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第052話:未知の衝撃と、噂の正体

「……先輩たち、何かいいことでもあったんですか」


四月下旬。

週末の土曜日、博士の実家の裏手にある土蔵に集まったメンバーたちを見て、俺は静かにため息をついた。


薫、勝、博士の三人は、やけに身だしなみに気を使い、制服の着こなしもどこか浮ついている。勝に至っては、意味もなくギターのボディを磨きながら、だらしない笑みを浮かべていた。


その一方で、キーボードの前に座る智ちゃんは、腕を深く組んだまま、あからさまに不機嫌なオーラを放っている。


「アキラくん、聞いてよ」


智ちゃんが、親の仇でも見るような目で三人を見据えながら口を開いた。


「この人たち、山高の軽音部で初日からやらかしたの。部室に入った途端、いきなりアンプをフルテンにして『センコー』をぶっ放したのよ。もう、中学校の備品倉庫とまったく同じノリで」


俺は眉間を揉んだ。


「……先輩たち。新しい曲の練習をしておけとは言いましたが、初日からいきなり暴れろとは言っていませんよ」


「仕方ねえだろ!」


薫が慌てたように身を乗り出す。


「お前がいないから、ボリュームの加減がわからなかったんだよ! あんな狭い部室で、アンプ絞ってチマチマ弾いてられるか」


「で、退部になったんですか」


俺が冷たく尋ねると、勝が自慢げに鼻を鳴らした。


「それがよ。同室にいた一年ども、最初はポカンとしてたんだが……そのうち『何だか分かんねえけど、すげえ』って顔で、完全に音に飲み込まれて釘付けになってよ」


博士がケラケラと笑いながら身を乗り出す。


「そしたら今度は、様子を見に来てた二年生の女子たちが、いきなり『待って、これ噂のブラック・アルバムじゃない!?』って叫び出してよ」


「そこからはもう大パニックだぜ。圧倒されてる一年生を突き飛ばして、先輩の女の子たちが目の色を変えて群がってきてよ。『かっこいい!』だの『サインして!』だのってな」


「いやー、参ったぜ。高校ってのは話のわかる大人が多くて天国だな」


博士が照れ隠しのように頭を掻き、智ちゃんが横で忌々しそうに舌打ちをした。


俺は小さく息を吐いた。


黒いディスクの噂を知らない同級生たちを、理屈抜きの音の勢いだけで圧倒した。そして、事情を知る上級生たちを『噂の正体』として熱狂させた。


同級生からの畏怖と、高校の先輩という立場を同時に味方につけたのなら、彼らの部室での居場所は確保できたも同然だ。


「……まあ、いいでしょう。大いにチヤホヤされてください。……ただし」


俺は傍らに置いたベースを引き寄せ、ジャックにシールドを差し込んでアンプの電源を入れた。


「ここから先は、俺のペースでやらせてもらいます。先輩たちにチヤホヤされて鈍ったその腕に、土日だけで本来の感覚を叩き直しますよ。……俺が一足先に、海の向こうへ発信した音に恥じないようにね」


「海の向こうだぁ?」


薫が怪訝そうに眉をひそめたが、すぐに鼻で笑った。俺がまた大人たちの知らないところで、何か厄介な仕掛けを用意したことだけは察したのだろう。


「……チッ、相変わらず何企んでるか分からねえ野郎だ。だが、望むところだぜ!」


薫が不敵な笑みを浮かべ、ストラトキャスターのボリュームノブを回す。


分厚い土壁に囲まれた蔵の中で、俺たちは同級生にも先輩にも遠慮することなく、腹の底を揺らすような重低音を響かせた。

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