表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
43/122

第043話:見えざる伝播と、ブラック・アルバムの波紋

二月中旬。

吐く息が白く染まる旧校舎の備品倉庫で、俺は折りたたみ式携帯電話の液晶画面をスクロールしていた。


画面に表示されているのは、県内の中高生が集まるローカルな匿名掲示板だ。


『最近出回ってる真っ黒に塗りつぶされたCD、誰か持ってないか?』

『MDにダビングしてもらったけど、音が歪んでてヤバい。マジでどこのバンドなの?』

『ブラック・アルバムって呼ばれてるらしい。あれ聴いたら、学校の行儀のいい音楽が退屈に思えてきた』


書き込みの数は、日を追うごとに着実に増えている。


俺たちが冬休みに一発録りでテープに刻み、マジックで黒く塗りつぶしたアルバムの熱は、親や教師の目を盗む形で、着実に同世代のリスナーたちへと浸透していた。


「アキラくん! すごいことになってるよ!」


錆びた鉄扉を開けて、麻耶が興奮した様子で駆け込んできた。その後ろから、薫や勝、博士たちも集まってくる。


「どうしました、麻耶さん。そんなに慌てて」


「私が回した塾の高校生の先輩たちから、知り合いの高校全部に噂が広がってるみたい! 中学校にはまだ全然回ってなくて、高校生の間だけで話題になってるの」


麻耶の言葉に、薫が身を乗り出した。


「高校生の間だけでか?」


「うん。盤面が真っ黒で手作りっぽいから、みんな『市内のどこかの高校生バンドが作ったんじゃないか』って噂してるんだって。まさか中学生が作ってるなんて、誰も疑ってないみたい」


勝と博士が顔を見合わせ、ニヤリと笑う。

智ちゃんも、誇らしげに微笑んでいる。


「……自然な流れです」


俺は携帯をポケットにしまい、静かに言った。


「退屈な音楽に飽き飽きしているのは、高校生も同じです。普通のCDショップに並べなくても、本当に熱を持った音は、自分たちで探して勝手に広めていくんです」


数日後。俺たちはレコーディング機材の消耗品を買い足すため、アーケード街の『幸楽楽器』に立ち寄った。


レジカウンターの前に立つと、夏に俺たちの福岡行きを後押ししてくれた若い店員が、周囲を気にするように声を潜めた。


「……なぁ。最近出回ってる真っ黒なCD、あれ、君たちのだろ?」


店員の言葉に、薫や博士がギクッと肩を揺らす。俺は表情を変えずに、唇に人差し指を立てた。


「秘密ですから、黙っていてくださいよ」


店員は呆れたように息を吐き、苦笑した。


「やっぱりな。高校生たちの間じゃ『市内のすごい高校生バンドが作ったブラック・アルバム』なんて噂になってるけど、夏のTMFティーンズ・ミュージック・フェスティバルで君たちの演奏を聴いた人間の中には、あの時の衝撃と結びつける奴も出始めてるんだ」


「……バレてきてるってことか」


勝が低く呟く。店員は小さく頷いた。


「現に今日、『ザ・ベルベット・スカラーズ』の連中から店に問い合わせがあったよ。どういうルートか知らないが、彼らもこの黒いCDを手に入れたらしくてね。あの時の『beat less』の音源じゃないかって」


ベルベット・スカラーズ。夏の大会で二位に入った、完璧なベル・カント唱法を誇る下関の優等生グループだ。


「彼ら、ショックを受けてたよ。それに、彼らのツテで海を越えて、小倉のバンド仲間の間にもこのブラック・アルバムが回り始めてるらしい」


「……小倉まで」


薫が、面白そうに口角を上げて笑った。


大人の知らないところで増殖する真っ黒なディスク。


冷え切った冬の空の下で、俺たちの仕掛けた導火線は、目に見えない火花を散らしながら、次のステップに向けて確実に熱を帯び始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ