どころも集まってくれたようじゃし、角突き合わせるのは後にしてこいつで乾杯せんか?」


 共栄圏と対立するかもしれない未来と、商隊を助けた恩は別の話らしい。そうした使い分けは嫌いじゃない。

 それと、ズボンを履いているとはいえ着物姿の女性達には色気があった。動きに少し()()を作っている様子が、美しさを強調している。国長の屋敷に呼ばれるくらいだから、その道のプロなのだと思う。私へ向けてはいやらしさを控えめに、シャハブへは軽めくらいなのだろうけれど、彼は既に真っ赤になっていた。


 お酒はともかく、こうした席で食事を楽しむのも悪くない。王国にはない文化だし、タリクさんは豪快に酒瓶を傾けている事だし、召喚者については脇に置いておいて、情報収集に徹する事にした。

いつもお読みいただきありがとうございます。

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