アルベラン 十二
「おいおい、随分でけぇな。なんだありゃ……」
下見に来た十五騎の獅子鷲騎兵。
眼下を見下ろしながら、大戦士ファナローが驚いたように告げる。
竜の顎から十数里ほどの距離――切り拓かれた森の中には石造りの建造物が建てられていた。
半里近くはある石の壁。
内側にはいくつもの建屋が建設されていた。
壁もまだ作りかけに見えたが、竜の顎に向く正面側は恐らく完成しており、随分な高さ。
アルベランが資材を運んでいるという噂を聞いたのは二週間前のことで、その間にこのような巨大な砦が築けるはずの時間はない。
その上、あれだけの石材――気付かれずにあれだけの石材を運べたというのがそもそもおかしい。
各地から集めたにしろ、それだけ大きな動きであれば必ず噂になるだろう。
「これが、アルベランの魔法ですか」
「魔法……?」
こちらを向いたファナローにクートスは告げる。
「バザリーシェはただの土を石へと変える魔法を使えるのだと……そういう噂話を聞いた覚えがあります。その噂が真実というのであれば、あの夥しい石材の山はここの土が変化したもの、ということになるでしょう」
「何を言い出すかと思えば……何だ、お前はバザリーシェとかいうお姫様が本当に神の落とし子だとでも?」
「いいえ。まやかしでしょう。そのような力が本当にあるのなら、あの工事も既に終わらせているはず。土を石に変えれるような力を持ちながら、何故それが出来ないかは疑問です」
クートスはそう言って、ファナローに目を向けた。
ファナローも決して頭は悪くない。
流石の大戦士も眼下に出来上がる砦には驚きを隠せない様子であった。
あれだけの石材を運ぶのはどう考えても無理だと言うことくらい理解している。
普通に考えれば十年単位の時間が掛かるし、それだけの石材を切り出すのは並大抵のことではなかった。
ファナローの不安を取り除いてやりたい訳ではないが、多少頭の回る人間であればその内に誰かは察しが付く。
「土を石に変えるような何かしらの技術をあちらが持っていることは確か……それによってあの石材を手に入れたのでしょうが、ただ、言われているような神の力を操る相手ではありません」
「だよな。ちょいと驚く光景ではあるが……」
「とはいえ、あれだけの人数を束ね、働かせているというだけでも恐ろしいことではありますが……」
森の中には石材同様、夥しい数の天幕。
作業している人間は百や二百という数ではない。
最低でも数千の人間がこの一帯に集まり、建設や伐採などの各種作業に従事していた。
遠目にもそれと分かる戦士が無数にいた。
命じられたからと、このような作業に皆が喜んで従事するはずがない。
だが、無数の班に分かれて男達は作業を行っており、皆が文句を言わず作業へと従事していた。
数千人を超える戦士達を、己が意のままに掌握する。
バザリーシェが魔法を使えるとするならば、むしろ魔法はそちらであろう。
恐怖ではない。
鞭で打たれているものの姿はなかった。
その上、こちらを見上げて笑っている姿さえあった。
「数を揃えたからって俺達を舐めてやがんのか? ムカつくな……」
「ファナロー殿、戦士長からの厳命です」
「挨拶するくらい構わねぇだろ。俺達を見て笑ってやがるんだぜ? 下等な戦士崩れに侮辱されたまま帰れってのかてめぇは」
「仮に連中を怯えさせて散り散りにさせれば、バザリーシェを見失う可能性もあります。……いかにファナロー殿とて、無罪放免とはなりますまい」
クートスを睨み付けたファナローは舌打ちし、わかったよ、と告げる。
「俺達を笑ってくれた礼に槍を一本くれてやれ。二本はやらねぇからしっかり狙え」
その言葉に周囲の騎兵達は笑い、降下したファナローに続く。
クートスはうんざりしたように嘆息しながら、その様を上から眺めた。
降下した勢いのまま滑空しての投槍。
頭上に向かって槍を投げられる人間はいないし、弓を持つ連中はほとんどいない。
角笛が鳴り響き、多くの者が建築中の壁にある荷車か何かを見るのが分かった。
思えば、こちらが現れてからずっと、その荷車の周囲に人間が集まっていた。
よく見ると荷車にしては隙間が大きく、妙な形。
考え込むクートスの眼下で滑空に入ったファナロー達の姿が見え、砦の内へと潜り込んだ瞬間に鐘の音。
「っ……!?」
荷車と思っていたものが一斉に動き、何かを投擲する。
放たれた何かはすぐに広がり、槍を構えていた騎兵達に向かって飛翔。
ファナローを含めた数騎は咄嗟に気付いて獅子鷲を操り、上空へと逃げ出すが、逃げ損ねた内の五騎はそれに絡め取られて落下する。
流石にクートスも獅子鷲を降下させ、ファナローのところへ。
砦では落下してきた獅子鷲騎兵達に男達が群がり、斧を叩き付け、あるいは剣を突き立てていた。
獅子鷲と男達の悲鳴が空にいるクートス達にまで届いた。
「くそったれ! なんだあれは……!?」
ファナローは顔を歪め、今の一瞬で全身から汗を吹き出させていた。
逃げ切れた男達も同様、顔を青ざめさせている。
完全に網に絡め取られた獅子鷲は殺さず捕らえるつもりなのか。
暴れる獅子鷲を力尽くで押さえに掛かっていた。
多くの男達はこちらへと指を突きつけ、呵々大笑。
コケにされて怒りを露わにするファナローに、叫ぶように伝える。
「ファナロー殿! ……五騎を失い、この上まだ続けるおつもりですか?」
「てめぇ……」
「冷静に。……報告が先です。あちらが獅子鷲に対する備えをしているというのは分かりました。五騎を失ったのは痛手とはいえ、ここで止めるならばまだ偵察として戦士長に申し開きも出来ましょう」
ファナローはその言葉に怒りを見せたまま、舌打ちをする。
行くぞ、と告げるとファナローはそのまま竜の顎へと向かって飛び去り、眼下からは歓声が響いた。
クレィシャラナの象徴たる獅子鷲を五騎落とされ、その上に二頭を捕らえられたとなれば流石のファナローも激怒されるだろう。
殺されはせずとも相応の罰は確実であった。
多少の擁護をしてやるべきか、それとも静観するかを少し迷いつつ、眼下を眺める。
あの石の壁に、高速で滑空する獅子鷲を狙い落とす、得体の知れないあの木組み。
そしてあれだけの戦士達を束ね、己に従わせるバザリーシェ。
かつてクレィシャラナが圧倒した部族達の連合とは同じ相手ではないだろう。
空を支配するクレィシャラナの戦士達。
対する戦士達が掲げる真紅の旗には、天へと突き立てる剣の意匠。
無知蒙昧な、驕り昂ぶった愚か者などではない。
知った上で、分かった上で、その上で空の覇者たるクレィシャラナへ剣を向けるつもりでいるのだ。
陽光に輝く刃を見ながら、何かが混ざり合った感情が胸で踊るのを感じていた。
結果としてファナローは戦士長ドットリアスに戦士達の前で罵倒され、今後一年、竜の顎の管理を任された。
許可なく竜の顎を離れることは許されず、実質的な軟禁。
当然ながら、集落を襲い、略奪するような行為に参加されることも許されない。
内心の不服を浮かべつつも、ファナローも戦士長の命令とあらば従う他もなかった。
上位の戦士に対しての反抗は、実質的な処刑宣告。
権威を振るった者に対して反抗を見せ、不興を買えば、命じられるのは決闘。
いっそ殺されればまだマシだろう。
決闘中に手足を切り落とし、二度と剣を振るえぬようにする場合もあった。
クレイシャラナにおいて、戦えぬ男には価値を認めない。
それが戦というのであればまだしも、決闘で命を奪わず、あえて手足を切り落として生かすというのは実質的な見せしめでである。
そして戦士長ドットリアスにはそうした前例がいくつかあった。
一人を除けば皆、半年と経たずに自死を選び、両手と片足を切り落とされ、それさえ許されなかった者は数年経って尚、生かされ続けている。
一度高みを味わった戦士にとって、最下層へと叩き落とされる苦しみは筆舌にし難いもの。
生き残った一人はかつて、大戦士の一角として知られた剛健な男であったが、もはやかつての見る影もなく、殺して欲しいとドットリアスに慈悲を乞うばかり。
矜持などとうの昔にへし折れ、命じれば獣とさえ交わるであろう男を見る度、ドットリアスはいつも、愉快そうに笑う。
『手足を失えど、俺と渡り合った戦士を手に掛けるわけにはいかない』
などと、見せかけばかりの慈悲を語って。
圧倒的な強さと残虐性。
決闘の理由はドットリアスへのちょっとした口答え。
それが丁度、己が権力を絶対的なものとしたいという理由に噛み合った結果、大戦士の一人を生かされるだけの家畜へと変えた。
そんな男に対し、逆らおうと考える者などいない。
大族長もまた、戦士長のそうした躾けに口に出さないというのが暗黙の了解。
戦士長は次代の大族長――老後のため、戦士長を優遇するし、戦士長もまた大族長の持つ絶大な権力を恐れ、内心はどうあれ顔は立てる。
ただ、大戦士の一人二人を平然と殺してしまえるのが戦士長という存在であることは確かであり、今代の戦士長、ドットリアスは傑出していた。
大戦士たるファナローですら、怒りの一瞥を向けられれば全身を震え上がらせ媚びへつらう他はない。
多くの集落が服従を誓ってからは小競り合いしか起きることがなかったクレィシャラナにとって、久しぶりに史へと刻まれるであろう大いくさ。
だというのにたかが偵察で五人の戦士を失い、二頭の獅子鷲を捕らえられたとなれば、それを任せられたドットリアスの顔に泥を塗るような失態であった。
本来であれば死は免れなかったであろう。
とはいえ、獅子鷲を落とす妙なカラクリを相手が有しているという情報は大きなもの――結果として安い損失であるとファナローは命拾い。
クートスが一応のフォローをしてやった結果であった。
別段、ファナローの命が惜しいと感じた訳ではない。
ただ、あちらの狙いを見てみたい、とそう思ったのだ。
報復か待ちかで迷うドットリアスに、同様の仕掛けが各集落にある可能性がある、とクートスは伝えた。
『近隣の集落にも獅子鷲に対する多少の備えがあると見て良いでしょう。無用な被害を被る可能性もあります。我等の力を知らしめ、恐怖を植え付けるのは、首魁たるバザリーシェを捕らえてからでも遅くはないでは?』
『……確かに。腐っても大戦士の一角を任されたファナローあってこの様……どう動くにしろ、まずは不遜なバザリーシェとやらの顔を拝んでからでも遅くはなかろう』
ドットリアスは失態を取り返すべく、油断を改め万全で挑むだろう。
それに対し、バザリーシェとやらはどのように動く気なのか。
石を積み上げた巨大な壁は、確かに驚くべきものであった。
とはいえ、獅子鷲に対して意味がないどころか、こちらが奪えば竜の顎南部に対する侵攻拠点として非常に良い位置にあった。
連中に建築させておくのも悪くはない、と考えたようで、一週間を待ち、それで動きなければこちらから動くということで決まる。
どう出て来るかと考えたクートスであったが、あちらが動き出したのは翌日。
ドッドリアスやクートスを含む、五百騎近い獅子鷲騎兵が竜の顎の上空へと上がる中、目にした光景は異常なものであった。
「……バザリーシェとは、ここまでの存在なのか」
正確な数は分からなかった。
あの砦周辺の森から多くの戦士が現れたかと思えば、生き物のように集合し、歩調を合わせて堂々とこちらへ向かって歩いてくる。
大きく四つの塊になった長方形の集団は横並びに。
遠くこちらへも一定のリズムで太鼓の音が響き、無数の旗が等間隔にずらりと並ぶ。
数千ではなく、優に万を超える戦士達が、一糸乱れぬ行進を行っていた。
数千人が文句を言わず、作業に従事する。
そんな昨日の光景を目にしたクートスでさえ、信じられない光景であった。
縦と横の列を合わせ、ただ歩調を合わせる。
一見簡単なそうに見えて、これほどに難しいものはない。
部族同士の上下関係、部族内での上下関係。
戦士と呼ばれるものの多くは、建て前であっても矜持に生きる者達であった。
クレィシャラナは当然、クレィシャラナの支配する無数の集落でさえ、目に見えない多くの上下関係が結ばれていた。
文化もまたそれぞれ異なる。
若者が先頭を進み勇気を見せるべきとする文化もあれば、熟練の戦士にのみ先頭を進む栄誉が与えられると教えられる文化もある。
それを破ること自体が無礼な行為であると重罰とされる文化もある。
仲の良い部族同士を纏めて歩かせるのが精々。
しかし、こちらへと向かってくる戦士達は横並びであった。
上下関係も文化も意思も、何もかもを無視して、型枠に押し固めたかのような整然とした行進。
どうやって歩調を合わせているのか。
何故あれほどに美しい長方形を描けるのか。
様々な理由は思い浮かんだが、その実現がどれほど難しい事かを考えれば、もはやアルベランたるバザリーシェの魔法としか考えなかった。
数千数万の人間の意思を奪い、操る力があるのではないか。
そう考える方がずっと、理解しやすい光景であった。
あの石壁や獅子鷲騎兵を落としたカラクリなど、この光景の前には些事である。
そう断言出来るほどに、アルベランの率いる戦士達は異様であった。
戦士達は皆、困惑と動揺、そして怯えを見せていた。
そんな乗り手の意思を読み取るように、獅子鷲たちもまた同様。
一部の獅子鷲は暴れ、それに連鎖するように怯えた声で鳴き喚く。
「――鎮まれぃッ!!」
響いたのは右手――戦士長ドットリアスの大音声。
空間そのものを震わせるような絶対者の声に、誰もが身を強ばらせ、暴れていた獅子鷲すらが怯えたように落ち着きを取り戻す。
「クートス! 貴様の見たカラクリとやらは見えるか!?」
「っ、は! 確認出来ませんッ!!」
「間違いないな?」
間違いがあれば、死すら生温い末路に到るだろう。
ドットリアスの目は、そういうものであった。
「私が見たものは荷車ほどの大きさがありました!! それらしきものは連中の周囲に見当たりません!!」
「よし! ――これより一斉投槍を仕掛ける!! 地を這う愚か者にクレィシャラナの戦士とはどういうものか、思い知らせてやれ!!」
まずは十分に引きつけ、降伏を求める、という話であった。
バザリーシェの身柄を素直に引き渡せばそれで良し――後は恐怖を教え込むだけ。
交渉が決裂するのであれば、そのまま開戦。
一斉投槍を仕掛け、力の差を見せつける。
だが、完全に騎兵達は敵の異様さに呑まれていた。
この状況で降り立ち、交渉を求めるなど沽券に関わると考えたのだろう。
山の頂上から現状を見ている多くの戦士達は、クレィシャラナの従属部族。
当然事情を知らされてなどいないし、この状況での交渉など、クレィシャラナが眼前の異様に恐れをなしたと捉えられかねない。
「――クレィシャラナの戦士達よ、このドットリアスの背中に続けッ!!」
声と共に大きく愛騎を羽ばたかせ、降下。
戦士達はすぐさまそれに続き、降下する。
短慮ではないか、と考えるも、他の連中と同様、続くほかない。
少しでも遅れれば臆病者として吊し上げられ、それを理由に殺されるだろう。
急速で降下しながら敵を見れば、一斉に停止。
何とも鮮やかな、一糸乱れぬ連携。
少し遅れて、大きな角笛の音が耳に届いた。
集団の最後尾には馬に乗った者達がいたが、彼らもまた一斉に下馬。
配置的には中央の最後尾――そこで騎乗していた三人の内、一人は女。
馬に横乗りをしており、身に付けるものは鎧ではない。
近づけば銀色の長い髪だと理解も出来た。
あれが恐らくはバザリーシェ。
馬の荷から槍を取るのが見えた。
急速で降下した獅子鷲騎兵は次々に滑空状態へ。
角笛と太鼓の音が鳴り響いていた。
どこか規則的なリズムで鳴らされる二つの音。
戦士達は恐らく音に合わせ、一斉に大きな盾を構えていた。
果たして、あのバザリーシェの獅子鷲への対策は盾で受けるだけなのか。
まずあり得ない、とほんの少し他の者より上空で滑空態勢に。
ドットリアスは完全に、バザリーシェの周囲にある護衛を仕留める気であった。
多くの者がそれを狙い、狙いはバザリーシェ以外だとドットリアスが吠えた。
そしてほとんどの戦士達が槍を手に取り、投槍の体勢に入ったタイミングで、
「っ……!?」
前と頭上に盾を構えていた者達が、角笛の音と共に一斉に姿勢を屈める。
姿を現わしたのは、弓を持った夥しい数の男達。
太鼓の音と共に一斉に放たれるのは太陽が翳るほどの矢であった。
「――レヴ!!」
比較的後方――高い場所を飛んでいたクートスは咄嗟に叫び手綱を引く。
愛騎レヴはすぐさま滑空をやめ、急上昇。
寸前のところで回避をしたが、クートスより前にいた連中はそうではない。
頭上を矢で覆われ、敵集団の上空を潜る間に放たれた矢の雨により無数の獅子鷲と戦士達が悲鳴を上げて落下する。
元々敵後方に固まっている騎馬――そちらを狙って深く滑空していた。
矢雨を潜るために更に高度を落とした結果、翼による風圧が意味をなさぬほどの距離で矢を受けた結果である。
先頭集団は何とか矢雨を潜り抜けたが、声を張り上げていたドットリアスの愛騎が上昇のための羽ばたきと共に突如悲鳴を上げ、力を失い落下。
銀の髪のバザリーシェ――その手から放たれた槍が獅子鷲の胴を貫通していた。
そしてその落下地点に踏み込んでいたのは側にいたはずの二人の男。
高所からの落下に関わらず、愛騎を蹴って衝撃を減衰したドットリアスはやはり剛の者であった。
大地を転がりほぼ無傷。
その状態にありながら腰の曲剣さえ引き抜いていた。
しかし大男の剣を躱すまでが限界。
跳躍した先に回り込んでいた銀鎧の男に首を一閃――大剣は小枝でも払うようにあっさりと、クレィシャラナ戦士長の首を跳ねた。
敵の中に落ちた戦士達はやはり、剣や槍を突き立てられ、獅子鷲と運命を共にした。
大戦士や戦士の一部は敵中に孤立しながら奮戦するものもあったが、しかし数の差は絶対であり、そしてあちらの戦士も脆弱ではない。
すぐに悲鳴を上げて骸となった。
軽く見た限りでも、獅子鷲騎兵の半数以上が失われているように思えた。
『――初めまして、クレィシャラナの皆様』
空へと響く少女の声音――魔力を用いた拡声術。
眼下の少女は腰の剣を引き抜くと、クートス達を見上げていた。
『わたしの名はバザリーシェ。……どうぞこれより、お見知りおきを』
声を響かせ、天へと――クートス達へと突き立てるはその切っ先。
地が割れ天が裂けんばかりの歓声と咆吼と共に、無数の刃が天を穿つように向けられる。
ただ一言と共に繰り返される狂信者達の声と共に、真紅の旗が揺れ棚引く。
クレィシャラナが見下ろしてきた全てが、反旗を翻すかのように。
描かれるはただ、天へと突き立つ剣の意匠。
眼下の大地から向けられるその切っ先は、まるで喉元まで迫るかのよう。
「……これが、アルベラン」
様々なものが入り交じった感情が、己が声さえも震わせた。





