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カモメが飛ぶ日  作者: Tohna
苦闘の始まり
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第41話 復讐の鬼、園田

 横浜クルセイダースのオフィスで、園田は不機嫌そうにタブレットを放り出した。


 画面には、昨夜のガビアータの配信が「トレンド入り」したというニュースが踊っている。


「フン、リフティングごっこの次はラジオごっこか。どこまでもおめでたい連中だ」


 園田はガビアータから解任されたことを根に持って、卑怯にも外から罠を掛けようと虎視眈々であった。


 フェイク情報を流して、スキャンダルを誘発し、ターゲットのガビアータ選手の心労を引き起こし、試合中のパフォーマンス低下を狙う。


「オレを追い出した山際のオッサンを更迭するなんて簡単だ。


 狙いはすでに定まっていた。標的はガビアータの象徴、尹龍玄ヨンヒョンだ。


 園田は知己のエージェントを通じ、尹の母国である韓国のメディアに「尹、夏にKリーグ復帰の噂。


 ガビアータの財政難が背景か」という観測記事をリークさせた。


 親会社のNDFをも動かし、横浜の圧倒的な資金力を見せつけることで、尹の心を揺さぶり、ガビアータの連敗に拍車をかけようという算段だった。

 

 第10節、アウェーでの対戦相手は昨シーズン5位の強豪、アズール西宮。

 

 スタジアム入りした尹の表情は硬かった。取り囲む記者たちから、移籍報道についての質問が矢継ぎ早に飛ぶ。


「ヨンヒョン、集中しろ」


  中野がそっと肩を叩いた。


「昨日の配信、見たか? 俺たちの後ろには島さんや祐誠さんがいる。あいつらを裏切るような真似、お前はしないだろ」


 尹は小さく頷き、スパイクの紐をきつく締め直した。


 午後二時、キックオフ。


 ガビアータは須賀川監督が仕込んだ「3-2-5」の変則布陣で挑む。


 前半、西宮の組織的なプレスに苦しめられたが、センターバックに入った中野と山口のコンビが、文字通り「身体を張った」守備でゴールを死守する。中野は、かつてのサイドバック時代には見せなかった凄まじい気迫でハイボールを跳ね返し続けた。


 転機は後半30分に訪れた。


 眞崎が巧みなステップで相手サイドバックを翻弄し、深い位置から精密機械のようなクロスを供給する。その先にいたのは、移籍報道に揺れていた尹だった。


 西宮の屈強なディフェンダー二人に挟まれながらも、尹は驚異的なジャンプ力で宙に舞った。


「逃げないヨ!」


 尹の雄叫びと共に放たれたヘディングシュートが、鮮やかな放物線を描いてゴール左隅に突き刺さった。


 歓喜に沸くゴール裏。しかし、尹はパフォーマンスをせず、そのまま観客席へ向かって指を一本立てた。


「俺たちの答えは、これだ」


 と言わんばかりの静かな、しかし確固たる意志。


 その後、西宮の猛攻を、交代で入った赤羽が冷静にいなし、タイムアップの笛が鳴り響いた。


 2-0。ガビアータ幕張、待望の今季2勝目。


 試合後の会見で、尹は流暢な日本語でこう語った。


「噂は、ただの噂デス。僕がここにいる理由は、データじゃなくて、このチームを愛してくれる人たちの熱です」


 一方、横浜では園田が受話器を叩きつけていた。


「なぜだ! なぜ崩れない!」


 その背後で、子飼いの高橋が、初めて園田に対して冷ややかな視線を送っていることに、彼はまだ気づいていなかった。


 ガビアータの物語は、親会社の呪縛と園田の謀略を撥ね除け、真の「地域密着」へと加速し始めた。


「次節まで安心しているがいい。直接対決で地獄を見させてやる」


 園田はフットボールを愛したかつてのヒーローではなく、単なるダークサイドに落ちた復讐鬼に成り下がっていた。

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