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第021話:免罪符と聖書の解放

ご提示いただいた「学年1位のままでは交渉の破綻・矛盾が生じる」というロジカルな問題点をクリアし、今後の展開(実力テストで順位を落として没収される展開)へとスムーズに繋がるよう、父親が具体的な防衛ラインとして「学年20位以内」を提示する形へと交渉内容をブラッシュアップしました。


「小説家になろう」のスマートフォン閲覧を想定し、視線誘導の改行、テンポを意識した空行、誤字脱字の修正を施した最適なフォーマットでお届けします。


第021話:免罪符と聖書の解放

ホームルームが終わり、さっさと帰宅して「親父を黙らせるための勉強」を済ませようとしていた俺の席に、クラスメイトの木原と石川秀二がやってきた。


木原は小学校からの腐れ縁で、石川もよくつるんでいる、この世界の一般大衆を絵に描いたような中学生だ。


「おい、二条。お前、最近大丈夫か?」


木原が声をひそめて聞いてくる。石川も心配そうに頷いた。


「なんか、不良の先輩たちとつるんでるって噂だぞ。音楽部辞めて、変なことに巻き込まれてるんじゃないのか?」


「心配すんな。ちょっと手伝いをしてるだけだ」


俺が適当に躱していると、教室の後ろのドアがガラリと開き、一年生のフロアには似つかわしくない威圧感を放つ三人組が顔を出した。


「おいアキラ、帰るぞ」


薫が顎でしゃくる。

木原と石川は「ひっ」と息を呑み、脱兎のごとく自分の席へ逃げていった。


俺はそのまま真っ直ぐ帰るつもりだったのだが、校門を出たところで三人に両脇を固められ、近くのファミレスへと連行された。

智ちゃんは「テスト勉強があるから」と真面目に帰宅している。


ボックス席に陣取り、ドリンクバーのメロンソーダを啜りながら、薫が身を乗り出してきた。


「なあアキラ。秋に文化祭あるだろ。あそこで俺たち、バンドで出ようぜ」


「は?」


「あの『センコー』をさ、全校生徒と教師のド真ん中でぶっ放してやるんだよ! 最高にスカッとするぜ!」


博士と勝も「それいいな!」と目を輝かせている。


俺は、少し苦笑交じりに彼らを見た。


テスト前の現実逃避が入っているのは見え見えだったが、その純粋な衝動自体は悪くない。文化祭という舞台は、俺の計画においても重要なマイルストーンだ。しかし、タイミングとやり方が不味すぎる。


「気持ちはわかりますが、今はまだ駄目です」


俺が静かに首を振ると、三人は不満げにブーブーと文句を言い始めた。


「なんでだよ! あんなヤバい曲できたのに、誰にも聴かせねえなんて勿体ねえだろ!」


「いきなりアレをやれば、確実に学校に目をつけられます。そうなれば家に連絡がいき、親父の耳に入る。俺の親父は県庁の役人ですからね。音楽を『食えない道楽』としか思っていません。バレたら最後、俺は楽器を取り上げられてバンド出禁になります。それは皆さんも望まないでしょう?」


俺の極めて現実的な指摘に、三人は言葉を詰まらせて黙り込んだ。


「じゃあ、どうすんだよ。文化祭、出ねえのか?」


「出ますよ」


俺はメロンソーダのグラスを置き、声を落とした。


「ただし、やるのは完全に『おとなしくて美しい音楽』です。合唱曲に慣れた教師や保護者たちが安心し、感動すら覚えるようなバラードだけを完璧に演奏します」


「はあ!? ふざけんな、じゃああの『センコー』はどうすんだよ!」


薫が身を乗り出して食ってかかる。


「あれは俺たちの『切り札』です。文化祭みたいな、親や教師が見張っている狭い箱で消費して、自分たちの首を絞めるための曲じゃない」


俺は、熱くなる三人をなだめるように、しかし確かな視線で見据えた。


「文化祭では、圧倒的なバラードで学校中の大人たちを黙らせるんです。俺たちが『無害で素晴らしい音楽をやっている』と錯覚させれば、それが今後、俺たちが自由に活動を続けるための最強の防波堤になる」


三人は顔を見合わせたが、まだどこか物足りなさそうに口を尖らせた。


「……頭じゃわかるけどよ。あんな大人しいだけの曲なんて、俺たちの性に合わねえよ」


「大人しいだけの曲かどうかは、テスト明けに証明してみせます。だから今は、まず目の前のテストをクリアして、俺の親父や学校に文句を言わせないだけの結果を作ってください。協力、お願いしますね」



それから一週間。俺は一切の音楽活動を封印し、自室の机に向かった。


この世界の「行儀の良い音楽」と同様、中学校の試験問題など、一度人生を終えた俺にとっては退屈なパズルのようなものだ。しかし、このパズルを完璧に解くことが、俺の自由を担保する。


そして、中間考査の結果が貼り出された日。


俺の総合点は、二位に圧倒的な大差をつけての「学年一位」だった。



その夜。俺は成績表を手に、リビングのテーブルへ向かった。


「学年一位という結果は評価する」


父は成績表をテーブルに置き、険しい目で俺を見た。


「だが、最近お前が素行の悪い上級生たちとつるんでいるという噂を耳にした。……あんな連中と、何をしている」


俺は表情を崩さず、真っ直ぐに父の目を見返した。


「一緒に音楽の練習をしているだけです。彼らは髪型や服装が少し派手なだけで、何か犯罪を犯したわけでも、学校で反体制的な暴動を起こしているわけでもありません。外見の噂だけで彼らを不良だと断じ、付き合いを禁じるのは、少し理屈が通りませんか?」


父が、わずかに眉間を険しくした。


公務員として論理と公平性を重んじる父にとって、「外見の偏見だけで他人の子供を断罪する」ことは、自らの良識が許さないアキレス腱だ。俺はそこを静かに突いた。


「……理屈をこねるな。何か問題を起こしてからでは遅いと言っているんだ」


父は不快げに声を落とした。完全には納得していない。だが、明確な禁止命令を下す論理的な大義名分を失い、行き詰まりを見せている。


その重苦しい沈黙を破ったのは、傍らで聞いていた母さんだった。


「ねえ、あなた。アキラもこう言って、約束通りちゃんと学年一位の成績を取ってきたじゃない。私は、アキラを信じているわ」


母さんが、空気を和らげるように父さんへ視線を送る。


「それに、ピアノを辞めて心配してたけど、自分から音楽を続けてるっていうなら、少し様子を見てあげましょうよ」


母の言葉に、父は深く、長いため息をついた。


「……いいだろう。ただし、これは許可ではない。保留だ」


父の鋭い眼光が、再び俺を射抜く。


「お前が彼らと問題を起こさないという保証はどこにもない。だが、外見だけで他人の子供を不良と断じることも私の本意ではない。……ならば、お前の『本気度』を数字で示せ」


父は腕を組み、冷徹に言い放った。


「今回の中間考査は学年一位だったそうだが、こんなものは最初の小テストに過ぎん。これから部活動や交友関係が本格化しても、その学力を維持できるかどうかが問題だ。今後の実力テストや定期考査において、『学年二十位以内』。これを一回でも下回ったその時点で、一切のバンド活動を禁じ、楽器も私が預かる。異論はあるか」


「二十位以内」――。


ギリギリの防衛ラインへの損切り。大人の公務員相手に、明確な数字の境界線を引かせることに成功した。


一位をキープし続けるのは物理的にリスクが高すぎるが、二十位以内というマージンがあれば、夜の自習室で曲作りに没頭するための時間を天秤にかけることができる。


「……承知しました。その条件で結構です」


俺は静かに頭を下げた。


決して盤石な勝利ではない。首の皮一枚で繋がった、薄氷を踏むような執行猶予。だが、大人たちの目を盗み、密かに計画を進めるための時間は、これで十分に確保できた。



テスト明けの放課後。


旧校舎の備品倉庫に集まったメンバーたちの前で、俺は錆びたロッカーの奥に隠していたCD-Rの束を取り出した。


盤面には油性マジックで無造作に『The Bible of "beat less"』と書かれている。


「アキラ、なんだよそれ」


「俺たちの設計図です。文化祭で学校を騙すためのバラード曲と、俺たちの切り札である『センコー』のデモが全部入ってます」


俺は少し不敵に笑って、四人に一枚ずつ、ディスクを手渡した。


「俺が一人で多重録音して作りました。家でじっくり聴いてみてください。――きっと、驚くと思いますよ」


俺は自信を覗かせるプロの顔で告げた。


だが、ディスクを受け取った彼らの瞳に宿る飢えたような熱は、到底、家まで大人しく待てるような温度ではなかった。

変身したら彼女ができたけど、正体がバレないように二重生活してます 更新しました。方向性違いますがところどころ笑えると思います。よろしくおねがいいたします。

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