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第065話:妹たちの結託と、忍び寄る足音

六月も中旬に差し掛かり、俺は中学校での退屈な昼休みを過ごしていた。


山高という進学校で『白いディスク』の罠が確実に優等生たちを蝕んでいる裏側で、俺の属しているこの第一中学校の時間は、ひどく平和で単調なものだった。


渡り廊下を抜け、一年生のフロアを通りかかった時だった。

ふと、開け放たれた教室の窓から、聞き慣れた生意気な声が飛び込んできた。


「……でさ、うちの兄貴、ピアノ教室辞めてからずっと様子がおかしいの。土日になるといつもコソコソ出かけてるし、部屋ではパソコンに変な機械を繋いでいじってるんだよね」


春に一中に入学してきたばかりの妹、さやだった。


俺は廊下の死角で足を止め、気配を消した。

さやの向かいの席で弁当を広げているのは、大人しそうなショートヘアの女子生徒だった。顔立ちに、どこか見覚えがある。


「うちの優等生のお姉ちゃんも、最近土日は絶対に家にいないの。この前なんか、自室でベース? みたいなでっかいギターを、アンプも繋がずにすっごい怖い顔して弾いてて……お父さんも戸惑ってたし」


智美。……智ちゃんの妹か。

彼女が今年、さやと同じ一中に入学してきたことは知っていた。だが、まさかさやと同じクラスで、ここまで意気投合しているとは完全に想定外だった。


さやが、持ち前の野次馬根性を発動させて目を輝かせる。


「ちょっと待って。智美ちゃんのお姉ちゃんって、山高の軽音部だよね? うちの兄貴も、土日はいつも山高の先輩たちとつるんでるの。……これ、絶対裏で一緒に何かやってるよ!」


智美は少しおどおどしながらも、「お姉ちゃんが不良の人たちと付き合ってたらどうしよう……」と不安げに頷いている。


「決まりだね。今度の週末、兄貴の後をつけて、どこに行ってるのか突き止めようよ!」


さやが、得意げに箸を振り回して宣言した。


俺は廊下の壁に背中を預け、音を立てないように深く、重い溜息を吐き出した。


(……まずいな)


これまで俺は、親父や教師たちの監視を「学年トップの成績」という結果によって完全にコントロールしてきた。大人は、数字と実績さえ与えておけば簡単に納得させられる。


だが、さやたちにはその「大人の論理」が一切通じない。

最も身近で、好奇心のままに動く厄介なイレギュラー――妹たちの結託によって、俺たちの秘密基地が親バレの危機に晒されようとしていた。


もし親父に、俺が不良たちと休日に引きこもってロックを鳴らしていることがバレれば、俺の「優等生」という偽装は完全に崩壊する。

楽器は取り上げられ、俺の時間は学習塾の無機質なデスクへと監禁される。来年、山高の制服を手に入れて表舞台に出るという俺の計画も、根底から覆されてしまう。


ましてや、週末の蔵には、自らのベースの居場所を守るために覚醒し始めた智ちゃんや、飢餓感を漲らせる薫たちがいる。あんな殺気立った空間に、この二人の小動物を迷い込ませるわけにはいかない。


「……ダミーの予定でも組むか」


俺は小さく呟き、教室から離れるように歩き出した。


週末の土曜日までに、妹たちの尾行を躱すか、あるいは「無害で教育的な音楽活動をしている」と完全に錯覚させるシナリオを用意しなければならない。


山高のエリートたちを操るのとは次元が違う、最も身近で泥臭い防衛戦の幕が、静かに上がろうとしていた。


これもまた、音楽革命の試練の一つだ。

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クソ生意気なメスガキはわからせないと(違)
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