表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【タイトル変わりました】ナンパモブがお仕事です。~フラれに行ったらヒロインとの恋が始まった~  作者: やまだのぼる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/65

誰だ、あいつ。

「仕事頑張るのはいいけど、プライベートはどうなんだ」

 ゾークさんが砕けた口調で言った。

「プライベートでも振られっぱなしってわけじゃねえんだろ?」

「いや、それがさっぱり」

 そう言いかけた俺の脳裏を、梨夏ちゃんの笑顔がよぎった。

 いや、違う違う。梨夏ちゃんには彼氏がいるし。

 とっさに、自分にそう言い聞かせようとしたら、次にヒロキの顔がよぎった。

 俺を殴り飛ばした時の、ヒロキの冷たい目。

 あんな奴に梨夏ちゃんを任せていいのか。

 いや、そもそも俺とあの子は違う世界の人間だし。

 一瞬のうちに頭の中を電光のようにいろんな考えが流れていった。

 そしてゾークさんは俺の表情を見てにやりと笑った。

「さっぱりってわけでもねえみたいだな」

 そう言って、山賊のようにがははと豪快に笑って酒を呷る。

「若いやつはいいな、羊」

「ええ。ほんとに羨ましいっすよ」

「どんどん攻めろ、B介」

 ゾークさんは言った。

「仕事でモブやってるからって、私生活でまで空気読んで周りに気ぃ遣う必要はねえからな」

「そうそう」

 もはやゾークさんの同意マシーンと化している羊さんが頷く。

「俺も今のかみさんにアタックしたときだけは、人生の主人公みたいな気持ちになったもんなあ」

「そういうことだ。遠慮すんな、B介」

「は、はい」

 ゾークさんたちの言うことは正しいんだろう。

 相手に彼氏がいたって、別にまだ結婚してるわけじゃない。自分の方がふさわしい男なんだって頑張れば、奪うことだってできるかもしれない。

 でも、そうじゃないんだよな……。

 俺の場合は、特別だ。

 私生活であって、完全な私生活ではない。あり得ない状況に、俺のやる気は行き場を失くしていた。

 そのときだった。

「いや、ほんとにすげえんだって!」

 モブにあるまじき、でかい声が響き渡った。

「おお」

 ゾークさんも振り返る。

「向こう、盛り上がってんな」

「若い連中は元気ですね」

 羊さんが言い、ゾークさんも苦笑気味に頷く。

「おっさんはすぐ人生とか語っちまうからな。B介、悪いな」

「いや、全然」

 俺は慌てて首を振る。

「ほんと、ありがたかったっす」

「いや、俺はお前らとは違うんだって!」

 俺の声は、向こうの誰かのでかい声でかき消された。

「物語を左右できるモブってのがいるんだよ!」

「声、でけえな」

 さすがにゾークさんが顔をしかめた。羊さんも「っすね」と頷く。

 そっちで騒いでいるグループは、ゾークさんの言葉通り、会社でも比較的若めの人間の集まりだった。A太もいる。

 だけど、騒いでるのはその中の一人だけだ。

 誰だ、あいつ。

 モブらしく取り立てて特徴もない、紺色のジャケットを羽織った若い男だ。正直、ミロさんも羊さんも分からなかった俺には、あいつが誰なのかさっぱり分からない。

 ただ、なんか妙に不穏なことを言ってるなってのは分かった。

「お前、マジで何言ってんの」

 大声で騒いでいるやつにムカついたようで、A太があからさまに不機嫌な声を出した。

「物語を左右できるモブなんているわけねえだろ。そうしたらもうモブじゃねえじゃねえか」

 粗暴系モブだけあって、そんな態度を取るとやっぱり他のモブよりも迫力がある。

「それは、古い。考え方が、古い。マジで」

 騒いでいるやつは何か熱病に浮かされたように、A太の迫力も意に介さずにまた大声で言った。

「もうそんな時代じゃないんだよ。モブだって思うがままに羽ばたいていいんだよ」

「若いやつは元気だな」

 ゾークさんが言った。

「モブの役割について、あんな風に熱く意見をぶつけ合えるんだからな」

「そっすね」

 俺も同意はした。だけど、あいつのあの言い方はちょっと引っかかる。モブの一線を超えている気がする。

「だけどあれはちょっとまずいな」

 ゾークさんも俺と同じ考えだったようで、そう言った。

「熱いのは悪いことじゃねえが、あの考えがそのまま進むと、闇堕ちしちまう。気を付けねえとな」

 闇堕ち。

 何度聞いても、その言葉は嫌な響きを持っている。

「羽ばたきてえなら、モブなんか辞めろよ」

 A太が冷たく言い放った。

「物語のモブってのは、地に足付けて地味に生きるんだよ。羽ばたくのはメインキャラの役目だ」

「モブにだって羽ばたく権利があるんだよ!」

「ねえよ」

 A太の答えは辛辣だった。

「お前が羽ばたきてえなら、勝手に羽ばたきゃいいんだ。だけど、人の物語に乗っかって羽ばたくなって言ってんだ。自分の人生でいくらでも羽ばたけ、ただし物語の迷惑にならねえところでな」

 A太の言葉はド正論だった。うんうん、と周りのやつらも頷いている。

「お前らのそういう卑屈な態度が、今のモブの惨めな立場を作ったんだろうが」

 若い男はそれにも耳を貸さなかった。

「俺はできるんだ。お前らとは違う。あの人がそう言ってくれたからな」

「あの人?」

 A太がバカにしたように鼻で笑う。

「誰だよ。よそのモブ派遣会社の社員にスカウトでもされたのか?」

「お前なんかには教えない」

 男は言った。なぜか胸を張って、優越感に満ちた目でA太を見た。

「あの人は特別な人だ。そして、俺も特別になれると言ってくれた」

 あの人。特別になれる。

 その言葉に俺はアイビーの最後の言葉を思い出した。

「ありゃ誰かが言わねえとだめか」

 ゾークさんがあくまでのんびりと言ったが、俺は立ち上がっていた。

「おい、その話」

「あ?」

 そいつが俺の方を見たとき。俺の背後で誰かが、ぱんぱん、と手を叩いた。

「えー、宴もたけなわではございますが」

 淡々とそう言いながら、森井さんが立ち上がった。

「ここらで中締めとさせていただきます。それでは、社長」

 それを合図に、みんながどやどやと立ち上がる。件の男も、気を取り直したように壁際に下がった。

 茂武社長の発声でみんなで一本締めをして、モビーの忘年会は終わった。

 幹事の寺井君は、とうとう最後まで姿を見せなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
物語が動いてきたな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ