第047話:職員室の取引
体育館を包み込んだ狂熱の暴動は、教師たちの必死の制止によってようやく鎮圧された。
主犯である薫、勝、博士、智子の四人は、駆けつけた親たちに髪の毛を掴まれ、引きずられるようにして学校を後にした。その手には、卒業証書が入った丸い筒がしっかりと握りしめられている。
親たちは顔を真っ赤にして怒鳴り散らしていたが、四人の顔には、溜め込んだすべてを吐き出した者だけが持つ晴れやかな笑みが浮かんでいた。
俺はPA卓の影から、その頼もしい後ろ姿を静かに見送っていた。
彼らはもう、大人の檻から完全に解き放たれたのだ。
興奮冷めやらぬ在校生たちが教室へと戻り始めた矢先、スピーカーからノイズ混じりの学内放送が響き渡った。
『二年三組の二条アキラ君。至急、職員室に来るように』
マイク越しにもはっきりと伝わってくる、教師の怒気を孕んだ声。
(……やはり来たか)
俺は小さく息を吐き、PA卓から手を離した。暴れ回った三年生が全員去ってしまった以上、大人たちの怒りの矛先が、音響を支配し最後まで現場に残っていた俺に向かうのは当然の理屈だった。
廊下に出ると、先ほどまで教師のバリケードとなってスクラムを組んでいた麻耶たちが、不安そうな顔でこちらに駆け寄ってきた。
「アキラくん……大丈夫? 先生たち、すごく怒ってたよ」
麻耶が心配そうに俺の顔を覗き込む。周囲の生徒たちも、これから処刑場へ向かう生贄を見るような目で俺を見ていた。
「なんとかなりますよ」
俺はポケットに両手を突っ込み、肩をすくめて見せた。
「全部、薫先輩が決めたことにしますから。俺は、怖い不良の先輩たちに凄まれて、命令されるまま無理やり機材を操作させられただけです。……逆らえるわけないじゃないですか、弱い後輩なんですから」
俺が平然とした顔でしれっと言うと、麻耶は目を丸くし、それから堪えきれないように吹き出して笑った。
「……もう、アキラくんってば」
「事実ですよ。俺はただの被害者です」
俺は麻耶たちに軽く手を上げ、職員室へと歩き出した。
卒業していった彼らの熱狂は、確実にこの退屈な学校の空気を変えた。それを守るためなら、教師たちに頭を下げ、従順な優等生のふりをしてしらばっくれる程度のコストはいくらでも払ってやる。
職員室の重い扉の向こうで待ち構える大人たちの「報復」すらも、今の俺には退屈しのぎのゲームにすぎなかった。
今回短めなので、連続投稿です。




