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子供ができない女と離縁された私は、七人目の継母としてワケあり伯爵家に嫁ぐ【連載版】  作者: セトガワ トウ


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4話 6人目の継母

 グルーズ魔道具店は歴史あるお店で、初見だと少し敷居が高く感じる。

 元貧乏貴族の私が戸惑う横で、アジュとヨルズは気にもせず中へ入る。

 おぉ……威風堂々とした姿。憧れる。


「わー、杖がいっぱいある! あっちにいってみようよ」

「お待ちください、坊ちゃま。走ってはいけませんよ」


 中に入るなりアジュが走り出し、ヨルズが慌ててそれを追う。

 少し緊張しながら私も足を踏み入れる。

 店内は広く、杖や魔道具、雑貨などが整然と並べられていた。

 アジュとヨルズは一番奥にある杖のコーナーに行ったみたい。

 私も向かおうとしたら、黒髪を後ろで一つに結った女性が寄ってくる。

 白いブラウスの上からエプロンをつけている。二十代後半くらいの綺麗な人だ。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件かしら?」

「こんにちは。子供の杖を探しに来たのです」

「あぁ、アジュ様の侍女の方ね」

「いえ、侍女ではないのですが」

「あら……。では、どういったお立場の方かしら?」

「アジュの母親になります。母と言っても継母ですけれど」

 

 そう告げた瞬間、柔らかな笑みを浮かべていた女性の眉間に、わかりやすく皺が寄った。

 え? なんでこの人こんなに怒ってるのだろう。私、何か気に障ること言ったかな……。

 彼女はすぐに表情を穏やかなものに戻した。


「アジュ様の新しい継母なのね。それはそれは、とても大変なことで」

「いえ、大変なことはないのですが……。今日は杖を探しに来ました」

「杖ねぇ。アジュ様は杖を使うことなんてないと思うけれど」


 アジュのことに詳しそうだけれど、一体どういう関係なんだろう。

 それにしても、明らかに態度が変わった。

 毒があるような話し方に、冷えた目。


「最近アジュが魔法を使えるようになりまして。どんどん成長して杖が壊れてしまったんです」

「アハハハ! アジュ様が魔法を使うわけないでしょう。そもそも杖だって大嫌いなはずよ」

「いえ、アジュは変わったんです。ほら、あちらのコーナーで楽しそうに探してるじゃないですか」


 彼女は奥にいるアジュの方に視線を伸ばし、訝るような顔を隠さない。

 私は疑問を抑えきれない。

 一つ、質問する。


「あの、失礼ですけどアジュとはどういったご関係ですか?」


 私の質問に対して、彼女は片笑みする。待っていました、と言いたげに。


「申し遅れましたわ。私はこの魔道具店の副店主で、アジュの元母親でもあるのよ。六番目のね」

「えっ!?」


 まさかの元継母発言に私は驚いてしまう。


「私の名前はレイラ。以後お見知りおきを」

「わ、私はユミルと申します。元継母の方に会えるなんて想像もしていませんでした! 正直驚いています」

「ええ、私も驚いているわ。すでに七人目の継母をあの方が取ったということに。でもあなたも大変ね。あの方はいつも忙しくて妻の相手なんかしないし、子供であるアジュ様も母親なんか嫌っている。さぞかし辛い毎日なのでしょうねぇ」

 

 口では同情してる風だ。

 けど、少し楽しそうな表情を隠せていない。


「確かに旦那様はなかなか帰ってきませんが、アジュはとてもいい子なので、毎日が楽しいです」

「アハハハハハ!」


 何が面白いのか、彼女はお腹を抱えて笑い出す。小馬鹿にしたような感じで、結構不愉快に感じる。

 さっきから、目が完全に私のことを見下しているのよね。


「あら失礼。でもあなたの言動があまりにもおかしくって」

「おかしい?」

「アジュ様がいい子って部分。あの子は誰にも懐かない。怒ってばっかりの子よ」

「最近は、よく笑いますよ」

「へぇ? なら懐いてる証拠を見せてよ。そしたら認めるし、非礼を詫びるわ」

 

 この人は私に恥をかかせたいのだ。

 さすがに舐められっぱなしは癪に障るかも。


「わかりました。ただ、なにをすれば……」


 なんて迷っていたところ、アジュの方から私のもとに駆け寄ってくる。

 ヨルズもその後を慌てて追いかけてきた。


「ねえねえ、ユミルさん! 一緒に杖みようよっ。いっぱいあるよ〜」


 アジュの様子を見たレイラは驚愕する。

 彼は私のことをつぶらな瞳で見上げ、さらには服の裾までぎゅっと握ってくる。

 そこで、頭を軽く撫でてあげる。

 すごく嬉しそうにニマッとした。


「これで、どうでしょうか?」

 

 私はレイラを見つめる。

 彼女は大口を開けて、顎が外れそうになっていた。


「う、うそよ、一体全体どういうこと!?」


 取り乱しながらも、彼女はアジュに尋ねる。


「ねぇアジュ様、魔法が使えるようになったというのは本当かしら?」

「……えーと、うん、まあね」


 アジュは目を合わせずに返答した。

 やはりレイラにはあまりいい感情を抱いていない。


「……なら杖を選びましょう。ついてきて」


 レイラは一切謝ることもなく杖のコーナーに私たちを案内した。


「お望みの杖はどれ?」

「僕ね、あれがいいなって思ってるんだ」


 アジュが指差したのは、壁に飾られた灰色の杖だ。


「竜骨を使った杖ね。でも曰く付きよ。魔力をなかなか通さないし、非常に扱いづらいわ。この間も、王宮の魔法使いが諦めていたし」

「でも、僕はこれがいいんだけどなぁ……」

 

 私はピンとくる。

 魔法を通しにくい。

 必ずしも悪くはない。

 特に今のアジュにとってはそうだ。

 魔力が強すぎる彼は、制御に課題がある。杖側が抑制してくれるなら、むしろ相性は良いかもしれない。

 レイラが壁から杖を取ると、訳知り顔の客たちが集まってくる。


「おっ、またチャレンジするやつがいるのか。無謀だな〜」

「しかも子供じゃないか!? 無理に決まってるって」


 客の様子から、多くの人が挑戦して徒労に終わった過去が想像できる。

 緊張気味なアジュに、私は声をかける。


「前の杖みたいに、そっとじゃなくていいのよ。一緒に手を繋いで元気に遊ぶイメージで、魔力を通してみて」

「うん、やってみるね」

 

 アジュは目を閉じて、杖を握った手を伸ばす。

 変化はすぐにきた。

 杖の先からまばゆい光を放つ。

 さらに店内の他の杖がわずかに震え出す。

 竜の目覚めに、呼応しているかのように。

 ああ……やっぱりこの子、とんでもない天才だ……!

 最も感情を露わにしたのはレイラだ。


「信じられない……! あのアジュ様が竜杖を扱えるなんて!?」

 

 もちろん、ヨルズや他の客たちも驚嘆していた。

 

「アジュ、感触はどう?」

「すっごくいいよ! ユミルさんの言う通りに、太陽の下で一緒に遊ぶイメージをしたんだ!」


 光が生まれたのはそれが関係したか、あるいは杖からの返答か。

 アジュは私の近くにきて、おねだりする。


「これ、買ってもらえないかな? だめかなぁ?」


 うん、いくら高くても全然買うよ〜。

 と言いたいところだけど、レイラが売ってくれるか怪しい。

 彼女は深刻でありながら、どこか泣きそうな顔で話す。


「アジュ様、私のときとは全然違う……。私とこの人は、なにがそんなに違うの?」


 アジュは少し考えて、自分なりの答えを口にする。


「ユミルさんは……ちゃんと僕を見てくれるから」

 

 短いけれど、核心をついていたのだろう。

 それ以上、レイラが追求することはなかった。いや、なにも言えなかったのかもしれない。   


 杖は売ってくれるらしい。

 そして、値札に書かれていた金額の半分しか要求されなかった。


「値段、間違ってません?」

「あなたにはまだ謝っていなかったからね。これはお詫びのしるしよ」


 あ、約束ちゃんと覚えていたんだ。


「アジュ様があんなに懐くなんて──悔しいっ。……でもあなたは、いい母親なのね」

「いえいえ、そんな」


 非を認めてくれたし、もう水に流そう。

 購入した杖を手に、私たちは帰路につく。

 アジュがものすごくはしゃいでいる。杖に頬ずりまでしちゃって。


「今日は一緒に寝るんだぁ!」

「よかったわね。その杖とも仲良くなれそう?」

「うん、買ってくれてありがとうね、ユミルさん。すっごく大事にするね」


 弾けるようなアジュの笑顔。

 杖を買いに来て、本当によかった。

 ヨルズも心なしか満足そうな顔をしている。

 

「旦那様が見たら、目玉が飛び出るかもしれません」

「大袈裟よ。でも、驚かせてみるってのは悪くないわね」

 

 全然交流のない旦那様も、そろそろ帰ってくるらしい。

 いまのアジュをみたら、あのクールな彼も目を丸くしてくれるかな。


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お読みいただき、ありがとうございました。

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