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後悔に苛まれていたら、年上のダウナー系お姉さんを飼うことになりました。  作者: 紙木 侑


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第22話 行為の意味

「ん……」


 自然に目を覚ましたのはいつぶりだろうか。


 手元のスマートフォンを見ると。時刻は午前九時過ぎ。昨日は二十二時過ぎに寝たはずなので、十時間以上寝たことになる。


「んー……」


 よく寝たと言わんばかりに大きな伸びをして寝返りを打つ。すると目の前に、見知った顔が飛び込んできた。


「っ……!?」


 思わず声をあげそうになってなんとか抑える。


 ——びっ、くりした……なんで……。

 ——いや、なんでも何もないか……。


 寝起きで冴えていなかった頭が段々と覚醒してきて、ようやく目の前の状況を理解し始める。


 昨日は職場の同僚——赤塚凪の家に泊まり、彼女のベッドで眠りについたのだった。だから目の前に凪の顔があっても不思議ではない。


 ——安心しきった顔して眠っちゃってさ。


 信用されているのか、人畜無害だと思われているのかわからないが、もう少し危機感を持って行動してほしい。前者からの行動だと信じたいが、その信用を一瞬で気の迷いで失うのは惜しい。だから絶対手は出せない。

 ——やっぱり試されてる……?


 そこまで考えて、凪がそこまで思考巡らせて行動できるタイプではないことを思い出す。彼女はまず動く。見ていて不安になるところはあるが、大体うまくいってるから不思議だ。


 凪は凪がしたいように動いているにすぎない。だからきっと心の底から、悠人なら何もしないと思っているのだ。そんな信用を裏切るわけにはいかない。


 ——にしてもやっぱり、可愛いな。


 起きないことを祈りつつ、悠人は改めて凪の顔をまじまじと見つめる。


 真琴の顔を綺麗系とするなら、凪の顔は可愛い系。元々綺麗系の顔が好きだったが、凪と仲良くなってからは可愛い系も好きになった。人間単純なものである。


「……」


 その顔をたっぷり堪能してから、朝食を作るために悠人はベッドから出た。今日は朝から夜までご飯を作るという凪との約束がある。


 昨日それなりに食材を買いこんでいたので、冷蔵庫の中身はそれなりに充実している。これなら満足のいくものができそうだ。昨日拾ってくれた感謝を込めて、悠人は料理に取りかかる。


◆


「今日はどうします?」


 朝食を食べ終え二人はソファの上でまったりしている。悩んだ結果、フレンチトーストと付け合わせ数品を作り、凪には美味しいと言ってもらえ、悠人は朝から気分が良かった。


「うーん……。というかそれ、俺が決めていいの?」


「もちろんです」


「もちろんなんだ……」


「ゆっくりしますか?」


「そうね……」


 少しは元気になったが、まだフル回復までは至らない。今日は一日療養したかった。


「うん、今日はのんびりしたいかも」


「わかりました。でも明日は外出しますからね! 日を浴びないと人間腐っちゃいますから!」


 悠人の我儘とも言える意見を尊重しつつ、凪は明日の予定までも決めてしまった。置いてもらっている身分なので文句はないし、荷物持ちでも何でもやるつもりだ。


「わかった。明日は出かけようか」


「はい! じゃあ今日は映画見ませんか? 観たかったやつがサブスクに来たんですよ」


「よしそれを見よう」


 その言葉を聞いた凪はいそいそと準備を始めた。テレビの用意はもちろん、飲み物やお菓子まで完璧だ。映画鑑賞を楽しむことにも本気で、実に凪らしい。


 動くなと言われた命令を忠実に守り凪を待っていると、準備を終えた凪が悠人にぴったりくっつくような形で座ってきた。


「お待たせしました」


「うん、色々ありがとう。でもちょっと近くない?」


「気のせいじゃないですか?」


「あ、そういう感じね」


 結局凪がピッタリくっついたまま、二人は映画を鑑賞し始めた。


 ジャンルはパニックホラー。正直あまり得意な内容ではないが、物申す権利など悠人にあるわけがないので大人しく観るしかない。


 凪は優しいから悠人が嫌だと言えばきっと映画を変えてくれるだろう。だが今は何よりも凪に百パーセント楽しんでほしかった。そのためなら多少の我慢は厭わない。


 映画が進んで徐々に緊迫感が増していき、思わず息を止めてしまうようなシーンが続く。そんな状況で、悠人の右手が何か温かいものに包まれた。


 それは小さくもどこか安心感のある凪の手だった。思わず凪の顔見るが、当の本人は気にした様子もなく画面に観入っている。


 ——どうしたらいいんだ、これは……。


 この状況が嬉しいと問われれば、イエスと答えるしかない。可愛い女の子に手を握られて喜ばぬ男などいないからだ。


 だからと言って握り返せるかと問われれば、答えを出すことはできない。きっとやろうと思えば、この場の感情や雰囲気に流されて握り返すだけではなく、事を進めることだって出来るだろう。


 けれど、動けなかった。動かなかった。そのどちらも、自分にはする資格がないと思えるから。


 凪の手を握り返すことも、振りほどくこともせずに、映画はエンドロールを迎えた。


◆


「いやあ面白かったですね!」


 エンドロールを最後まで見た後、凪はそう言いながらパッと手を離した。それを少し淋しいと思ってしまう心があることを自覚しつつも、それを口に出すことは許されない。


 その代わりに、


「そうだね、特にあそこ良かったよね——」


 そう、凪のテンションに合わせ映画の感想を交わす。

 映画自体は非常に面白く、途中で集中力を失いかけたが、そこから再度映画の世界に引き込まれるくらいには完成度が高くて、パニックホラーが苦手な悠人でも楽しめた。


「この後はどうする?」


「どうしましょうね」


 映画の感想を話し終えた二人は、今後の予定に悩んだ。


 時刻はお昼過ぎ。通常の流れなら昼食を食べるような時間だが、朝食をしっかり摂ったのでまだお腹は空いていない。

結果、短めの映画を見てから昼食を摂ることになった。


 そしてその後は、本当に怠惰の限りを尽くしたように思う。昼食を摂って、二人で並んで寝転んで、昼寝して、動画サイトで動画を垂れ流したり、一つのスマートフォンで一緒にショート動画を見たり、きっと凪と同棲したらこんな日々もあるだろうなと想像してしまう、そんな過ごし方。


 それが妙に落ち着いて、なんだか一生このままでいいような気さえしてしまう。考えないといけないことがあったはずなのに、もういいかと思ってしまう程の居心地の良さが悠人をここに縛り続ける。


 すべき事から目を逸らして、悠人はまた、夢に堕ちていった。

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